ハプニング失望症候群②
『理想社会』
【理想未来保証プログラムーーあなたを、完璧な未来へお届けします】
とある政府関連企業が追加で発表したサービスだった。
現状の問題点を解決する新たな試みだと、偉そうに語った。
冷凍保存したまま百年後の理想社会に送りこむ。
そこは戦争も貧困もない、人類の理想郷とされている場所。
医療も科学もより進歩して、あらゆる困難が消え去ってる、
地上の楽園なんだってさ。
……そんなもん、誰だって行きたくなる。
いや、そうか?
怪しすぎるだろ?
百年も眠ったままとか、大丈夫か?
でもな、俺の思考はやっぱり少数派らしい。
「今」に疲れたやつらは、そのサービスに参加した。
友達も、隣人も、家族までもがそっちを選んだ。
みんな、更なる幸せをそこに求めた。
いや、みんな何が幸せかわからなくなっていたんだと思う。
結果、人口の7割強が眠りについてしまった。
気づいたら、街はスカスカになっていて、
残された3割の俺たちが「今」を押しつけられた。
働く人間は減って、インフラなんてボロボロさ。
これじゃ、社会がまともに回るなんてムリな話。
いくら、AIが進化して社会に浸透してても……
人間の代わりになれるわけ、ない、当然だ。
でも、俺たちにもう逃げ場はなかった。
未来に行くか、過去に戻る勇気がない人間たち、
その世界を不審に思うやつだけが、ここに残った結果がこれ。
この場に残ったことを後悔し始める人間もいたが、
そのころには、過去も未来もすべてのサービスが打ち切られた。
現在に封じこめられたわけだ。
そんな中、おかしな話題がSNS上に拡散されていた。
過去に行ったはずの人間が消えている、らしい。
最初は単なるデマだと疑う人間が大多数だった。
複数の時代から送り込まれた人間が、同じ空間でぶつかるとき、
つまり、自分の存在が同じ時間軸で重なって互いを認識した瞬間、
どちらかが消えるんだとさ。
でも、少し考えたらそりゃそうだよな、
同じ空間に自分が複数人いちゃダメだろ。
その情報に対して、政府は、
「類似例はすでに確認しています。ただ、それらは一時的なもので、身体に問題ありません」
そんなテンプレみたいなコメントを出し続けた。
きっと、AIにでも任せて情報管理させてるんだろうな。
政府のコメントに対して、SNS上では多くの反応があった。
⸻お偉いさんたちは、ずっと昔、世の中に冷凍保存が発表される前に、それらを利用して、今はどこかの地下深くに眠っているらしいぞ。
⸻それって国民の不満から逃げるためだね笑
⸻この先、何か起こるってあらかじめ知ってるんじゃない?
とか、いろんな憶測が飛び交っていた。
今ごろ気づいても遅いんだって、偉いさんなんてそんなもんだろ。
結局、現在も過去も未来も、ぜんぶ一緒、世の中は何も変わらないってこと、
一部の人間を除いては、な。
『終末の日』
── @news.narou_jp
【速報】時間異常事態宣言 世界各地で“存在消失”拡大
政府は先ほど、時間操作技術による重大な危機として「時間異常事態宣言」を発令。過去改変の影響とみられる時間汚染が拡大し、人や建造物が記録ごと消える現象が各地で確認されています。タイムマシンと冷凍保存は全面停止。専門家は「因果関係の崩壊が進行している」と警告し、収束の見通しは立っていません。
そして、その日は突然、訪れた。
まるで巨大地震のように前触れもなく。
あれを自然災害だったと呼んでいいのかどうか、
俺にはわからない。
世界が、壊れたんだよ。
突然、空が歪んだんだ。
いや、歪むっていうか、裂けた。
ビルの一部が、いきなり古い廃墟に変わる。
昨日まであったはずの道路がずたずたに寸断される。
人の群れが、くりぬいたように一部だけ消える。
音もなく、理由もなく、すべてが一瞬に……
人間は時間を操作できるようになった、
結果として、時間そのものを壊してしまったらしい。
俺は、廃墟の中に古い記録装置を見つけた。
そこには、まだまともだった頃の歴史が残っていた。
ジャーナリストが記録していたものだろうか、
事件や事故が時系列通りに並べられて書かれていた。
一本の線みたいに、ちゃんとつながってる時間がそこにあった。
「……このころに戻りてぇな」
呟きながら思わず笑った。
無理に決まってるだろ。
どこもかしこも、もう壊れてる。
過去も未来も、全部ごっちゃごちゃさ。
その間にも空間が、また削れていった。
世界が、少しずつ消えていく。
建物も、人間も、それらの記憶も……
たぶん俺も、もうすぐ消える。
そう思った、瞬間だった。
視界が、白く弾けた。
目の前が真っ白になったと思ったら、
すぐに暗闇が現れて俺を包みこんだ。
もう何も見えなかった。
結末ってのはたいがい、あっけないもんだよな……
そこで、おれは意識を失った。




