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第五十八話 決着

 ダイヤは怒りのあまり、自身の刀を抜き出して辺りの物を切り刻み、悠の首元に突きつけた。


【「何となく」だと……ふざけるな!!そんな適当な言い訳、あってたまるか!!】

「その“適当”に負けたのは貴様だろう。」


 悠は態度を崩さず、足を組んで座ったまま、ダイヤを睨んだ。

 ダイヤの方が立ち上がっていて目線が上のはずなのに、まるで悠は『下から見下している』ようだった。


「おい、アストラ。何が起こってたんだ。」

「単純な話さ。ダイヤは裏の裏の……って思考の渋滞に陥った。最終的に取った選択は多分『自分の選択の逆の選択』をするとかなんだろうね。でも、裏の裏をかき続ければキリがない。そんな中悠様が選んだのは……」

【運任せだと……!!】


 ダイヤは苛立ちを我慢できなくなり、刀を真上から振り下ろそうとした。だが、悠は気がつけば姿を消して、ダイヤの頭の上に足を組んで座っていた。


「私の取った選択はあくまで『2分の1』でしかない。だが、貴様は『自分の選択の反対の選択』などという邪念をそこに刺した。運に邪念が入れば、確率はゼロだ。間抜け、愚か者、下劣で下等。浅はかで薄っぺらい人間性だな。」


 罵倒に耐えきれなくなったのか、それとも諦めたのか、頭上の悠を振り下ろして、ストレス発散に異世界警察の遺体を蹴り飛ばすと、他の部屋への扉に手をかけた。


「なんだ、賭けは終わりか。」

【今回の結果は無しにしてやる。その余裕も今のうちだぞ、朝霧悠。】


 するとダイヤはバタンッと扉を閉め帰っていった。


「悠様、この世界どういたしましょう。」

「恐らくダイヤは世界を転々としている、ビーストとして捉える必要はなかろう。問題は喰人症とやらに蝕まれた保護対象だが……」

「奴らなら俺が異世界警察署からの援軍に連れてって、保護してもらった。今頃回復の為に治療してる頃でしょ。」


 悠は興味なさげに「そうか。」というと、スタスタと早く帰ってしまった。


「悠様、恐れ入りますが、何故一回目のゲームでは敗北したのでしょうか?」

「いずれ分かる。」

「スパイの仕事ってなんなんだ?」

「それもいずれ分かる。」


 圭太は思わず「あぁ!?」と言ってしまった。何でもかんでものらりくらり誤魔化して、ムカつく男である。


「とにかく、一件落着だな。」


ワンク 『2』

理の異常 『地形』

ビースト 【ダイヤ(喰人症感染者)】


 完全に全てが解決した。


 そう思った次の瞬間、飛行船が吹き飛ぶほどの衝撃が起こり、【バァァァアアッン】という轟音が鳴り響いた。


「な……なんだ……!?」

「……そういえば、この大地、火山が噴火すれば森にも街にも引火して終末ではないか。」


 悠はわざとらしく棒読みでそう言った。圭太は嫌な予感がして、飛行船の薄い膜のような壁を切り裂いて地上を見た。


 大地は地獄絵図だった。噴火した火山から流れ出したマグマは森にまで行き届いて、火山灰が街を覆い尽くしていた。

 次の瞬間、吹き飛んできた落石……いや、吹き飛んできたから“落”石ではないのかもしれないが。

 そんなことはどうでも良く、とにかく飛んできた岩が飛行船に直撃したらしく、船内は物凄い衝撃で揺れた。


「そういえばまだ『喰人症』に感染しておらず、この世界に残っている保護対象も何人かいるな。」


 また悠はわざとらしくそう言った。まさか、と思い街を見下ろすと、微かにだが人影が何人分か見えた。そして、最悪な出来事が起こった。飛行船に直撃した石は、まずい場所に当たったらしく、飛行船の後方が大爆発を起こした。次の瞬間、船内の『喰人症』の毒霧は吹き出して、飛行船は墜落していった。


「アストラ、私の心の中に『侵入』しておけ。菊池圭太、保護対象は助けておいてやる。せめてもの慈悲だと思え。」

「恐れ入ります。」

「は!?おいおい!!」


 圭太は思わずそう叫んだが、悠はアストラに『侵入』させると、無視して飛行船の外に出て帰っていった。


「っ……行ったかな。」

 

 そう言って、悠達が去ったのを確認すると、圭太は真っ黒い革の手袋を外して、ポケットにしまった。

 すると、全身の魔力を両手だけに集中させ、落下していく飛行船の中でも平静を保った。


「『月欠(げっけつ)』。」


 『月欠(げっけつ)』、別称『月欠(つきがけ)』。禁術で、誰一人として見せてはならない。

 全身の魔力を集中させ、『焔』として解放することで、一本の刀を創り出す術。見た目はまるで炎の刀だが、その威力は叢雲にも勝る。


 圭太が月欠をひと振りすると、一瞬にして飛行船は横向きに真っ二つになった。瞬間、台風のような突風が起こり、毒霧は一瞬にして掻き消された。

 圭太はまるで覚醒状態に入ったかのように、瞬きすらせずに、目をかっぴらきにしたまま、マグマに向かって『月欠』を大きくひと振りした。だが、流石にそう簡単にはいかない。表面が少し飛ばされただけで、止まらずどんどんマグマは流れてくる。


「くそ……どうすれば……!」


 森に今にも溶かしてしまいそうなマグマを払い除けていったが、一瞬未離した隙に、数百メートル遠くの方で、マグマが森の木に触れそうになっていた。

 あと数ミリ、まずい。圭太は『月欠』を振りかざした。


 間に合わない───


 そう思った瞬間、何者かによって、マグマはなんと()()飛ばされた。


「圭太、怪我は無いか?全く悠様も乱暴だなぁ。」

「ENOMさん!」


 そこに居たのはMBU隊長、V-ENOMであった。


「助けに来た。」


第五十八話 終

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