第百十三話 僕は自己中
大した過去は自分にない。
十星に入ってくる人々には、大きな傷を負った過去や、恨み、怨恨があることが殆どだ。
だが、木星こと、『袴田』にとって、大した過去などなかった。周りの人間を嫉妬するなど有り得ない。当然のこと、嫌な過去などない方がいい。だが、心の奥では、袴田は劣等感を抱えていた。それは若気の至りだったのか、当時10代後半だった袴田はそんな気持ちがあった。
「悠が意識を失ったそうだ。皆平等など有り得ない、異世界警察を統制する組織を作る。貴様も来るな、袴田。」
ゴドラにそう、話を持ちかけられた時、袴田は耳を疑った。年は大きく離れているものの、袴田にはそれと言った個性も何も無かったからだ。
組織を作るため、鈴木拓、袴田、ゴドラは一人の男に頼んだ。
その男は胡散臭かった。「自分は大地の力を持つ」、そう言っている男だった。
「僕のことは地球と呼んでくれれば良い。そういえばゴドラ君、以前与えた月の力は体に合っているかい?」
「ああ。力が漲る。袴田、鈴木、この二人も星の力を得ることを望んでいる。」
「そうか。良いんだね?」
二人がコクリと頷くと、地球は二人の頭に手を置いた。すると、常人には理解できないような言葉で突然詠唱を始めた。
瞬間、ピキッという音が響き渡った気がした。同時に、二人は稲妻が落ちたような感覚に陥った。全身の激痛と共に、力が湧き出てくる。
「君はこれから火星、火を操る力だ。そして君……あなたは木星、木を操る力だ。」
袴田はこの時でさえも、ずっと周りの人間に従って生きているだけだった。力が湧いてきた時でさえ、喜びも何も感じなかった。
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袴田が自己主張を抑えるようになったのは、あの事件からかもしれない。
以前、ゴドラが月の力を手にしたとき。ゴドラは自身の姉のメイに自慢しに行った。
「姉様、力を手に入れた。これがあればどんな敵でも殺せる!!俺は強くなった!!」
照れ隠しだったのかもしれない。ゴドラが力を手にした本当の理由は、メイを守るためであった。だが、見栄を張って、“どんな敵でも殺せる”、そう言ってしまった。
メイは激怒して、ゴドラを突き飛ばした。
「殺す為の力なら今すぐ捨てなさい!!強さは身を滅ぼすのよ!!」
「なんだと……クソ野郎……!!」
『姉様を守るためだった』。そう言えば済んでいた話。だが、引くに引けなくなってしまったゴドラは月の力を発動してしまった。
争いは激化していき、殺し合いと呼んでも良いほどエスカレートした。
目の前で見ていた袴田は、どうすればいいのか分からなくなってしまった。仲間のゴドラを押さえることが怖かった。だから、袴田は、メイを突き飛ばしてしまった。
転倒しかけたメイは隙が出来て、ゴドラの放った攻撃が直撃して、その場に倒れた。
「はぁっ……はぁっ……」
そこに居る全員の息が上がっていた。
ゴドラは勝利した。喜んでいるかもしれない、そんな浅はかな考えで、袴田はゴドラを見た。
「何やってんだ袴田……」
ゴドラは罪悪感で絶望していた。そして、袴田を蔑む目をしていた。
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だからこそ、袴田が、ゴドラから組織に誘われた時は衝撃と共に喜んでしまった。袴田は臆病で、自己中心的な男だったのだ。
それが正しい喜びでは無いことは分かっていた。ゴドラに利用されているだけかもしれない。だが、袴田は臆病だったのだ。
「これから僕たちは対等になる。僕の名前は地球。さあ、世界をひっくり返そう。」
地球の眼は輝いていた。まるで宇宙を映し出すかのように。
大した過去は自分にはない。だが、木星はクズであった。
第百十三話 終




