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第七十五話 転落

蒼の過去編がほんの少しあります。

 お母さんとお父さんは居なかった。片方は死んでて、もう片方は出ていった。だから、ちっちゃい頃から僕はおじいちゃんに育てられていた。


「蒼、親って言うのは産んだだけでなれる訳じゃない。責任を伴って、そして愛情を注いで初めてなれる。」


 それが口癖だった。ずっとそう聞かされ続けてきたから、おじいちゃんは僕の親同然だった。厳格だったが、心優しく、義理や人情は誰よりも持っている人だった。



 昔の話。小さい頃だったけど、しっかりと覚えてる。あれは小学3年生の頃だった。おじいちゃんと二人で散歩していた最中。

 オバサンが売っていた焼き芋を買ってもらって、アツアツなのを我慢しながら食べていた。


「美味しい!」

「そうか。また今度行こうな。」


 二人で手を繋いで歩いていた。田舎なので、少し整備されたコンクリートの道の上だったが、当たりはほとんど森で、隣では竹が風で大きく揺れていた。

 枯葉をグシャリと踏む音に満足しながら歩いていた。そんなささやかな幸せすら、長続きはしなかった。


 さつまいもに夢中で、道路の石に気が付かなかった。石に躓いて転んで、おじいちゃんの手を離してしまった。そのまま転倒して、隣の崖から落下してしまった。


「蒼!!」


 おじいちゃんはそう叫んで崖から飛び降りてきた。そこから転がっている間の記憶は何も無かった。

 痛い。全身が痛んで立ち上がれない。ようやく止まったけど、足も痛くて身動きが取れない。


 近くに転がる、ぐちゃぐちゃになったさつまいもを見て、泣いてしまいそうになった。でも、その後の光景で涙すら止まってしまった。


「お……おじいちゃん!!」


 おじいちゃんは僕を庇って、守ってくれたんだ。そのせいで全身傷だらけだった。

 小学生の蒼にはどうすることも出来ず、思わず大声で泣いてしまった。不幸中の幸い、丁度近くを大人が通りかかっていて、助けに来てくれた。

 状況を見ると、直ぐに緊急事態だと察して救急車を呼んでくれた。


────────────────────────


「───う。蒼。」


 悠の低い声で蒼はようやく現実に戻ってきた。昔の悪夢を見ていて、蒼は全身に冷や汗をかいていた。

 相当(うな)されていたのだろう。バーナが心配そうな顔で覗き込んでいて、悠も露骨では無かったが、少し心配そうな表情だった。


「なんの夢見てたんだよ。」

「ちょっと昔の……」


 蒼はそこまで言うと、重い体を起こして歩いたが、よろついて壁に手をついていた。

 あの後、祖父と蒼は救急搬送され、蒼は全治数ヶ月で済んだ。だが、祖父は体が弱かったこともあって、右足の骨を骨折してしまい、それからは車椅子で生活していた。


 もうおじいちゃんの事は忘れたはずだ。忘れろと皆に言われたし、僕もそうするつもりだ。でも、毎晩毎晩夢に出てくる。


「蒼。貴様は弱い。」


 廊下を歩いている最中に突然そんな事を後ろから言われて、蒼は度肝を抜かれた気分になった。だが、悠は至って本気な表情だった。


「力も強い。戦闘力もある。戦闘IQもある。だが弱い。」


 何を言いたいのか分からなくて、蒼は首を傾けてしまった。すると、悠の姿は気が付けば視界から無くなっていた。

 瞬きする間に、悠は叢雲を抜いて蒼の喉元に当てていた。


「心だ。」


 悠はそう言うと叢雲を収めた。だが、蒼は 心臓に切っ先を向けられている気分だった。


「魔法の強さも、戦闘も、自分自身を『信じる力』がなければ強くなることはない。貴様は……常に一人で生きている。」


 そう言うと、悠は歩き始めて、蒼とすれ違うと、肩をポンと叩いた。


「蒼、強くあらなければならないのは力ではなく心だ。」


 悠はそう言うと、歯磨きに言ったのか、洗面所へ向かった。

 「心」。その言葉を何度か頭の中で繰り返しているうちに、蒼は何となく報われたような気分になった……と、同時に突然刃を向けてきた悠への恐怖が襲ってきた。やばすぎだろ。


 3人が朝の身支度をしている最中、部屋のインターホンが鳴ったので、バーナいち早く扉を出た。


「お、バーナちゃん達もう起きてたのかい。これ朝食。」

「ありがと!」


 昨日の受付の店員が朝食を届けに来たらしい。バーナは元気よくそう言うと、朝食を受け取ってテーブルに置くと、玄関の扉をしめた。

 悠は食器の上のサンドウィッチを手に取ると、口に入れて、支度を行った。


「……サンドウィッチマンって面白いですよね。」

「なんだ突然。」


 蒼がいきなりお笑いの話をし始めたので、悠は困惑して思わずそう口にしてしまった。


「いや、悠さんもお笑いとか庶民的な物見るのかなーって。」

「見る。霜降り明星は気に入っている。」


 「お笑い」という意外な会話に、別部屋のバーナは笑ってしまった。人間離れした強さの2人でも、やはり人間なのだと実感した。


「ゆくぞ、DNe'へ。」


 支度を終えた3人は、ホテルを出ると、豪華な作りのDNe'の基地へ向かっていった。まだこの時は知らない。蒼の身に……3人の身に、何が起こるのかを。


第七十五話 終

サンドウィッチマンと粗品さん面白いですよね

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