ハプニング失望症候群①
『過去と未来』
【これから人生、やり直し放題】
突然、世の中にあふれ出たキャッチコピー。
そんな単純な一言が、世界を変えてしまった。
最初に広まって世界を変えたのは、人体の完全冷凍保存――
いわゆるコールドスリープだった。
眠るだけで、好きな未来まで一気に進める。
老いも、病気も、とりあえず後回しにできる夢の技術。
それが実用化されたのだった。
ただ、世の流れはこれだけでは終わらなかった。
冷凍保存に対抗するかのように、半年後には新たなキャッチコピーが登場した。
【これから人生、やり直し放題2】
タイムマシンの運用実用化だった。
過去の時間軸限定だったが、すでに未来を手に入れた人類には、それで十分だった。
未来に進むだけじゃない。
俺たちは過去にも戻れるようになった、らしい。
おいおい、ほんとかよ。
俺の反応はそんなもんだったが、SNSでは多いに盛り上がった。
――これ、もう人生で失敗とかなくない?
――過去と未来、どっちがいいかなぁー、むっちゃ悩むし
――あれだろ? 実は水面下では実用化されててようやく、おれたちにも出番が来たってことだわ
誰もが、それらのニュースについて喜びながら話していた。
人類にとっての救世主が現れたんだ、と。
その時は、多くの人間が本気でそう思っていた。
で、あれから1年以上が過ぎたわけだが……
俺(名もなき一般人)は、そのどちらも使わなかった。
理由は単純で、なんとなく怖かったから。
でも、周りの連中たちは真逆だった。
仕事でミスったやつは、
「昨日に戻ってやり直してくるわ」と軽く言うし、
失恋したやつは、
「ちょっと立ち直るまで、1年くらい冬眠してくる」とか言い出す始末。
スマホでアプリをいじるのと同じくらい安易に、それらを利用した。
ま、それも無理ない話か。
スマホの利用料金と同じくらいの値段で過去と未来が買えるなら安いものだろ?
俺は、そこがますます怪しいと思ったわけだが、
少なくとも世間で、時間はもう「流れるもの」でなく「逆らえるもの」になっていた。
『時間汚染』
だが異変は、じわじわとやってきた。
いや、そりゃ前と同じわけないよな。
少し考えたら誰でもわかることだった。
俺みたいな、一般人でもさ。
最初は、なんとなくの違和感レベル。
「あれ、このニュース前と違くない?」とか、
「そんな事件、あったっけ?」とか。
でも、誰も気にしてなかった。
どうせ誰かが過去をいじったんだろ、くらいの感覚にすぎない。
そのうち、歴史学者とやらが騒ぎ始めた。
「このままでは記録が一致しなくなる」
「同じ時代に複数の過去が存在すると、歴史はどうなる。神への冒涜だ」
ま、時間を操作したら自然とそうなるって。
タイムリープ系の漫画とか小説にだって出てきたよくあるやつ。
むしろ、何でそれが実用化されたんだって疑問しかなかったわ。
要するに――
この頃から徐々に世界が、ブレ始めていった。
「時間汚染」
そんな言葉がニュースに頻繁に出るようになった。
過去をいじりすぎたせいで、因果関係がぐちゃぐちゃになってるらしい。
政府はそれらの対策として、とりあえず規制をかけた。
タイムマシンは許可制、コールドスリープも制限付き。
何で規制でなく禁止しないのか、俺にはまた疑問だった。
……そんなことで止まるわけがないだろ?
一回でも「やり直せる」って知った人間が、それを手放せると思うか?
答えは、ノーだ。
やがて、時間難民って呼ばれる連中が現れた。
何度も過去に戻るうちに、自分の本来の時間が分からなくなったやつらだ。
戸籍も曖昧、記録にも残らない。
存在自体がふわふわしていて、まるで浮遊物。
いや、未確認飛行人類って言えばいいかのか?
そりゃ、見ていてかわいそうに思ったさ。
と同時に、正直ざまーみろって感じもしたな。
さすがに、これでもう政府も禁止するかと思った。
……でも、その半年後には、さらにヤバいものが現れた。




