21話
土田御前「お前さま、どうかしましたか?」
あれから暫く経ち、奥の間に戻って来てきた信秀の姿を目にして妻の土田御前がそう尋ねた。
信秀「うぅむ、つい先ほど勘十郎の部屋に行ったのだが、勘十郎のところに鬼の娘が来ていてな。どうするべきかと考えていたのだ」
妻の土田御前にそう聞かれ信秀がそう答えた。
土田御前「鬼の娘って、どう言う事ですか?」
信秀「チヨの話では天狗が勘十郎の護衛にとその鬼の娘を送って来たらしい」
土田御前「まあ、天狗が鬼の娘を送って来たのですか!?」
まさかそんな答えが返って来るとは思っておらず土田御前は驚きながらそう尋ねた。
信秀「うむ、それでその鬼の娘をどうするべきかと頭を悩ませていたのだ」
土田御前「鬼って、それは恐ろしい者なのですか?」
信秀「いや見た目は人と変わらんしチヨより少し歳上の普通の人の娘にしか見えんのだが。流石は鬼の子だけの事はあって片手で勘十郎を軽々とほおり投げていたな」
先ほどの事を思い出し信秀がそう話した。
土田御前「まあ! 勘十郎ちゃんを投げたって、勘十郎ちゃんは大丈夫なのですか!?」
信秀「いやそれは問題ない。なんと言うか人のする高い高いを鬼流にするとそんな子供のあやし方になるらしくてな。高く上に投げ上げられはするが落ちて来ると上手く受け止めていたから痛くもなんともないのだが、流石に儂でもあんな事はできんしとんでもない力を持っておるようだ」
土田御前「そうですか、それなら勘十郎ちゃんが怪我をしたりそう言う事はないのですね?」
信秀「うむ、勘十郎自身は鬼の娘に投げられて喜んで笑っておったから問題ないのであろう」
土田御前「そうですか」
信秀の話を聞き土田御前はホッとしながらそう話した。
信秀「しかしあの鬼の娘はどうするべきかのぉ」
土田御前「天狗が送って来たと言うお話でしたが、ただ事ではありませんね」
信秀「そうなのだ、勘十郎はいったいなにをしたのだ? よほど天狗に気に入られたのか、天狗がそんな者を寄越すほど恩義を感じるなにかをしたのか、サッパリ分からん」
土田御前「勘十郎ちゃんはなにか話していましたか?」
信秀「うぅむ、勘十郎に話を聞いても要領をえないのだが、そもそも天狗に会っていた時の事も勘十郎はハッキリとは覚えておらぬらしいから聞いても分からぬのだろうな」
土田御前「要領を得ないって勘十郎ちゃんとチャント話をしていないのですか?」
信秀「うむ、勘十郎のヤツはよぼど寺に出されるのが嫌らしくて聞こうとすると口をつぐんでしまうのだ」
土田御前「あっ、そう言う事ですか」
信秀「うむ、まあその代わりにチヨが話をまとめて教えてくれたのだが、おおむねそのような事らしい」
土田御前「チヨには話しているのですか?」
信秀「うむ、あれは勘十郎のそばにいるから姉のようで話しやすいとかいつも一緒にいるから状況も分かっておるのだろう」
土田御前「そうですか」
信秀「さて、どうしたものかな」
土田御前「そうですね。勘十郎ちゃんに目をかけて天狗がその者を送って来たのならおろそかにする訳にもいきませんし、どういたしましょう」
信秀「そうだな。これも暫く様子をみるしかないか」
土田御前「そうですね。何事もなければ良いのですが」
信秀「うむ、とは言えこのまま放っておく訳にもいかんし、お前も様子を見に行って貰えるか?」
土田御前「私ですか? それは構いませんが」
信秀「鬼の娘と言っても女子である事は変わらんし女同士で話が合ったり通じる事があるかも知れん。儂が話をするより良いかも知れんぞ」
土田御前「そうですね。それなら会ってみる事にいたしましょう」
信秀「うむ、任せた。いやしかし勘十郎はいったいなにをしたのだろうな?」
土田御前「そうですね。術を教わるだけじゃなくてそんな者まで天狗が寄越すなんて、もしかして勘十郎ちゃんは将来凄い人物になるのかしら?」
信秀「どうなのだろうな」
普通ではありえない事が次々と起こり信秀と土田御前は頭を悩ませながらそう話すのだった。
◇◇
勘十郎「チヨ、さっき父上になんて話したの?」
父上が僕の部屋から出て行くとなにをどう父上に話したのか気になって僕はそうチヨに尋ねました。
ちよ「正直にその子は鬼の子だとお殿さまにお伝えしました」
勘十郎「えっ? 父上に話しちゃたの?」
チヨにアンドロイドと言っても伝わらないので鬼の子と言う事にしておいたのだけど、まさかその話を父上にしちゃったのか……。
ちよ「流石にお殿さまを軽々と持ち上げたり片手で投げ上げるとかそんな事は普通の娘には出来ませんし、そう話すしかなかったのです」
勘十郎「そうか。それなら仕方がないね」
ちよ「申し訳ございません」
勘十郎「チヨが悪い訳じゃないから気になくしていいよ」
僕が話しても結局同じような事になっただろうしチヨに任せたのも僕なのだからチヨを責めたりしたらダメだよね。
とは言え、コレは……。
勘十郎「僕はもうこの家にいられなくなっちゃうのかな」
ちよ「えっ、若様それは?」
勘十郎「だって鬼がこの家にいるって知られたら人聞きが悪いし鬼じゃお寺に入る事もできないから僕はこの家から出て行く事になるんじゃないかな」
ちよ「そんな、まだそうとなると決まった訳ではありませんし、心配なさらなくても大丈夫だと思いますよ」
勘十郎「なぐさめてくれてありがとう。でもコレは仕方がないの。それといままで一緒にいてくれてありがとうね」
ちよ「若様、そんな……」
勘十郎「心配しなくても僕には茶室があるからあの中で寝る事もできるしおだんごを出して食べる事もできるから心配しなくて大丈夫だよ」
ちよ「それは……」
勘十郎「もし町のどこかでおだんご売っている僕を見かけたら、その時は仲良くしてね」
ちよ「そんな悲しい事はいわないでください」
あーあ、もう少し母上と父上と信長にいちゃんそれとチヨもだけど、一緒にいたかったけど知られちゃったのだから仕方ないよね。
勘十郎「大丈夫、僕には桜がいるから一人じゃないし、頑張って町のドコかでひっそりと暮らしていきます」
ちよ「あぁあ、そんな……なんとかならないのかしら」
立派な武士になって信長にいちゃんと一緒に家族を支えられる男の子になりたかったけど僕はココまでみたい。
この先はドコかでおだんご屋さんを開いてヒッソリと生きて行くことにしましょう。
僕は覚悟を決めてそう思うのでした。




