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第九十七話 灼熱

 天井を突き破ってきた悠への警戒で、(ゴドラ)は先程解除したばかりの〖超新星解放(オメガブースト)〗をもう一度発動した。魔法陣、詠唱すら無しで即刻発動可能。これが十星のボスの実力だと言わんばかりの動きだった。


【悪いが俺は帰らせてもらおう。】

〖待てEND!!貴様の狙いは分かっているのだぞ。〗

【毛頭隠す気もない。】


 そう言うと、ENDは階段を登って三種の神器を取りに行こうとした。悠はすかさず、ENDの背後から叢雲を振りかざしたが、軽く止められてしまった。


太陽(サン)の能力も弱まっているだろう。死にたいか。】

「この刀一本あれば貴様の首を()ねる程度容易いことだ。」

〖賛成だな。三種の神器は貴様にやらん。〗

【そういえば……その叢雲も欲しいな。】


 そう言うと、ENDは叢雲の刀身を素手で掴んで悠から引き剥がした。


【中に鼠もいるようだしな。】


 元ダイヤの叢雲は、シカトしているのか、怯えているのか分からないが、姿を現さず沈黙を貫いていた。ENDはその様子が気に入らなかったのか、叢雲を地面に突き刺して他の二つの神器を盗りに行った。


「待てEN……」

【見逃すと言っているんだ。次はないぞ。】


 悠の言葉を遮ってENDは言った。そう、悠と(ゴドラ)はここでは万全の力を出すことが出来ない。ENDを止めることもできず、そのまま向かわせてしまった。

 (ゴドラ)は舌打ちすると、壁に向かって何やらボソボソ言い始めた。すると、十星がテレポートに使用している〖拾ノ扉〗が現れた。


地球(アース)が規制を解いた。テレポートも使用可能になったんだ。元より、拾ノ扉は規制外だがな。〗


 悠が太陽(サン)になって、テレポートを使用できなくなったことへの嫌味だけを言うと、満足したのか扉に入った。

 恐らく居るとすれば屋上。悠は階段を駆け上がった……が、寸前悠は気がついた。あの扉が十星のものなら悠も使えるはず。試しに悠も詠唱を始めた。


「開ケ拾ノ扉。」


 瞬間、壁には扉が生まれて、悠は蹴破るように開いた。位置は分かっている。

 拾ノ扉で屋上に出ると、(ゴドラ)は驚いたような、満足そうな顔をして笑みを浮かべた。


〖それでこそ手応えがあるというものだ。〗


 時は夕暮れ。陽と月が同居する時。


────────────────────────


 どうなっている。火星(マーズ)は思わずそう口走りそうになった。『身体能力の低下』を持ってしても蒼の実力は異常だ。

 怪物じみた魔力で、魔法自体を弾き返される。殴りや蹴りをしようとすれば簡単に避けるか、カウンターを食らうだけだ。


「俺、一応十星で上から2番目なんだけど。」

「そうですか。僕と同じですね。」


 蒼は異世界警察内なら悠の1つ下。の筈が、火星(マーズ)は突然「それは違うな。」と言った。


「お前は3番目だ。朝霧悠も2番目だな。」

「……?何が言いたいんですか。」

「極秘情報。十星内で一番権力がある俺と、十星結成以前からの知人の(ゴドラ)地球(アース)、そして朝霧悠、ENDしかこの世に知るものはいない。」


 火星(マーズ)はやけに焦らしていた。蒼はだんだん焦れったくなってきて、「なんの事ですか……!?」と声を荒らげた。


「ソラノ。コードネーム『AIR FORCE X』。自衛隊空軍をやめ、異世界警察に来た男の名だ。」

「そ……そんな存在が隠せるわけ……!?」

「異世界警察署()()。」


 火星(マーズ)は強調してそう言った。蒼は困惑して片眉を上げた。


「本部とつくように、異世界警察署は様々な純世界に設置されている。その全てを完璧に把握できている訳ないだろう。第零区から第拾区までは本部に設置されている。AIR FORCE Xは第弐拾伍(にじゅうご)区に所属している。知名度がない区で、ひっそりと無双する男の名前なんて知らなくて当然さ。」

「……頭の片隅にでも置いておきますよ。」


 蒼はゆっくり話しているのが退屈なのか、鬼丸をもう一度抜いて火星(マーズ)に向かっていった。


「めんどくせぇなあ……」


 すると、火星(マーズ)は魔法陣を描いて詠唱を始めた。


〖創星の時より廻りし天の理よ

 (あか)く錆びた火星、今ここに顕現せよ〗


 相手が詠唱を始めた時、それ即ち危険を意味する。相手の魔法、変身、何かが起こる前触れ。異世界警察署に入る人間は必ず「詠唱が始まれば逃げろ」という教育を受けている。が、蒼は教育など受けたことがなかった。

 火星(マーズ)は天にも登る炎の渦を巻いて、変身を始めた。案の定蒼は全身を炎に焼かれ、皮膚は焦げ始めた。


「っぁああぁっ!!!」

〖熱いか。〗


 変身後も数秒、炎の渦は消える事なく登り続け、解除された頃には蒼は全身ボロボロだった。

 現れた男の姿は原型が大きく残っていた。肩や肘、髪の毛の一部が炎に変わっただけ。他の十星と比べれば大した変化はなく、それが逆に恐ろしさを表しているようだった。


〖灼熱の紅は血よりも灼熱に思える。〗

「……?」


 薄れゆく意識の中で火星(マーズ)の言葉は耳に届いた。


水星(マーキュリー)に勧められたUNDERって漫画のセリフだよ。灼熱は灼熱でしかない。〗

「どういうことだ……」

〖炎に並ぶ恐ろしい物はないってことだ。〗


 そう言うと、火星(マーズ)は手のひらから炎を放出して、辺りを囲うようにした。蒼もギリギリの体で立ち上がった。


〖殴り合いだよ。かかってこい。〗


第九十七話 終

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