第百十二話 空踊る白鳥
〖もう気が済んだかい。〗
金星は豪勢な玉座に肘を着いて座りながらそう言った。
〖どれだけ足掻いても無駄なんだよ。僕が指1本でも触れれば、数秒もしないうちに君は金の像になって、内部までみるみる侵食されていくだろう。〗
「生憎諦めが悪いんでね……!!」
仝々の体の大半は金で固められていたが、無理やり体を動かして、仝々は自分のポケットから何かを取り出した。あまりに小さい「何か」を、金星は目で捉えることが出来ず、一瞬隙ができた。
「『巨大化』!!」
しまった、と思った頃には遅かった。巨大化した「何か」の正体は爪楊枝であった。魔力を限界まで注ぎ込まれた爪楊枝は、一気に巨大化し、金星の腹部を貫いた……と思われた。
〖木の欠片ごときで金を貫こうなんて甘すぎる。君の頭を見てみたいものだね。〗
爪楊枝の勢いは停止し、巨大化もほんの少しで止まってしまった。金星が服を捲ると、腹の一部は金に変化していて、爪楊枝が防がれるほど硬化していた。
「くそ……くそっ……!!」
〖これで、最後の手段も無くなっちゃったね、仝々君。〗
絶望して、仝々は膝をつき、地面を二、三度殴った。諦めた仝々をいい気味だと思ったのか、金星は口角を釣り上げて笑うと、近くに寄って、仝々の肩を左手で叩いた。
〖今なら君を助けて……〗
完全に自分のペースだと、金星は確信していた。人間は、相手が油断したと、そう思っている時に相手よりも油断している。
仝々は笑みを浮かべると、金星の頭を掴んで、耳を口元まで引っ張った。
「馬鹿がーッ!!!!!!!!!!!!!」
『巨大化』の能力の幅を広げた術。
音は空気を振動して伝わる。ならば、その振動を大きく、『巨大化』させれば、声量は爆発的になる。
鼓膜は弾けるように破れ、金星は大きすぎる隙が生まれた。仝々さえも耳が一瞬聞こえなくなっていた。身を滅ぼす技であるが、効果は大きかった。
「『巨大化』……」
〖馬鹿は君のほうさ!!〗
先程も言った。人間は、相手が油断したと、そう思っている時に相手よりも油断している。金星は術に勘づいて、金で耳栓をしていた。それでも尚、片耳はやられてしまったが、もう片方は無事だった。
隙は生まれず、金星は仝々の腹を殴って吹き飛ばした。自身の吐血した血の匂いが鼻に入ってきた。
「っぁ……!!」
〖勝負ありだ、仝々君。もう立てないだろ……!!〗
殴られた部分から、波紋が広がるように、侵食されていなかった部分の金の侵食が始まった。最後の抵抗をしたかった訳では無いが、仝々は挑発をした。
「金を操ってる?違う、金に縛られてるんじゃねぇか。」
〖何が言いたい……!!〗
「欲望で自由になんかなってねぇ。お前は金に操られてる奴隷だ!!」
少しの軽い挑発のつもりだった。が、金星にとってその単語は禁句であった。
〖取り消せ!!その言葉を取り消せ!!〗
激怒した金星は、仝々の胸ぐらを掴んで、壁に押し付けた。
「その怒りも欲望か!?だったら良い気分を金で買ってみれば良い!!金があろうと守れないものがあるんだよ!!」
〖黙れ!!僕に金があればあんなことにはならなかった!!全ては金なんだ!!〗
お互いに、確実に相反する意見を持っていた。それは、今までの行動と過去の結果であり、当事者達に罪はなかった。否、罪というのならば、過去から起こしてしまった行動こそが罪なのかもしれない。
〖僕が言うのもなんだが、君は強欲なんだ!!君の過去を調べた!!3食満足に食えて、金があってそれで何が悪い!?何を求める!!〗
「愛だよ。」
仝々が、金星の目を見てそう言うと、金星は一瞬だけ気圧され、隙が生まれてしまった。
最後の力、全てを振り絞って仝々は賭けに出た。金星の腹を蹴り飛ばすと、地面の砂や瓦礫の欠片を投げつけた。
〖っ……はっ!!ヤケクソかい!?〗
「あぁ。賭けだ。」
瞬間、仝々は口を開いた。
「『巨大化』。」
これは賭けだった。自身の手から離れたものに魔法の効果が付与されるのか、仮にこの攻撃が成功したとして、倒せるのか。
賭けは成功だった。砂埃の粒や、瓦礫の欠片達はみるみる大きくなっていき、一瞬にして金星の体を押し潰した。圧縮されると、魔法を放つのにも時間がかかる。
「多少惨いけどな……俺の勝ちだ……!!」
そのまま圧迫されて、金星は死んだ……
〖金星!!〗
瓦礫の間から、その叫び声が聞こえてきて、一瞬にして金星を覆う瓦礫達は金に変化した。そのまま金の瓦礫はどかされて、中からは金星が出てきた。
「もう何も出来ねぇぞ……!!」
〖はぁっ……はぁっ……僕も同じさ。〗
そう言うと、金星は仰向けで大の字になってその場に倒れた。二人とも全身ボロボロだったが、その顔は晴れ晴れしたものだった。
〖くそ……負けちゃったよ……!!勝ちたかった……!!〗
「十分俺は負けてた。」
仝々は謙遜しようと思った訳では無いが、口をついてその言葉が出た。
「何も持たないヤツと……持っているのに欲したヤツ。その時点で俺の負けだよ。」
〖ハッ、最後になって哀れみかよ……!!〗
金星は涙を拭ってそう言った。奴隷だった自分だけではない。仝々も辛かった、そんなことは金星もとうに分かっていた。
「哀れみじゃねぇ。称賛だよ。」
そう言うと、仝々は金星に近づいて、座り込んで言った。
「お前は強えよ。」
金星は思わず涙が溢れてきて、〖なんだよそれ……〗と呟いてしまった。
初めに金星が、基地を金に変えた時。金星は口にしていた。能力は止まらないと。
仝々の体は、全身を金に蝕まれて、既に頭部しか動かない状態だった。
「はっ……こりゃいいな……リーレンみたいに……ならなくて済みそ……う……だ……ぜ……」
動かなくなっていく顔を、仝々は無理やり動かして笑みを浮かべた。
空を白鳥が優雅に泳いでいた。
変えられなかった環境から、
何も出来なかった環境から、
2人は自由になれたのだ。
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〖屋外の戦い 金星vs仝々〗
勝者 不在
第百十二話 終
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