第九十話 1Page
「はぁっ……はぁっ……」
圭太の救出の時間は決して無駄では無かったはず。そう、自分に言い聞かせながらV-ENOMは階段を走って登った。
V-ENOMは先程、パーカーの連絡で悠からある重要な使命を託されていた。それは、この戦争の勝敗を大きく揺るがす、大事な任務であった。
「間に合った……!」
V-ENOMはよくやくその姿を見つけたが、それは恐るべき、いや、畏怖すべきと言える程不思議で不気味な見た目であった。
基地内で唯一、異様な箇所があったのだ。高級そうな素材の壁と床で作られている、この十星の基地だが、ある箇所だけは、土の地面に芝生があり、そして一本の大木が植えられていた。自然を感じられる?いや、それは本能的に排外したくなるほどに異様だった。
木と一体化しているその男は眠りについていて、V-ENOMが来たのに気がつくと、眠りから覚めて大地に足をつけた。
〖やぁ、初めまして。君は誰だい?〗
透き通った声、そしてふくよかではあるが、心優しそうな外見。その男は十星内で最も温厚で、最も危険と言われていた。
「私はV-ENOM。初めまして|地球《アース様。」
男の名は『地球』と言った。V-ENOMが名乗ると、地球はニコリと笑って、近くのベンチに腰掛けた。V-ENOMも丁度いい高さの切り株があったので、そこに腰かけようとした。次の瞬間だった。
部屋全体が大きく揺れ動くかのような激しい怒りの魔力が爆発した。
〖その木に触れるな!!!〗
低い声で地球は叫んだ。V-ENOMは、一応MBU隊長だ。十星に怒鳴られようが、自分より強い相手が居ようが怖がるような人間ではない。だが、これだけは話が違った。
恐怖で足がすくんで、全身鳥肌が立った。
だが、V-ENOMが切り株に座ろうとするのをやめた瞬間、地球は笑顔になって、〖こっちに座りなよ。〗とベンチの隙間を開けた。
地球の隣にV-ENOMは座ったが、正直怖すぎて何も考えられなかった。だが、落ち着いて悠に託された使命を思い出した。
「地球様、以前、異世界警察に幾つか規制をかけましたよね?」
〖そうだね。それがどうかしたのかい?〗
「あちらを取り消すことは出来ませんか?」
先程怒鳴られたことへの恐怖もあり、V-ENOMは恐る恐る質問した。部屋の外の戦争の叫び声など最早耳に入ってこなかった。
黙る地球に警戒したV-ENOMは腹を括った。また怒鳴るかもしれない。いや、それでは済まず殺されるかもしれない。
だがそれは全て杞憂だった。地球は爽やかな笑みを浮かべると、V-ENOMを見て言った。
〖君がそれを望むのなら喜んでそうしよう。〗
仲良くなった訳でもないが、地球はそう言うと、魔法陣を描いてブツブツと詠唱を始めた。日本語でも英語でもない。完全に理解できない言語だった。
時折地球は黙って、何かを待っているようだった。そう、現在地球は地球の神『地球』と会話しているのだ。
そもそも、十星は神の力と名を借りてその役職に就いている。だから、悠は太陽の神『太陽』から力を借りているし、それはどの十星にも共通していることだ。
基本神と会話することは十星ですらありえないはずだが、地球は十星内でさえ変わり者なのだ。
〖!@、*#""·:!!!/·〗
地球は会話が終了したようで、黙って魔法陣を揉み消した。
〖説得が完了したよ。仲間のみんなにも伝えてくるとしよう。〗
そう言って地球はスキップするように部屋から出ていった。その間にV-ENOMはボタンを押して全員に報告した。
『こちらV-ENOM、地球の説得に成功しました!存分に基地を破壊してくだ……』
V-ENOMは報告中に言葉に詰まって、ボタンを押すのをやめてしまった。その時のV-ENOMの顔はきっと、絶望に満ちていただろう。
〖信用してたんだけどなぁ。〗
どこかへ行ったはずの地球は、扉から頭だけを覗かせて、血走った目を見開いてV-ENOMを見ていた。それは大地の神とは程遠い、まるで悪魔のような見た目であった。
〖創星の時より廻りし天の理よ
生命の創造主、地球、今ここに顕現せよ〗
瞬間、部屋は爆発的な光に満ちた。光が無くなった時に見えたのは、大地の力を得た。いや、大地に冒されていた。
目は花が咲き、背中からは巨木が生えていた。片腕は苔むし、もう片方の腕は草むらのように雑草と花が咲き乱れていた。
〖大地の血肉となれ!!!〗
モザイクがかかったかのうな低い声は部屋に響き渡った。そして同時に、この戦争の1ページは捲られることとなった。
「よくやった。V-ENOM。」
聞こえるはずもない、悠の声がV-ENOMの耳には届いた。次の瞬間、基地は真っ二つになり、基地のほとんどは瞬く間、そう文字通り瞬きする間、一瞬で焼き尽くされた。
「月。待ちくたびれたぞ。」
第九十話 終




