第百十四話 君は自己中
思い出したくもない過去が自分にはある。
目を開く度呪いにかけられるようだった。目を閉じれば瞼にその姿が映って、自分を殺そうとしてきた。
あの事件から数百年が経過している。だが、全く記憶が薄れない。そんな人間が集まって作られたのがMBUだ。
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「よっ、ソーコー。」
『光代 颯太』。『光』と『颯』をとって、同級生には『ソーコー』というあだ名で呼ばれていた。
「高本。昨日の宿題やった?」
「やべぇっ、家に忘れた!」
「絶対やってねぇじゃん。」
そう言って颯太はクスリと笑った。親友の高本コウダイは愉快なやつだが、めちゃくちゃ頭が悪い。高本の彼女の浜野ランはテストがある度手を焼いているという。顔は良かったが、性格を見て高本は告白し、成功したという。
高本の隣のランは颯太の顔を覗き込んで聞いた。
「颯太、昨日アヤナと帰ってたよね?」
岡本アヤナ。数ヶ月前から颯太と付き合ってるが、あまり広めないようにしている。高本には言っているが、ランには報告していないようだ。
アヤナは、ランと大が付くほどの親友で、幼稚園の頃から、この高校に至る今までずっと一緒にいるらしい。高校も揃えたとか言っていた。
「うん。何ヶ月か前から付き合ってるんだよね。高本もアヤナも言ってなかったんだね。」
「ちょっと、コウダイ言ってよ!」
「ごめんごめん、颯太が言うなって言ってたからさ。」
アヤナはそう聞くと、肩を震わせて笑って下を向いた。すると、高本は調子に乗ったのか、颯太の肩を掴んで、言った。
「颯太、今日サイゼ行こうぜ。ダブルデートしようぜ。」
「サイゼでダブルデートってなんだよ。」
颯太は思わずツッコんだ。高本はお小遣いが減りすぎているらしい。だからバイトしろと言っているのに。
「じゃあいいよ。奢ってやるよ。『××カフェ』行こう。」
「本当かよ!」
颯太は呆れてため息をついた。
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『キーンコーンカーンコーン……』
「あぁ〜っ……ようやく終わった!颯太、早く××カフェ行こうぜ!」
「うん。ラン呼んできてくれるか。」
颯太がそう言うと、「おっけー」と言って、教室から飛び出すように廊下に出た。ランだけが運悪くクラスが違ったので、高本は休み時間が来ると毎回、他の教室に入って教師に怒られている。
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「ご注文はお決まりでしょうか?」
「じゃあココアをひとつお願いします。」
「私も同じで。」
「それじゃあ私も。」
「じゃあ、俺も!」
颯太の真似をするように、全員がココアを頼んだ。
「颯太、今日、社会の田畑やばかったよな!明日いきなりテストやるとか言ってさ、反論したら『黙れ』とか言ってたぞ?」
「颯太、庇ってくれてありがとね。」
「全然いいよ。それにしても田畑、最近なんかピリピリしてるよな。」
違うクラスの話をしていたからか、ランはついていけないようで、気まずそうな顔をしていた。気がついた颯太は急いで話題を変えた。
「そういえば課題、全クラス一緒なんだよね?多すぎだよね。」
「来週までって言ってたよね。颯太、終わらせられそう?」
「うーん……まぁ、前日に徹夜してやろうかな。」
ランと颯太が二人で話しているのを見て、嫉妬したのか、アヤナは颯太をどついた。
「ちょっと、何にやけてんのよ。」
「普通に話してるだけだよ。もう、アヤナは心配性だからなぁ。」
二人がじゃれ始めたのを見て、ランは呆れたような、冷ややかな目をしていた。それに気がついて、高本はランに抱きついた。
だが、何か気を損ねたのか、ランは立ち上がると、荷物を持った。
「ごめん、用事思い出したから。」
誰も何も言えないまま、ランはどこかへ行ってしまった。高本は放心状態になって、ランを追いかけることすら出来なかった。
「そういえば、ラン最近私への態度も冷たかったんだよね。なんか不満があったのかも。」
「俺のせいかな……」
高本は肘をついて、眉間をつまんだ。心当たりがあるようだ。
「前に颯太にアヤナは似合わないって冗談で言ったんだ。そしたらランが激怒して喧嘩になっちゃって……」
「まぁ実際アヤナは俺には勿体ないから……」
アヤナは頭も良いし、性格も優しい。いわゆるモテる女性像であった。それは颯太も自覚していたし、客観的に見ても正しいことだった。
だが、冗談でも悪口を言った高本を許せなかったのか、ランの地雷を踏んでしまったらしい。
「とりあえず今度聞くことにしてみるよ。二人でしっかり話さないといけないだろうし。」
こうして、高本はランときちんと向き合うことになった。この時止めていれば……いや、きっと、ランと出会ってしまった時点で、未来は決まっていたのだろう。
大黒柱が三本折れれば、全てが崩れるのは当然である。
第百十四話 終




