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第八十九話 水星

〖なぜぬらりひょんを切れた……!?〗


 土星(サタン)がそう呟いている間にも蒼は全く容赦せず切りかかった。まるでこの戦争の無情さを体現しているかのようだった。

 土星(サタン)は蒼の持っている刀を見て気がついた。

 『鬼丸国綱』。北条氏に語り継がれた日本刀で、北条時頼が毎夜夢に出てくる小鬼を退治したと言われている代物だ。この刀があればぬらりひょんを切り裂くことも可能だろう。


〖そうか……北条の子孫……!〗


 鎌倉時代滅亡間際の執権、北条高時は妖怪に気を取られ、鎌倉幕府滅亡を導いたと言われている。

 つまり、土星(サタン)の部下の小鬼が時頼に退治された恨みで、妖怪によって鎌倉幕府は滅亡させられたのだ。その子孫が今目の前に現れたのだ。


〖愛野蒼、確実に仕留めてやる!〗

「ごめんなさい、あなた程度に二組も使うのは勿体ないですから。」


 蒼は純粋な気持ちでそう言ったが、土星(サタン)は激怒した。


〖創星の時より廻りし天の理よ

 ()にすら縛られぬ土星、今ここに顕現せよ〗


 唱えた瞬間、土星(サタン)は爆発するように巨大化して基地の天井をぶち壊した。ビルのように大きくなった餓者髑髏は、基地を出た。幸い、仝々とは反対側だったので、そこがぶつかることは無かった。


〖お腹が空いた。〗


 土星(サタン)はそう言うと、10m程もある大きさの口を開いた。土星(サタン)が深呼吸するように深く息を吸うと、基地の中の兵の魂がどんどん吸われていっていた。敵味方も関係ない。


「おいおい、収拾がつかないじゃねぇか……!」


 圭太は荒々しい口調でそう言った。緊急でパーカーのボタンを押すと、叫ぶように圭太は報告した。


『先程から土星(サタン)と戦っている。奴の攻撃で兵の魂がどんどん吸われている。』


 報告中に振り向くと、気がつけば、廊下の奥の床、壁、天井が金に侵食されている。完全に基地内は混沌と化している。この状況では大量の死者が出る。どうすれば……


────────────────────────


 十星の基地は横長で、10等分にされて一人一人配置されている。横長の基地の中心に設置された入口と、反対側の裏口などから兵は侵入している状態。ENOMの報告によれば、裏口付近で圭太達が土星(サタン)と出会ったと言う。


挿絵(By みてみん)


 そして、仝々が金星(ヴィーナス)と出会った時間も考慮すると、土星(サタン)金星(ヴィーナス)の部屋は並んでいた可能性が高い。

 アタスマは状況を頭の中で整理すると、そこから導かれる答えを探し、直ぐに移動すると、予想の部屋の扉の前に立った。


「ここに居るはず……」


 アタスマが蹴りで扉を破ると、予想は的中していた。そう、そこに彼女はいた。


水星(マーキュリー)様、お手合わせ願います。」

「死んでも文句は言うなよ。」


 水星(マーキュリー)は戦況をメモしてある基地内の地図を破り捨てて立ち上がると、水の入ったペットボトルを二本、両手に持った。


「『水星(ウォーター)』。」


 瞬間、ペットボトルは爆発し、中の水は部屋全体にばら撒かれた。そして、水のかかったものは全て水星(マーキュリー)の手の内となった。そう、水がかかった物は全て水星(マーキュリー)が操ることが可能と言っても過言ではないのだ。


「さて、何秒生きられる。」


 水星(マーキュリー)はそう言うと、右手をアタスマに突き出した。瞬間、水のかかった棚は、まるで一人でに歩き出すかのようにズンズンと動き出した。同時に、他の小物も部屋を飛び交ってアタスマに向かっていった。だが、アタスマは動じる事なく右手の手のひらを向けた。


「『湾曲(わんきょく)』。」


 そう唱えると同時に、棚も小物も水星(マーキュリー)も、何もかも。そう時空すらもがグニャリと曲がってしまった。

 水星(マーキュリー)は驚愕し、目を見開いた。


「貴様……魔法を隠していたのか……!」

「なに、使えないなどと言った覚えはありません。」


 アタスマはMBU隊長になってから、いや、異世界警察に入ってから1度も魔法を使用したことがなかった。そもそもワールドマスターという役職で使う機会もなく、今回のような味方が敵になる事件が起こっても対応できるようにしておいたのだ。なので、この術を知っているのは世界に、悠と慎一しかいないのだ。


「曲がることに効果はありません。どれだけ曲がろうと水星(マーキュリー)様は生きていられます。ですが、その状態で身動きを取るのは難しいでしょう。」

「全く……詰めの甘さは一流だな!」


 瞬間、部屋中に隠された水のペットボトルは爆発した。先程のように、他のものを操るためではない。近距離で喰らえば、十星ですらひとたまりもない程の威力の爆発。

 水星(マーキュリー)は自身も少し傷を負ったが、勝ちを確信して、ニヤリと笑みを浮かべた。しかし、現れたのは無傷のアタスマだった。


「所詮は水滴の爆発、その軌道や形を湾曲させれば触れることすら叶いません。」


 アタスマはそう言うと、背後で手を組んでゆっくりと水星(マーキュリー)に近づいた。

 水星(マーキュリー)が手の中に隠していた水滴で攻撃しようとした瞬間、アタスマは許すはずもなく水星(マーキュリー)の腹に拳をめり込ませた。


「十星も大した敵ではありませんね。」

「ぬるい……ぬるい!!」


 瞬間、アタスマは地面に描かれている魔法陣に気がついた。魔法が放たれるのではないか、そう警戒したのが逆効果だった。


〖創星の時より廻りし天の理よ

 灼熱と極寒の水星、今ここに顕現せよ〗


 水星(マーキュリー)は口を開くなり、そう高速詠唱した。瞬間、部屋の中からは水没したかのように水が溢れ出した。そして、中から現れたのは、魚の怪物を従えた水星(マーキュリー)の姿だった。


〖ラウンド2と行こうか。〗


第八十九話 終

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