第八十五話 嵐
「うっし。俺の家ついたから。この車やるよ。異世界警察さん、頑張ってくれてるしな。」
「感謝する。」
悠はそう言うと、男が居なくなるのを見送ってから、運転席に座った。ココも隣の助手席に座った。
「どこへ行こうか。」
悠はそう言いつつも、導かれるように車を運転し始めた。法律を少し犯したとしても、誰かを傷つけなければ大丈夫だろう。悠はスピードを出して車を動かした。
ココはタッチパッドを操作すると、何やら曲を流し始めた。悠も少しは聞いたことがある、『ANATA』の『冬雪』だった。今は冬だし、季節も合っている。そんなことを考えていると丁度雪も降ってきた。
先程の男は自動運転をしていたが、悠はやり方も分からない。とにかくハンドルを回して、ブレーキを踏むことはなかった。
ココはサングラスをかけて、悠にもう1つのサングラスを渡した。悠はサングラスをかけると風をきって運転した。冬雪は気づけばサビに入っていて、ココは口ずさんでいた。
『冬の〜雪〜が 今もあなたを 思い出させる〜
この寒〜さで 私の愛も冷まして』
ANATAが歌いきったところで車は海岸についた。冬ということもあって、夜になるのが早く、夕日が海に映っていた。
車を止めると、ココは飛び出るように砂浜に出た。エンジンを切ると、音楽は勝手に止まった。
明日決戦だというのに呑気だ。それでもこのかけがえの無い時間が大切だった。ココはテンションが高くなって、靴を脱ぐと、ズボンを少しまくって海に入っていった。
「ひゃぁっ!冷たい!」
ココはそんなことを言いながらも楽しそうに笑顔で浅瀬を走った。悠も車から降りて車に寄りかかって立った。
「わ!見てください、これ!貝がら!」
ココは笑顔で拾った貝がらを悠に見せつけた。中から生物が出てきたのを見ると「あっ、ごめんなさい!」と言って貝がらを海に戻した。
「ビーチボールだ!」
ココは砂浜を歩いてビーチボールを見つけたようで、掲げて持ってきた。すると砂浜に足で線を引いた。
「悠様も一緒にやりましょ!!」
悠は柄に合わないが、ココに手を引かれて渋々悠はやることにした。靴を脱ぐと、ココが投げてきたボールを返した。
共にやっているうちに、渋々やっていた悠も笑顔になってきた。ココは悠に返されたボールをミスして海に飛ばしてしまい、拾ってきた。
ココはボールを拾うと、そのまま立って夕日を見ていた。悠が近づいてくると、ココは疲れたのかその場に座って、足を動かして水をチャプチャプとした。
「私……悠『さん』が好きだったんです。」
詳しく言わずとも、Yのことだとわかった。
「悠様が第壱区に行くって言った時……悠さんにも二度と会えなくなるんじゃって思って……だから帰ってきてくれて嬉しかったんです。」
ココはそう言うと、ビーチボールを上に投げて拾うという行為を繰り返し始めた。恥ずかしくて落ち着いていられないのかもしれない。
だが、吹っ切れたようにココは立ち上がると、遠くにビーチボールを投げて、涙を拭いて笑顔になった。すると、夕日を見て叫んだ。
「もういいんです!私今幸せだから!」
笑顔になったココを見て、悠も笑顔になって近づいた。悠は近づくと、頭をポンと叩いた。
「きっとY……悠も気持ちに答える。」
「……ちょっとセリフクサいですね。」
ココが笑ってそう言うと、悠は恥ずかしいのか赤面して笑った。ココが失った青春は、ようやく今取り戻されたのだ。そして、それは終わりだ。
【バァァァンッ】
低い発砲音は、静かな砂浜全体に響いた。悠の目に入る光景よりも先に音が耳に入ってきた。
ココは背後から心臓を打たれて、吐血してその場に倒れた。悪夢を見ているのか。そうかもしれない。バーナが殺されたのを見て、悪夢になっているのかもしれない。
現実は非情にも悠の心に囁いた。
ココロ・シンリーは死んだ───
「ココロ・シンリー!!!ココロ!!!」
悠が必死に揺らして起こそうとしても、ココはぐったりしたまま目を開かない。『治癒』の魔法があれば。こんな傷簡単に言えるはず。
ココを打ったのが誰なのか、そんなもの確認する気にもならなかった。悠はココを起こそうとして懸命に身体を揺らし続けた。
「悠……さん……」
ココは重たい瞼を持ち上げて、手で悠の顔に触れようとした。悠は涙を流して一生懸命に助けようとしたが、もう無駄な事は分かっていた。
「私……全く人を救えなかった……全く人を笑顔になんか出来なかった……」
ココも涙を流して、言った。
「最期くらい……悠さんだけは……笑って欲しい……」
ココに言われて、悠は必死に笑みを作ろうとした。涙を流して笑顔でボロボロの顔で、悠はココに言った。
「お前は……皆を救ったさ。」
その言葉を聞いて安心したのか、ココも笑顔になって、そのまま息を引き取った。悠は涙を枯れるほどに流し続けた。
ようやく激情を抑えた悠は、顔を上げて犯人を見た。視界が揺れ動くようだった。動揺して、真っ直ぐ物を見ることすら叶わなかった。
「はぁっ……はぁっ……ゴドラ……ゴドラァァ!!!」
悠は立ち上がると、拳でゴドラの顔面を殴った。ゴドラは防御も躱すこともせずに、攻撃を受けた。だが、涼しい顔で悠を見た。
「ココロ・シンリーは生き返ったか?」
悠は絶望し、膝を着いた。
第八十五話 終
ココ初登場時からこの退場の仕方なんとなく決まってました笑




