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A評価人間になるための裏技

『新制度』


「すいません、こちら“評価C”の方は、入れないんですよ」


店員は表情一つ変えずに言った。

梨花は一瞬、聞き間違いかと思った。


「は?……え?何の話ですか?」


「こちらのカフェ、利用評価A以上の方のみのご利用となっておりまして」


梨花は乾いた笑いを浮かべた。


「冗談ですよね?」


男は端末を差し出した。

画面には自分の顔写真、ID、そして……

総合評価:C+(2.94/5.00)


梨花は自分の数値を見て、その場で固まった。



この国では数年前から、社会適応評価という新制度が始まった。


個人の信用、モラル、SNSでの言動、勤怠、他者からの評価……

あらゆるデータをAIがスコア化し、5段階で人をランクづけする仕組みだ。


誰もが最初は「そんなもの、気にしない」と言った。

だが、時間が経つにつれて、その考えは変わっていった。


「評価B以上の方限定のセミナーです」


「合コン参加はA-以上のみ」


「マンションの契約にはAランク以上の証明が必要です」


気づけば、街のどこもかしこも評価で選別されるようになっていた。



梨花は今まで**B+**だった。決して高くはないが、生活に支障はなかった。

今朝まではそうだったのに……


梨花が改めてスマホで確認すると、いつの間にか**C+(2.94)**に下がっていた。


(なにこれ……)


通知を確認すると、評価が下がった理由は以下のとおりだった。


• SNSで「不快」と報告された投稿:3件

• 通勤時の顔の無表情率:高(警戒対象)

• 週末の外出頻度:低(非社会的傾向)

• 職場での“共感反応率”:45%(基準未満)


たったそれだけで、“C評価”になる世界になっていた。



『C評価』


その日から、世界が少しずつ閉じていった。


ランチの予約は拒否され、オフィスのコピー機の使用制限までかかった。

さらに、同僚が話しかけてこなくなった。


「C評価の人に関わると、自分の評価にも影響するらしいよ」


誰かが囁いた。


梨花のデスクには、人が寄りつかなくなった。

それは差別ではなく、ただの自己防衛だと皆は言った。



──ある日、同僚の岸本(A評価)が話しかけてきた。


「春川さん、ちょっと話が……評価、下がってるよね?」


「……ええ、今朝見たら」


「うちの部署、来月から、C以下の排除対象になるって通達来たんだ」


「排除……?」


「異動か、解雇か、再教育施設行きか。詳しくは知らない。でも、社会の質を維持するためだってさ」


その夜、梨花は震える手で評価を上げる方法を検索した。


最も手っ取り早い方法は、Aランクの人間と交友を持つことだった。

梨花は必死で、昔の知人や元同僚に連絡を取った。

しかし、返ってくるのは定型文の返信か、既読無視だけだった。

誰もが、C評価の人間と関わることを恐れていた。


やがて、梨花のアパートのポストに封筒が届いた。


【通知】

社会適応評価による居住条件審査により、退去勧告を行います。

30日以内に退去して下さい。評価:C+(下限違反)


それはまるで、静かに死刑を宣告されるような感覚だった。



『完全犯罪』


梨花は、ある公園に向かった。

そこには評価に抵抗する人たちが集まると噂されていた。


10人ほどの人々が、焚き火を囲んでいた。

みんなどこか、その表情に影がある感じだった。


「C以下ばっかりだよ、ここ。君、初めて?」


「ああ、AやBは来ないぞ。来る理由がないからな」


彼らは笑いながら話すが、その目は笑っていなかった。


一人の男が小声で言った。


「おい、聞いたか? Aランクを手に入れる方法があるって」


梨花はその言葉に即反応した。


「え、どういうこと?」


「A評価の人間を殺して、その顔を……自分のデータに差し替えるんだ。スキャンして、A評価の顔にすり替える」


「まあ、AIは顔で認証してるから、あり得る話ではあるか」


「それなら、寝てる時とかに顔だけスキャンしたらいいんじゃない?」


梨花のこのセリフは笑いながら反論された。


「あのさ、AIもそこまでバカじゃないぞ、同じデータが二重だとエラーが出る。だから、同時に存在はできないってことよ」


「やっぱり、リスキーだよな。犯罪をおかしてまでAになりたいか?」


「でもさ、今じゃ死体もAIが認識するんだし、データさえ、完全に入れ替われば犯罪にならないかもよ」


梨花は彼らの話を熱心に聞いていた。

他と違って一人、彼女だけは真顔だった。


「それって、どういう意味?」


「だからー、データ上は別人になっても、それをチェックするのは人間じゃなくAI。ってことは、学校や会社とかでは、前の名前のままでいいってことさ」


「でも、その後が大変だよな。声も、言動も、生活も完全に模倣しないと。つまり、Aの人間になりきる必要があるからな」


誰かが小さくつぶやいた。


「評価評価って、おかしな世の中になったよな。もううんざりさ」


彼らのやり取りを聞きながら梨花は思った。


こいつらはやっぱりCランクの人間の発想だ、もう完全に人生を諦めている。

でも、わたしはこの同族とは違う。


いい話を聞けたわ。

あとは、ターゲットを探して、実行するの。



『A評価』


数週間後、梨花は評価Aに戻っていた。

いや、むしろ初のA+、だった。


同僚たちが彼女を拍手で迎えた。


「さすがですね、春川さん!」


「一時はどうなるかと思ったけど、努力したんですねー」


梨花は、どの言葉にも静かに頷きながら笑みを送っていた。

髪型を変えて、声を少し高くし、立ち居振る舞いも別人のようだった。


「いいえ……まだまだ努力が足りません。皆さんからもっと見習わせていただかないと……よろしく、お願いします」


彼女の評価データには、こう記されていた。


• SNS:全投稿削除 →再開後はポジティブ投稿のみ

• 表情スコア:高(常時笑顔維持)

• 共感指数:95%(人との会話数の増加)

• “交流者リスト”:A評価以上の人物と20名以上接触


やはり、誰も気づいてなかった、

梨花が、データ上は別の人間になっていたことに。


その数日前、古い地下道で身元不明の遺体が発見された。


顔は潰され、身分証も焼かれていた。

だが、AIはその地域のデータから、活動していないIDを見つけ出し、

遺体の身元が判明、春川 梨花(27)死亡、と……



── @news.narou_jp


【社会適応評価制度、導入から数年で見えてきた課題】


AIが個人の信用や言動を数値化し、5段階でランク付けする仕組みは、いまや日常のあらゆる場面に広がっている。利便性の向上が評価される一方で、見えない基準への不信感や、常に評価され続けることへの息苦しさも指摘されており、社会は静かにその在り方を問い直し始めている。


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