31話
信長「なんだ権六、貴様俺を笑いに来たのか?」
信長にいちゃんが声をかけた勝家さんにそう話しました。
ちなみに権六って言うのは勝家さんの別の呼び名であまり本名の勝家って呼ぶ人は少ないんだって、僕は本名の方で呼んでいるんだけどね。
勝家「笑うなどとんでもない、吉法師様ではその女に勝てぬと申しただけでございます」
信長「なに? 俺がこの女に勝てないだと、舐めるなよ」
勝家「もし本気で勝てると思っておられるのなら一から剣術をやり直した方が良いと思いますぞ」
信長「……くっ」
はぅ、勝家さんってズバッとそう言う事を言っちゃうよね。
間違いではないんだけど、もう少しオブラートに包んだ言い方とか覚えた方がいいと思います。
勝家「まあ冗談はそのくらいにして。拙者も一度その女と手合わせをしたいと思っていたところ、よろしければこの場は拙者に譲って貰えませんか?」
信長「ほぉ、権六、貴様もこの女とやってみたいのか」
勝家「はっ、先日勘十郎様のお供でその女と行動を共にしたのですが、その時はその女の力を見る機会がなくどれほどのものかと一度手合わせしたいと思っていたのです」
信長「ほぉ、そんな事があったのか」
勝家「はっ、そのような事もありますし、先ずは家臣の某が相手をしてソレから大将の吉法師様が相手をするのが筋。お譲りいただけるとありがたく存じます」
あっ、勝家さんもちゃんとフォローみたいな事はできるのね。
うん、これならお前弱いからチェンジみたいな話にはならないし、いいんじゃないでしょうか。
信長にいちゃんが弱い訳ではなくて桜が強すぎるだけなんだけどね。
信長「そう言う事なら譲ってやっても構わんが。だが負けるなよ。なんとしてもあの女を倒すのだ」
はぅ、信長にいちゃん悔しかったんだね。
言動がちょっと過激です。
勝家「はっ、勝てるかどうかは分かりませんが、全力で相手をする事は誓いますぞ」
信長「むっ、権六がそこまで言うとはあの女はそんなに強いのか?」
勝家「さて、やってみなければ分かりませんが、案外アッサリ勝負が決まるかもしれませんな」
信長「そうか、手を抜くなよ」
勝家「はっ」
勝家さんはそう話すと信長にいちゃんと場所を変わりました。
勝家「桜と言ったな。儂と思う存分試合おうではないか」
桜「…………」
桜がまだやるのって困った顔で僕を見ています。
どうしよう、この流れで面倒くさいからヤメましょうって訳には行かないみたいだし、とりあえず頷いておきましょう。
勘十郎「……こくこく」
桜「…………こくこく」
とりあえず勝家さんの相手をしてくれるみたい。
あっと、でもいけない。
勘十郎「ちゃんと手加減してね?」
桜「………こくこく」
うん、頷いてくれたから大丈夫かな。
信長にいちゃんの時も一度も叩かなかいでいてくれたからコレで大丈夫だよね。
信長「権六、舐められているみたいだぞ?」
勝家「さもありなん。しかし我も人から鬼と呼ばれる男、簡単に負ける気はありませんな」
信長「そうか、任せた」
勝家「はっ」
なんだか信長にいちゃんチームはやる気満々のようです。
勝家さんは強そうだから少しくらい桜に本気を出してもらってもいいのかな?
いやダメですね。勝家さんがいくらマッチョで力持ちでも父上を片手でぽんぽん投げ上げたりはできないだろうし、このまま優しく相手をしてもらいましょう。
あっ、終わった後に信長にいちゃんと勝家さんも仲直りのお手玉をしてもらおうかな。
うん、あれで父上と桜が仲良しになって色々黙っていてもらえたみたいだし。
うん、とってもいい考えだと思います。うふふ。
勝家「では、まいる」
勝家さんが腰にさしていた刀を木刀に持ち替えてそう話しました。
信長「それでは、始め!」
信長にいちゃんの掛け声で桜と勝家さんが向かい合って対峙しました。さてどうなるのでしょうか。
勝家「ふむ、ただぼぉーーっと立っているように見えて全く隙が見えぬな」
桜「…………」
正眼に木刀を構えたまま勝家さんが桜を見ながらそう話しました。
そうなんだー、僕にはやる気がなさそうに立っているだけのようにしか見えないけど、見る人が見るとそう言う事も分かるんだね。
あっ、でもまたひらひら飛んでいる蝶々を見ているからホントにぼぉーーっと立っているだけかも。
勝家「ではコチラから行かせてもらう。うおぉりぁああ!」ざん!
勝家さんが気迫を込めて一気に桜に近付くと両手で木刀を握り振り下ろしました。
スゴい! 勝家さんってただマッチョなだけじゃなくてそんなに早く動く事もできたんだ!
信長にいちゃんより全然動きが早いかも!
桜「………ひょい」
でも当たらなければなんの意味もありません、桜は涼しい顔をしたままサラッとその攻撃を避けてしまいました。
これは勝負になるのでしょうか?
勝家「……なるほど、流石は鬼の子、このくらいでは当たらんか」
勝家さんが感心したようにそう話しました。
いや鬼って言っちゃダメー、信長にいちゃんにバレちゃうからそれは禁止だよー。
信長「ほぉ、アレをかわしたのか。一瞬権六の剣で斬ったように見えたが想像以上に動きが速いみたいだな。だが権六、女に遅れをとるとはなにごとだ。本気でやれ」
信長にいちゃんがそう勝家さんにハッパをかけました。
確かに早すぎて一瞬桜が斬られたようにも見えたよね。
ってか、アンドロイドって斬れるのでしょうか?
どうなんだろう、手を繋いだり身体を触った感じは普通の人みたいに柔らかかったけど、柔らかいって事は斬れたり怪我をしたりするのかな?
これは少し桜を心配してあげた方がいいかもしれないね。
勘十郎「桜、怪我をしないようにちゃんと避けてね?」
桜「……こくこく」
うん、頷いてくれたからコレで大丈夫でしょう。
アンドロイドでも叩かれたら痛いのかもしれないし、痛い思いをさせるのはダメだよね。
勝家「手を抜いた覚えはありませんが、しかし拙者の剣が当たらなかったのも事実。もう一度手合わせ願おうか。おりぁあああ!」ざん! ざん! ざん!
勝家さんはそう話すと再び桜に向かっていきました。
振り下ろしの斬撃から横凪の斬撃に変化して、また大上段からの斬り下ろしの斬撃と三連続攻撃で桜を攻め立てます。
桜「………ひょい、ひょい、ひょい」
その息をもつかせぬ攻撃を桜は眠そうな顔をしながらひょいひょいかわしています。
これはどちらを褒めればいいのでしょうか。
信長「それもかわすか、なかなかやるな」
信長にいちゃんは桜に感心しているみたい。
なら僕も桜を褒めてあげる事にしましょう。桜スゴい!
勝家「まだまだぁあ、とぉりゃあああ!」ざん! ざん! ぶぅーん!
桜「……ひょい、ひょい……ひょいっと」
なんとココで勝家さんが斬撃の合間に足払いみたいな事を仕掛けてきました。
桜はちゃんと避けたけど、それは反則なんじゃないでしょうか!
勘十郎「それはズルいの、反則はダメーー」
いくら剣が当たらないからと言っても蹴り技とかを試合で使ったらダメだよね。
信長「なにを甘い事を言っているのだ、戦場では相手がなにをしてくるか分からんのだ、それでやられる方が悪いのだ」
勘十郎「でもコレはお稽古なの、変な事をしたらダメなの」
信長「稽古でもなんでも最後まで立っていた者が勝ちになるのだ、勝つためにはなんでもする当たり前の事ではないか」
勘十郎「むむむ、それは……」
くっ、信長にいちゃんは反則容認派ですか。
確かに勝つためには手段を選ばないと言うのは分かるけど、お稽古でそれをするのは違うと思うの。
でも、ココは我慢です。
勘十郎「桜、怒っちゃダメだからね。優しく相手をしてあげてね」
桜「? ……こくこく」
桜は頷いてくれたから大丈夫でしょう。
まあ桜にしたら蹴りが当たった訳でもないしそれまでと同じでただ攻撃をかわしただけだから何も変わってないって感じなのかもしれないけど。
これいつまでやるのかな?
信長「とは言え、権六なにを手間取っているのだ。さっさとケリをつけろ」
勝家「そんな容易い相手ではござらんが。しかしコレほど強いとは、ワクワクしますな」
信長にいちゃんにまたハッパをかけられて勝家さんが楽しそうに笑みを浮かべてそう話しました。
やだ、ちょっと怖い。
勝家さんは強い相手を見るとワクワクするゴクウさんみたいな戦闘民族だったりするのでしょうか。
勝家「ならば儂のとっておきの奥義でお相手いたそう。どぉりゃあああ!」ざん! ざん! ざん!
勝家さんは獰猛な笑みを浮かべて桜に襲いかかっていきました。
おお、奥義とかやっぱり隠し持っているモノなんだね。どんなのだろう。
桜「………ひょい、ひょい、ひょい」
勝家「まだまだぁああ! おりゃーー!」ざん! ざん! ざん!
桜「……ひょい、ひょい、ひょい」
ええと、これはただがむしゃらに剣を振り回しているだけなのではないでしょうか?
信長「ほほぉ、なかなか見事な太刀捌きだ。流石は奥義と言うだけの事はあるな」
ええと、信長にいちゃんが褒めているからコレはきっとスゴい奥義なのかもしれないね。
僕の目にはただメチャクチャに剣を振り回しているだけにしか見えないし、隙とかも多そうだからやり返されたら簡単に一本取られちゃいそうな気がするけど。
でもコレは防御を捨てた攻撃全振りの奥義なのかもしれないね。
かわされちゃったら意味はないのだけど。
勝家「うおぉおりゃあああ!」ざん! ざん!
桜「………ひょい、ひょい……?」
猛攻を続ける勝家さんに押されて桜が後ろに下がっていくと壁の手前まで追い込まれてしまいました。
コレは大丈夫なのでしょうか。
信長「権六よくやった。そこまで追い詰めればその女はもう逃げる事もかわす事も出来ないだろう、その女にとどめを刺すのだ」
信長にいちゃんがそんな物騒な事を話しています。
コレはお稽古だから軽く剣を当ててそれで終わりですー、トドメとささしちゃダメなのー。
勝家「なぜ打ってこない?」
桜「…………」
桜を追い詰めながらも桜が一度も剣を振っていない事を疑問に思ったのか勝家さんがそう桜に尋ねました。
一方、桜の方はどうでもいいって感じでボケっと足元の方を見ています。
勝家「なるほど、どこを見ているのかと初めからずっと疑問に思っていたが足元を見て儂の動きを読んでいたのか」
桜「…………」
そうだったんだ。僕はてっきり蝶々とかお庭の花を適当に見ているだけかと思っていたけど、桜はそんなスゴい事をしていたのか。
でも向こうの方で飛んでいる蝶々を見ていて足元が見えるモノなのでしょうか?
勝家「だが、これだけ近くに寄れば意味はあるまい、このまま儂が勝たせて貰うぞ」じゃり。
桜「……………(むかっ)」ぼごぉお!
勝家「ぐぉおおおあおお!?」
なんて事でしょう。勝家さんが間合いを詰めよう一歩動いたら桜が勝家さんを蹴り飛ばしてしまいました。
いや、叩いちゃダメとは言ったけど蹴っちゃダメって言ってなかった気がするから桜的にはコレはセーフなのでしょうか。
あー、勝家さんがあんなに飛んで行っちゃった。コレは大丈夫なのでしょうか?
信長「なんだと、技の出だしを潰してその上剣の勝負で蹴りを使うだと、なんて卑怯な女なのだ」
いや、出だしもなにも隙がある方が悪い訳だし最初に蹴りを使ったのも勝家さんだから卑怯と言うのは違うんじゃないかな?
でも、コレで勝負は決まったみたい。
まあ初めからこの結果は僕にはわかっていたけどね。




