第百十六話 倒木
標高500m。蒼皇は木星の猛攻を耐えるのに必死だった。
巨大な大木の上で戦っている2人だが、大木は止まることなく上空に伸び続けている。このペースで行けば、10分も経たないうちに身体に危険を及ぼす。
〖抵抗せんか!!〗
もどかしくなった木星はそう叫んだ。魔法を使えるというのに、防御ばかりで攻撃をしてくる気配が全くない。
〖木の伸び始めで降りておけば助かったものを……冷静な判断すらままならないか!〗
「……沈め『紺』……!!」
蒼皇は最後の抵抗で、『紺』を使って大木ごと沈めようとした。だが、ほんの少しスピードが落ちた程度で、大した変化はなかった。
〖無駄だ。この木を止めるのは諦めろ。〗
生憎、足場は悪くない。戦闘は出来る。だが、蒼皇はしなかった。ただ、一時のチャンスを待ったのだ。
魔力が足りない。これでは、あの技を使えない。
〖木星!!〗
大木から細い木の鞭を伸ばして、木星はそれを振り回した。蒼皇は何度か躱したが、止むことのない攻撃に腕や足を打たれた。
〖死にたいのなら死ねばいい!!〗
「黙れ!!」
蒼皇は堪えきれなくなり、下を向いたままそう叫んだ。
「人間が傲慢だとか言ったか……?」
〖あぁ、横暴かつ傲慢!!貴様らは……〗
「だったらお前は怠惰だな。」
大声で、蒼皇を罵ろうとした木星は、そう言われたことで、体の動きが止まった。
怠惰だと?ふざけるな。私のどこが……どこが……ど……こ……が……
「自然に頼りっぱなしで自分じゃ何もしていない。俺は自分を誇ってる、だから勝てると思ってる!お前は何かに頼って、持ち上げるのに必死だから、その全てよりも劣ってる。」
〖黙れ!!貴様に何が分かる!!これは情だ、友情だ!!友の心の代弁だ!!〗
気が狂ったように木星はそう叫んだが、焦点が合って、景色が脳に伝わる頃には、視界から蒼皇の姿はなかった。
「なんだ、やっぱ愛も情もくだらないな。」
蒼皇は木星の背後に回ると、手のひらに一気に魔力を集中させた。蒼皇が使う、『色魔力』の最大の大技かつ、必殺技。
稲妻は空気を伝わり、宙を走った。爆発するような魔力は一気に放出された。
「消せ『暗』。」
瞬間、黒い稲妻と共に、木星の視界は暗闇に包まれた。バチッという仄かな音を最後に聴覚は機能しなくなった。雷のオゾンの香りで、鼻はツンとした感覚を感じた。血の味が口の中で広がる。
肩を稲妻に貫かれた感覚はあったが、触覚は麻痺してしまい、感じることが出来なかった。
第六感で感じた。死ぬ。体が持たない。電撃は体に広がった。
〖ぁああぁああぁっ!!!〗
痛みで叫んだせいで、喉が潰れたかもしれない。だが、木星はそれを感じる為の触覚も聴覚もなかった。
数秒すると、電気も収まり、木星はその場に倒れて、ビクとも動かなくなった。蒼皇も魔力を使い果たして、疲労でその場に倒れるように座り込んだ。
その時点で気がつくべきだった。大木の成長が止まっていない。気がつけば呼吸は浅くなり、体に力が入らなかった。
〖馬鹿め……!!〗
木星は、木の鞭で自身の体をつるし上げてようやく立ち上がった。全身傷だらけだが、視界はぼんやりと見える。
〖私には木がある……!!太陽がある限りは光合成で酸素を生み出せる。〗
そう言って、木星は木を操ろうとして右手を突き出した。魔力もない、酸素が薄く、体も動かない。蒼皇は全てを諦めた。
だが、同時に大木に大きな振動が走ったことで、木星の攻撃は止まった。
〖なんだ!?〗
下を見下ろすと、予想外のことが起こっていた。あれは火星が放った火だろうか。地面一体は炎に包まれていて、大木にもその火は移っていた。根の部分が燃えて、大木が段々傾いているのに気がついた。
一瞬、生まれた隙に気がついた蒼皇は、体を必死に動かして、大木が傾いている方向と反対に向かっていった。
〖っ!?〗
「馬鹿が。」
最後の捨て台詞を吐くと蒼皇は飛び降りて落下した。
〖馬鹿な、標高何メートルだと思っている!?〗
だが、蒼皇は途中で枝分かれしている木につかまって堪えていた。それになんの意味があるのか、木星には理解できなかった。
気がついた時には出遅れだった。
大木は「ミシミシ……」という音の後に、「バキィッ!!」という大きな音を鳴らして、傾いた方向に倒れた。
〖ふざけるなッ……馬鹿者がァァァッ!!〗
木星は捕まる場所がなく、そのまま落下していった。蒼皇は地面に近づくように大木を降りていった。大木は倒れていき、50°くらいの角度にまで傾いていた。
だが、まだあの男は諦めていなかった。木星は木の鞭で自身を絡ませると、蒼皇の目の前まで近づいてきた。
〖貴様が幸せなのは許さん!!天空蒼皇!!〗
「なに、妬いてんの?」
瞬間、どこから炎の弾が飛んできて、木星の体に掠った。全身が木で出来ている木星の体には一瞬で燃え広がり、焼けこげる痛みに木星は叫んだ。
〖ぐぁあぁああぁぁああっ!!!〗
「妬くのはこっちの専売特許なんでね。」
木星はそのまま燃え尽きて、灰になって宙に舞った。大木は地面に着く前に、木星が居なくなったことで、大木も同時に消滅した。
蒼皇はできるだけ地面に近づいていたので、安全に着地できた。
「手助けありがとう。圭太。」
「普通に喋るようになったんですね。蒼皇さん。」
圭太は意地悪くそう言うと、ニヤリと笑った。先程の木星を燃やした炎は、圭太が飛ばしたものだったのだ。
「トラウマ克服ってヤツだよ。」
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〖屋外の戦い 木星vs蒼皇〗
勝者 蒼皇
第百十六話 終
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