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おだんご太平記  作者: 東のマ王


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11話

信秀のぶひで「ふむ、コレが例のだんごか」


 アレから暫く後、屋敷の奥の部屋で勘十郎と信長の父親の信秀のぶひでが目の前に置かれた皿の上に乗る団子を見ながらそう話した。


ちよ「はい、さきほど勘十郎若様が作られた物をそのままお持ちしました」


 勘十郎には他の誰にも話さないと約束していたがそれで済ませられる話ではなくチヨは勘十郎の父親の信秀のぶひでと母親の土田御前つちだごぜんにキチンと話してそのつど報告していたのだ。

 勘十郎がその事を知られて寺やドコかに修行に出される事を酷く嫌がっている事も合わせて伝えていたから暫くはこのまま様子を見ると言う事でその話は落ち着いたのだが。

 勘十郎がどんな法術を使えるのか気になった勘十郎の両親は今日コッソリその様子を覗きに行ったりこうして勘十郎の作った団子をチヨに持って来るように話していたのだ。


土田御前「ずいぶん可愛らしいお団子だけど、勘十郎ちゃんは手が小さいからこんな可愛らしい小さなお団子になったのかしら?」


 信秀のぶひでの横に座っていた勘十郎の母親の土田御前がその団子を見ながらそう話した。


ちよ「そうですね。若様が作られるお団子は大抵このくらいの大きさの物になっています」

土田御前「そうですか。小さいけど形も綺麗に揃っていて上手じょうずに作れていますね」


 勘十郎の母親はその団子を目にして感心しながらそう話した。


信秀のぶひで「それはよいが、その上にかかっている見た事もない茶色いモノが例のアレか?」

ちよ「はい、コチラのお団子はみたらし団子と言って、とても美味しい物です」

信秀のぶひで「うぅむ、美味いと言われても法術で作った物と言われるとあまり食う気になれんな……」


 目の前のみたらし団子を見ながら信秀のぶひでは腕を組みそう話した。


土田御前「お前さま、こうして持って来て貰ったのですからただ見ていても仕方ないですよ?」

信秀のぶひで「そうは言うが……あい分かった。いたしかない1つ食べてみるとするか」


 妻の土田御前にそう言われて信秀のぶひでは諦めたのか渋々そう話した。


ちよ「そんなに心配なさらなくても普通に美味しいお団子ですから大丈夫ですよ」

信秀のぶひで「そうか……うむ、では食べるとするか。ぱくり……なっ! コレは!」


 覚悟を決めて一口食べると信秀のぶひでは驚いたようにそう言葉を漏らした。


土田御前「お前さま、どうかしましたか?」

信秀のぶひで「いや驚いた。チヨが美味いと話していたがまっこと美味い。こんなに美味い物は初めて食った気がするぞ」

土田御前「まあそんなに美味しいのですか?」

信秀のぶひで「うむ、お前も一つ食べてみろ」

土田御前「それでは失礼して……。ぱくり、まあ! 本当にとても美味しいですね」


 信秀のぶひでに勧められて土田御前もみたらし団子の串に手を伸ばし一口ソレを食べてみるとそのあまりの美味しさに驚きそう言葉を漏らした。


信秀のぶひで「見た感じ味噌を使っているのかと思ったが味噌とは違うみたいだし、この上にかかっているコレは一体なんだ?」

ちよ「それはお醤油と砂糖とみりんと言う物を合わせて煮詰めた物らしいです」

土田御前「この少し塩っぱい感じのする物はお醤油なのね。それでこんな優しい味になっているのかしら」

ちよ「はい」

信秀のぶひで「いや、醤油はともかく砂糖だと? そんな高い物を勘十郎は一体ドコから手に入れたのだ?」

ちよ「さあ、それはよく分からないのですが、天狗に貰ったとかそんな事ではないですか」

信秀のぶひで「家の金蔵からコッソリ金を持ち出したりはしておらんだろうな? もしそうならあっという間に家の蔵が空になってしまうぞ」


 そんな不安を覚え信秀のぶひでがそう話した。


ちよ「それはないと思いますよ。お団子を作る材料は全部若様が自前で揃えているみたいですしドコから盗んで来た物ではないと思いますよ」

信秀のぶひで「どうやってそんな高い物を子供の勘十郎が揃えられるのだ?」

ちよ「若様のあの茶室の中にはお湯を沸かす茶釜と言う物があるのですが、その茶釜の中に入っている水はいくら使っても無くなる事がない……勿論、柄杓ひしゃくでお湯をすくった時はその分減りますが時間が経つと元の水の量に自然と戻っていますからそんな感じでいくらでも材料が出て来るのではないでしょうか」


 チヨはそのような事かと考えそう信秀のぶひでに答えた。


信秀のぶひで「なんと! そんな物を勘十郎は持っているのか!」

ちよ「天狗に貰った物らしいので、天狗ならそんな宝具の一つや二つ持っていてもオカシクはないのではないでしょうか」


 ずっと勘十郎のそばにいるが勘十郎がドコかからその材料を集めて来る姿など一度も見た事はないのだからチヨはそのような事かと考えそう話した。


土田御前「そうなのね。と言うか勘十郎ちゃんはいつそんな物を天狗に貰っていたのかしら?」

ちよ「若様自身もあまりハッキリ覚えていないらしいのですが、もう少し幼い時に夜な夜な天狗が現れて法術を教わったり修行していたそうなのでその時に貰ったのではないでしょうか」


土田御前「まあそうだったの」

信秀のぶひで「むむむっ、そんな不審なヤカラが我が屋敷に出入りしていたとは、見張の者たちは一体なにをしていたのだ」

土田御前「お前さま相手は天狗ですよ。姿を消したり人に気付かれる事なく屋敷の中に入り込むくらいはたやすくできるでしょうし、誰かを責めてはいけませんよ?」

信秀のぶひで「むむむっ、いやそうではあるが、大切な息子に変な事をされていたなどと聞かされたら黙っておれんだろう」

土田御前「変な事と言っても術を教えて貰っていたのなら寧ろ喜ばしい事ですし、過去に名を残した方達の中には天狗に剣術や兵法を教わった方も多くいますから悪い事ではないと思いますよ」

信秀のぶひで「むむむっ、そうではあるが……」


 この時代、天狗は恐ろしい妖怪と思われる側面と軍神や兵法の神として崇められる二つの側面を持っていたのだ。

 義経よしつねが天狗に剣術などを教えて貰ったと言う話は有名な話だし、悪い事ではないと言われると返す言葉がなく信秀のぶひではそう言葉を漏らした。


土田御前「それはともかくとして、ソチラのお団子はいま食べたコレとは違うみたいね」


 土田御前は話を変えチヨが持って来た別の皿を見ながらそう話した。


ちよ「はい、コチラのあんこのお団子も美味しいですよ」

土田御前「まあ、あんこですか。それは美味しそうですね」

ちよ「はい」

土田御前「お前さま良かったですね。あなたの大好きなあんこをかけたお団子だそうですよ」


信秀のぶひで「むむむっ、あんこと言われれと聞き捨てならん物があるな」

ちよ「コレも美味しいですよ」

信秀のぶひで「あんこが美味いのはそうではあるが……うむ、ならばソレもしょくしてみるか」

ちよ「はい、どうぞ」

信秀のぶひで「うむ、なんだコレはあんこがこぼれ落ちそうなほど山ほどかけてあるではないか」


 沢山あんこの乗った団子を手に取り信秀のぶひではあんこがこぼれ落ちてしまわぬようにその下に手を添えて持ちながらそう話した。


ちよ「若様の作られるお団子はそのあんこのお団子もみたらし団子も上に乗り切れないほどたくさんかけてありますよね」

信秀のぶひで「うむ、こぼさぬように食うのは少し面倒だが、ではしょくすとするか。ぱくり……なっ! 美味い! そして甘い! なんだこのあんこは!? こんなあんこは今まで食べた事はないぞ!」


 一口あんこのお団子を食べ信秀のぶひでは驚きそう言葉を漏らした。


土田御前「まあ、お前さまがソコまで言うなんて、そんなに美味しいあんこなのですか?」

信秀のぶひで「うむ、これはたまげた。こんな美味いあんこは初めて食べたぞ。おつちお前も食べてみろ」

土田御前「それでは失礼して……ぱくり。まあ! コチラのお団子も凄く美味しいですね」


 母親の土田御前もあんこの甘さと美味しさに驚きそう言葉を漏らした。


ちよ「コチラのあんこのお団子にも砂糖を使っているらしくてソレで他の物より甘くなっているらしいです」

信秀のぶひで「なんと! このあんこにも砂糖を使っているのか!」

土田御前「まあ、それでこんなに甘味が増しているのね」


 元々甘い物あんこに更に甘い砂糖を足せばコレほど甘くなるのかと信秀のぶひでと土田御前はその味に驚きながらそう話した。


ちよ「はい、甘いのは甘いですがお団子と一緒に食べると甘味がしつこいと言う程ではなくなりますし、食べやすい甘さと言うか……それでも結構甘いですけどね」

信秀のぶひで「うーむ、なかなか凄い物を考え出したのだな。もしかして天狗はこのような物を食べているのか?」

ちよ「それはどうでしょう? 若様からそんな話は聞いた事がありませんが、たぶんコレは若様が考え出された物だと思います」

信秀のぶひで「なに? 勘十郎が考え出しただと?」


土田御前「チヨはなぜそう思ったのかしら?」

ちよ「若様は素直な方ですからもしそうならそう話してくれますし。似たような別のなにかを食べた事はあるのかも知れませんが、お団子に乗せるのは若様が考えられたのではないでしょうか」

土田御前「そう、勘十郎ちゃんはお団子が好きだから天狗のところで食べさせて貰ったなにかに入っていたこのあんこをお団子に乗せてみたのかしらね」

ちよ「そんな事ではないかと思います」


信秀のぶひで「うむ、それなら分かる話だな。なかなか凄い物を作り出したモノだな」 

土田御前「そうですね。でもお前さま良かったですね」

信秀のぶひで「むっ、良かったとはどう言う事だ?」

土田御前「勘十郎ちゃんに頼めばお前さまの大好きなあんこが沢山乗ったこのお団子をいつでも食べられるのですから嬉しいのではないですか?」

信秀のぶひで「むむむっ、確かにそれは嬉しいが……いやどうせなら、砂糖だけを貰う事はできないだろうか? その砂糖を売れば家の金蔵があっと言うに金で埋まるのではないか」


 今は1kg200円くらいで砂糖が買えるが、この時代の砂糖の値段は1kg約3万円から4万円の間と今の数百倍の値段で取り引きされていたのだ。そんな高価な物を元手0で沢山たくさん手に入れられたら儲かるのではないかと考えて信秀のぶひではそう話した。


ちよ「それは無理だと思いますよ。若様は作り上げた物しかあの箱の中から出す事は出来ないみたいなので、砂糖だけとかお醤油だけとか元の材料だけを取り出す事は出来ないみたいです」

信秀のぶひで「むっ、そうなのか?」

土田御前「お前さま、変な事を考えてはなりませんよ? 欲をかいて身を滅ぼしたなどと言う話は山ほどありますし、もしオカシナ事をして天狗の怒りを買ったら大変な事になってしまいますよ」

信秀のぶひで「むっ、そうか。いや良い考えだと思ったのだが……まあそもそも取り出せないのなら金に変えようもないし、いたしかたないか」


 妻の土田御前にたしなめられて信秀のぶひでは諦めたのかそう話した。

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