第百十五話 君は自己中2
次の日。
登校中、アヤナにも高本にも会うことはなかった。もちろん、ランにも。
学校に到着すると、3人が休んでいる事を聞かされた。休んでいる理由は担任も聞いていないらしい。
「お前、確かランの家と近かったよな。課題、渡しといてくれるか?」
「あぁ、良いですけど。」
帰り際、担任に課題を渡されたので、颯太は二つ返事で了承した。流石に何があったのか心配だ。自分以外の三人に風邪がうつったのかもしれない。
歩いている道がやけに長い気がする。足が進まない。頭では動けと言っているのに体が拒否している。冬の寒さで疲労困憊しているのかもしれない。
木々の揺らめく音と共に枯葉が降ってくる。夕焼けと共に、電線に掴まっている烏の鳴き声が響いた。
ランの家に到着して、インターホンを鳴らす。ボタンを押すと、『ピンポーンッ』という音が家の中に響き渡っていた。一分経ったか分からないうちに、もう一度鳴らしたが、応答はない。
車はない。保護者は仕事なのかもしれない。悪い事だと分かっていたが、心配が勝ってしまい、玄関の扉を開けて、家の中に入っていった。
人ごとに家は違う匂いがするが、この家はなんだか生臭い匂いがした。床の木が足音を弾ませる。リビングの扉への廊下が無限に感じた。
「あ、来てたんだ。気づかなかった。」
リビングの扉を開いて現れたのは、ランの姿だった。だが、それは信じられない光景だった。
「ぅ……ぅわぁぁああぁっ!!何が……何が……!?」
血まみれのランの背後にあるものが見えた。怪我をしている訳では無い。これは返り血だ。
背後には、包丁で何度も刺されて、姿の原型がないアヤナと高本が血だらけで倒れていた。
「アヤナは私の幼なじみだからさ。殺したくなかったんだよ?でも、君と付き合ってることを私に教えてくれなかったし。仕方ないかな〜って思って。」
そう言うと、まるで雑談でもしているかのように、ランは笑みを零した。颯太は取り乱して、耳に言葉が何も入ってこなかった。
腰を抜かして体が動かない。そういえば昨日、カフェの帰りに、『ランに呼ばれた』と少し言っていた。
昨日呼んで、ずっと刺し続けていた。颯太は口を押さえたが、耐えきれずに嘔吐をしてしまった。
「大丈夫!?颯太君!」
そう言って近寄ってくるランの姿が、得体の知れない怪物にしか見えず、颯太はランの腕を振り払った。
「何がしたいんだ……!?高本も……おェッ……うゥァ……」
「私ね、本当はコウダイのこと好きじゃなかったんだ。でも、君に近づくために付き合ったの。でも、君が付き合ってることすら教えてくれなかったから、役たたずだと思って、死んでもらったの!」
嬉々としてそう言う様子は、悍ましいという言葉が似合った。いや、それ以外に当てはまる言葉がなかった。
「ねぇ、聞かせて?アヤナもいない、コウダイもいない。君は私が好き?」
「はぁ……はぁ……ぁ……?お前のことを好きな訳ないだろ……!?こんなの……有り得ない……」
「え、好きじゃないの。」
「当たり前だろ!!お前なんか大嫌いだ!!」
最後の言葉をなんて言ったのか分からない。きっと「そっか」と言って、ランは自身の喉元に包丁を突き立てた。そのままランは命を絶ち、三人は病院に搬送されるまでもなく、全員が死亡していた。
颯太は鬱になり、口を聞くことすら辞めた。だが、そんな自由すら許されなかった。
颯太に言い渡されたのは懲役30年。最後にランが自殺したことで、犯人は不明になり、血で流されたことで、指紋による特定が難しくなったのだ。状況から判断されたのは、颯太が犯人ということだった。
最後まで必死に抵抗したが、願いが叶うことはなく、判決は変わることがなかった。
だが、ある時、男は突然やってきた。面会に来たかと思えば、背後に数十名の兵を携えてきていた。男の名は朝霧悠。世界の英雄だった。
「何の用ですか?」
「何の用だと思う。」
意地悪く男は言った。困惑する颯太の目を見ると、悠は口を開いた。
「貴様の戸籍を別人の戸籍に入れ替えておいた。天空 蒼皇、これからはそう名乗れ。」
運命かこの男の作意か。戸籍に登録された名はあのあだ名と同じであった。悠は証拠となる戸籍の紙を見せると、笑みを浮かべた。
「貴様はこれから異世界警察だ。」
次の日には出所の手続きが完了し、晴れて異世界警察官となった。だが、自分の中での心残りがあった。
アヤナが抱いていたものも、ランが抱いていたものも、本質的な『愛』だったのだろうか。蒼皇はその事を考える度、事件を思い出して頭痛がした。
一つだけ言えることは、きっとそれが本当に『愛』だとしても、それは下らないものなのだろう。蒼皇はそう思った。そう、信じたかった。
第百十五話 終




