第七十九話 ロス
※この物語はフィクションです
『狂心症』
15××年に発見された病。松永久秀や足利尊氏などの人物も該当(足利尊氏は後に判明)。ある条件下で自我を失い、突然狂ってしまうという症状。
海外では、アトランタ連続児童殺害事件やオースティン連続爆破事件の犯人が該当。オースティン連続爆破事件では、狂心症の症状が続き、最後には爆発物で犯人は自殺したとされる。
《20××年発売 世界の病28より》
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全てが狂った。そして、全てが狂っている。
こんな事態になるのなら、処理しておけば良かった。ああ、なぜこうなってしまったんだ。十星が正しかっただなんて。
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「蒼。起きろ。大丈夫か。」
悠は思わず眉間に皺を寄せ、困惑しながら蒼を起こした。蒼は全身に酷く冷や汗をかき、サウナに入った直後のように服は濡れていた。
「ごめんなさい……今日も魘されてましたか……悠さんにも言われたのに。」
「そう簡単に変われるものでも無いだろう。だが……少し心配になった。」
悠ですら少し心配になってしまった。何せ、魘されているというよりも「苦しんでいる」ようだったのだ。
激痛でも感じているのか、叫んで、低く唸ったと思えば、また叫んでと言うのを何度も繰り返していた。
「祖父が……やっぱりなんでもないです。」
蒼は悠に相談しようとしたが、辞めておいた。こんな話をした所で何も変わらない。それよりもここから出ることを優先しなければ。
「蒼さん、大丈夫なの?」
その声は突然扉の奥から聞こえてきた。パスワードで開かない方の扉だ。聞き馴染みのあるこの声は……
「凜奈さん……?」
「貴様が寝ている間に救助に来たのだ。とはいえ、この女一人で出来ることなどない。今応援を呼んでいる最中だ。」
「助けに来たのに酷い言い草ね。」
「事実だ。」
凜奈はムカついたのか、扉を蹴りつけて拗ねてしまった。だが悠は全く反省する気もなかった。
蒼は立ち上がると、扉の奥の凜奈に話しかけた。
「今何時ですか?もう朝ですか?」
「朝どころか、昼の13時よ。14時には情報班からアストラがパスワードを教えて貰って来るから。」
すると、凜奈は疲れているのかため息をついた。
「どうしたんですか?」
「ここに来る途中、ラリってる敵に会って、絡まれたのよ。変な葉っぱでも吸ったのかしら。」
蒼はギクッとした。『紫煙』だ。叢雲の『紫煙』には急性中毒の効果がある。それも、とても強い症状の。おそらくそれが薄れてきた最中だったのだろう。こんな状況でも悠は表情を崩さなかった。いや……それは正しいのだろうか。反省を……すべきでは……??
「橋本凜奈。貴様戦闘できるのか。」
「当たり前よ。『Ⅲ』なんだから。」
「ならこの扉を破壊してみろ。」
悠がそう言うと、凜奈は一応指示に従って、魔力を込めて蹴りを放った。だが、鉄の扉は音だけ立ててビクともしなかった。
「外側は防御魔法が薄いと思ったが……そんなこと無かったか。」
「こっっの野郎……!!足痛いのよ!!」
扉越しでも凜奈の怒りは感じられた。鋼鉄の扉が魔法で守られている。そりゃあ痛かろう。
悠も蒼も諦めて静かにしていた。悠は座ると直ぐに眠りについてしまった。非常に疲弊しているのだ。なにせ、今の悠は魔力以外、凡人と何も変わらない。この基地内の大量かつ膨大な魔力に晒され続けていれば、直ぐに疲れてしまうのも無理ないだろう。
数十分後には外側からアストラの声も聞こえてきた。情報班からパスワードを貰ったアストラが合流したのだろう。悠は目を開けて聞いた。
「アストラ、パスワードはなんだ。」
「えぇっと……『237964』だそうです。なんの関連性もない数字だとか。」
「そりゃあ分からない訳ですね……」
蒼は疲れた顔で番号を打った。「ピポポ……」という音の後に、ガチャという解錠の音がなって、蒼は歓喜した。
「アストラさん、凜奈さん、ありがとうございました!」
すると蒼は鬼丸の柄を握って扉を開いた。
「なんだ。解けたんか。一日出てこなかったから死んだんかと思ったわ。」
広い部屋の真ん中の椅子に座っていたのはロス。あの関西弁の男だった。悠は叢雲を抜いた。
「なんやねん。ここは日差し入ってきてないぞ。」
「関係ない。」
悠はそういうと、叢雲に話しかけた。
「天井をぶち抜いてくれ。」
「なにゆうてんねん。『地球』の規制忘れたんか?」
『一、大地への破壊の規模ごとに破壊者に罰が科せられる』。地球がかけた規制の一つ。魔ノ國で人工物も対象ということは悠も知っていた。
だが、叢雲にやらせる。叢雲の魔力が削られる。つまり、被害を受けるのは叢雲だけである。
【請求は多くするぜ?】
叢雲は煽るようにそう言うと、人の形に戻って、天井に手をかざした。瞬間、天井はぶち抜かれて、日光が入ってきた。
【久しぶりじゃねぇか、ロス。】
「なんなお前、朝霧悠の仲間になったん?」
ロスはそう言うと鼻で笑った。裏切り者を見下すかのようだった。だが、叢雲は当たり前のように否定した。
【元々貴様らの仲間になどなっていないが。】
ロスの表情からは笑みが消え、叢雲を睨んだ。叢雲は変顔をして挑発すると、元の刀の姿に戻った。
「決着をつけようか。ロス。」
「かかってこいや!!」
第七十九話 終
序盤の展開がごちゃごちゃしてましたが、明後日くらいには分かると思います。




