第九十六話 三種の神器
場は転じて、ENDの地下基地。
メイとジンが座る座椅子に向かい合うように、座椅子は置かれていた。座椅子の肘掛けに腕を乗せて、2人とも横暴な態度であったが、ウルグは座椅子に座らずに形式的な挨拶だけ済ませた。
【さて、ウルグ君。ひと月経ったけど慣れたかしら。】
「兵の数、部屋の配置、武器の種類と箇所、数は完全に把握した。」
メイは余裕があるのか、息を吐くようにフッと笑った。長い黒髪が少し揺れて、メイは笑みを隠すように、右手で自身の口元に触れた。
【三種の神器。】
「……!」
ジンは本題を言いたいのか、そう呟いた。メイも少し顔を傾けていたが、零れた笑みは失われていなかった。
【END様が異世界警察署本部に侵入した目的は知っているな。】
「あぁ。その三種の神器だろう。悠……朝霧悠が持っている叢雲を除く二つの代物。『八咫鏡』『八尺瓊勾玉』。」
真実を映す鏡。『八咫鏡』。以前、水星、魔王、そしてウルグの3人で回収に行った。(第二十〜二十八話参照)
魔力を底上げする勾玉。『八尺瓊勾玉』。ポケットの中、手の中など、所持している人物の魔力を底上げする。身体攻撃や魔法、全てに魔力は使用されるので、強力な代物である。
【現在END様は脱獄中だ。十星と異世界警察の戦闘中に三種の神器を盗むそうだ。】
ジンはそう言うと、片眉を上げて自身の銀色の髪を触った。
【何かあるか。】
ジンは直視はしなかったが、メイを睨むようにそう言った。先程から、ジンの顔を覗き込むようにジロジロ見つめているメイに嫌気が刺したのだろう。
【いつになく機嫌が良さそうじゃない。END様にそんなに会いたいのかしら?】
【黙れ!】
ジンは照れ隠しのようにそう言った。女子にからかわれている男子のようで、なにやらウルグは見ていて愉快だった。
【ウルグ・ハース、貴様見たことがあるだろう。八咫鏡。】
「あぁ。それがどうした。」
【“それ”で十星を映したことがあるか。】
ウルグは一瞬ドキッとした。魔王と共に、八咫鏡を回収したあの時。ウルグは八咫鏡に映った水星の姿を目視した。
「遺体のようだった。」
ウルグは両手で口元を押さえると、前かがみになって、目を細めて言った。あの姿を思い出すだけでも恐怖が襲ってくる。死んで投棄されたかのような、白骨死体。あれは仮にも人間の姿とは思えなかった。
その時、ジンの口をついて出た言葉は信じられないものだった。
【十星は全員が死者蘇生の黒魔術によって生き返らせられている。つまり、遺体の軍団。】
「なんだと……!?」
【十星の復活は今回の事件だけではないわ。均衡崩壊後、十星の結成から十数回にも及ぶ黒魔術の使用が行われているのよ。】
昔から十星、“上”は血にまみれたドロドロの世界だった。その真相がこれだ。黒魔術を使う度、悠達とは揉めてきて因縁は深いものになっていった。
【壊れる度に直せば使い直せるのか。直したものは脆くなり次第に壊れやすくなる。】
「何が言いたい。」
【十星はもはや長くない。】
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「君はもはや長くない。」
金星は金のイヤリングをいやらしく光らせた。長い戦いで仝々の体は金に変貌させられていた。右腕、左足、右の横腹から背中にかけて、右目。反発的に閉じてしまった右目含め、金となった体は動くことができなくなった。
「全く余計なお世話だぜ……!!」
金星は仝々の態度が気に入らなかったのか、腹部を蹴り飛ばして、追い詰めるように右手から金を放出した。
金に変化させられた部分は“ロック”状態になる。その部分の形はロックが解けるまで変形することができず、仝々の巨大化は不可能である。
それに加え、冥王星による『身体能力の低下』。圧倒的に不利な状況。
「この戦況を見てみなよ。
君は今勝ち目がない。それに、ボタンから聞こえてくる言葉もネガティブじゃないか。」
「何が言いてえんだ……!」
「今なら君のこと海王星にしてあげるよ。」
金星は嫌らしい笑みを浮かべてそう言った。甘い蜜には目が眩む。誰だってそうだ。
「朝霧悠への信仰心という名の、安いプライド。それだけだ。無償、対価もなしに得られるものなら得ておいた方が得策じゃないか。」
仝々の心は揺れ動……かなかった。こんな状況でも、仝々はフードの下で笑みを浮かべた。
「てめえの信仰する金で買えねえのがプライドだよ!!」
「要らないから買わないんだろうが。」
金星は頭にきたのか、語気を強めてそう言った。仝々はヌンチャクのような武器を取り出すと、鎖で繋がれた片方を大きく振り回した。
「『巨大化』!!」
「1パターンなんだよ!!」
鎖で繋がれた片方だけを巨大化して、金星に振りかざしたが、黄金の壁で簡単に防がれてしまった。
一瞬仝々に生まれた隙。金星はすかさず魔法陣を描いて口を開いた。
〖創星の時より廻りし天の理よ
明星に輝く金星、今ここに顕現せよ〗
瞬間、金星は直視できない程の光を放った。光が収まった……その時ですらその姿はまだ輝きを失わなかった。
黄金の玉座に座り、体の至る所に金の装飾品を身につけている。そして、辺りには金銀財宝が溢れていて、まるで黄金の海のように変貌していた。
〖輝きは美しい……欲のままに……!!その欲望のままに!!〗
第九十六話 終
28話の伏線回収ようやくしました。八咫鏡に映った水星が死体のようだったのは、何度も死んでいるからだった訳です。




