第七十二話 恐竜
この章は個人的に結構お気に入りです
「あんなこと言ってたけど作戦はあるの?」
凜奈はソファに座って何やら考えている悠にそう聞いた。魔王が異世界警察署を訪ねてきてから一日経った。
「作戦も何も。『十星世界』の構造も何も分かっていない状態でどう動く。」
『十星世界』とは十星のいる世界のことだが、その世界については何も分かっていない。研究班が全員で揃って調べ続けているが、『理』の異常がようやくわかったところだ。
「『理』の異常は“身体能力の低下”だ。つまり、動きが鈍くなる。それも大幅にな。」
「多分蒼クンへの対策だろうね。」
アストラはそう言った。十星にとって蒼の存在は完全に想定外であった。なので、対策として『理』の異常を使ったのだろう。
「ハッキリ言って、ヤツは狂っている。総合的な強さで言えば私が勝っているが……単純な戦闘力で言えばヤツは私すら凌駕している。」
凜奈はその言葉を聞いて驚いた。いつも自意識過剰な悠ですら認めるほどの実力。だが、凜奈にとってはどちらも化け物であることには変わりなかった。
「そう考えれば十星が蒼を異世界警察署に帰したくなかった理由が分かりますね。ココと遭遇したのも、戻ってきたことも、全てが予想外だったのかと。」
V-ENOMがそう言うと、悠は頷いた。そう、全てが十星の思い通りに行っていないはず、なのになんだ。この違和感は。
そう、十星の対応速度だ。まるで蒼が出会うのを知っていたかのようなこの速度。仮に知っていたとすれば、なぜ止めなかった?もしかすれば、“わざと合流させた”可能性まである。ココを始末したかったと見せかけて、実はココをあの世界に送って、蒼と合流させるのが目的だったのではないか。
「悠様?」
「ん、どうした。」
「いや、考え込んでいたので。」
V-ENOMがそう言ってきた。考えすぎても杞憂な可能性もある。考えすぎるのはやめておこう。
「悠様。」
突然低い声で呼ばれたので驚いて振り返ると、久しく見る慎一が居た。
「どうした、慎一。」
「研究班に不審な連絡が来たことのことです。宛名不明の。」
相手にする必要も無さそうだが、一応内容を聞いておいた。
「“第零区と第壱区を合併させろ”との命令です。人数不足を見ての判断でしょう。まあ、合併の案は元々圭太が出してましたし、断る必要も無さそうですけどね。」
「まあ、相手に合併を逆手に取られることもない。許可していいだろう。」
そんなこんなでサラッと第零区と第壱区は合併することになった。
すると慎一がまだ伝えたいことがあるらしく、口を開いた。
「出動要請が出てます。ワンク3です。」
「次から次に……」
悠は叢雲を持つと、少し遠くでいちごミルクに感動している蒼の椅子を蹴りつけた。
「出動要請だ。行くぞ。」
「ちょっと……えぇ!?」
蒼は驚きでいちごミルクを零してしまって、少し拗ねていたが蒼と共に向かった。移動はエレベーター式よりもテレポート式の方が便利なので、第壱区の物を使った。
「そういえば貴様の刀、なんなんだ?やけに切れ味が良いが。」
「鬼丸国綱、『鬼丸』です。亡くなったおじいちゃんが遺してくれた刀なんです。」
そう言うと、蒼は鬼丸の柄を握りしめた。まるでその祖父の手を握るかのように。
だが、悠は軽く無視してエレベーターからスタスタと出ていってしまった。蒼は眉をひそめて不満そうにしていたが、扉から出て着いていった。
出た先は森にある家の中だった。木材で作られていて、明らかに別荘という雰囲気だった。
「……わあ。」
蒼は気まずかったのか、そんな事をボソボソ言いながら歩いていた。蒼は誰とでも気まずくなる特技の持ち主なのかもしれない。
色々な部屋を探索していたが、これといっておかしなものも見つからなかった。
だが、悠は気づいていた。ベッドルームのベッドの下に“何か”がいるのに。だが、非常に面倒くさい。何せ、魔力も微量しか感じない。わざわざ警戒して攻撃する程のものでもない。
「おい、あのベッドの下、ネズミがいる。蹴りつけて追い払え。」
「え、可哀想じゃないですか。」
「いいからやれ。」
蒼は渋々といった感じで、ベッドの下の物を蹴りつけた。すると、それは「ふんぎゃぁっ!?」というよく分からない叫び声を上げて、ベッドを吹き飛ばして起きた。
悠は吹き飛んできたベッドを片手で止めたが、蒼が反発的に切ってしまっていたらしく、悠の手のひらにぶつかる頃には真っ二つになっていた。
「痛た……眠い……って、ぎゃぁぁあぁああ!?誰!?」
「騒がしい女だ。」
悠は顔を顰めてそう言った。女は驚いた表情で悠を見ていた。寝起きでどうやったらこんな叫び声が出せるんだ。
「異世界警察だ。騒ぐな。」
「異世界警察……アタシ高校出てないから全然覚えてないんだけど!?」
「あ……怪しい者じゃないです……!」
蒼は女性の身体を起こして座らせてあげると、近くに置いてある缶の飲み物を渡した……が、ビールだったので引っ込めて、冷蔵庫から水のペットボトルを出して渡した。
「ふぅ……とにかく、害は無いって事ね。」
「はい。ビーストだけ倒せば帰りますから。」
そう言うと、女は「でも……」と呟いて窓を見た。蒼も横から窓の外を見ると、驚いて「えぇっ……!?」と声を出してしまった。
悠も面倒くさかったが一応外を見れば、外には大量の恐竜がいた。
「敵は多いよ?」
めんどい。
第七十二話 終
この作品が面白いと思ったら是非★やブックマーク、コメントなどお願いします。
また、他の連載作品などもお願いします。
作品の質向上の為にもアドバイスなども下さったら有難いです。




