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第百十一話 愛

今回で111話です。

 愛が欲しかった。

 大国の王族として生まれた子の名前は『レオポルト』。この数年後に異世界警察に入り、仝々という名前になるなど、誰が察することができるだろうか。


「いいか、レオポルト。お前は私の為に生きて、私の為に死ね。」


 幼い頃、幼児であった頃から、レオポルトの父は息子にそう言い聞かせてきた。父の世界では、全てが自身の為にある様なものだった。

 それが自分の生きがいであり、使命であった。戦になればその命を賭して戦う、その為にレオポルトは生きていた。あの日までは。


「自分がないの?」


 部屋の窓から顔を覗かせる少女はレオポルトにそう問いかけた。

 少女の名はリーレン・ベガス。レオポルトの一家と親密なベガス家の娘で、家に訪問する時に、庭から同い年のレオポルトの部屋に顔を見せることが多々あった。

 レオポルトが自身の使命を話すと、リーレンはそう言ったのだった。それはレオポルトの人生を否定するものであり、同時に救いの言葉であった。


「“自分”なんて無くていいんだ。」

「じゃあなんで今私と話してるのよ。」

「気まぐれさ。」

「じゃあ気まぐれを起こした“自分”があるじゃない。」


 レオポルトが何と返しても、リーレンは諦めずに言い返した。レオポルトにとって、それは理解できない行動だった。忠誠を誓った者以外に誠実さをかけるなど、レオポルトからすれば意味の無い行動でしかなかったからだ。


「あのね、レオポルト。」


 そう言うと、少女は小さな体を活かして、窓からよじ登って部屋に入ってきた。すると、レオポルトの頬を両手で挟んで言った。


「人にはそれぞれ生きる意味があるのよ。他人が決めるものじゃないわ。」

「僕にとっては人に尽くすのが生きる意味なのさ。」

「それを決めたのは他人じゃない。」


 レオポルトは言葉に詰まって何も言い返せなくなった。すると、リーレンはレオポルトを抱きしめて言った。


「いつか生きる目的に気がつく日が来るから……そしたら、絶対に目的を見失っちゃダメよ。」


 リーレンの手は震えていて、涙を流していた。幼いレオポルトは、その理由に気がつくことはなかった。

 リーレンと顔を合わせるのが、これで最後になるとも、全く気がつかなかった。


 次の日、レオポルトは父親に問いただされた。


「昨日、貴様の部屋に小娘が入り込んだか!?ベガスの(あま)……女狐どもが!!」

「き……来てません。」


 これが、レオポルトが父に言った初めての嘘であった。父の様子から、ベガス家との関係が悪くなっているのは勘づいた。

 が、レオポルトは恐怖に唆され、言ってしまった。


「ま……()()()()()()。リーレンは昨日僕の部屋に入ってきました。」

「なんだと……あの女め!!」


 父は激怒すると、足音を大きくして歩いていった。レオポルトはことが終わってから、ようやく自身の過ちに気がついた。


 数日後、レオポルトの耳には「ベガス家が機密情報を漏洩した」との報告が入ってきた。機密情報は、レオポルトの一家の持っている軍事兵器などの情報であった。


────────────────────────


「───により、ベガス家を火刑に処す。」


 縄で縛られた、リーレンの両親は、涙を流して「なんで……」と最後まで呟いていた。

 王族だからか、レオポルトは目の前の特等席でベガス家の最後を見届けることになってしまった。リーレンは幼かった。少女なら、と許される可能性もあったかもしれない。だが、レオポルトの告発により、その可能性はゼロになってしまった。


「レオポルト。」


 目を逸らすレオポルトに、リーレンは優しく呼びかけた。

 レオポルトが目を向けると、リーレンはまるで女神のような優しい笑顔を浮かべていた。その笑顔が何を伝えたかったのかは分からない。直後に藁に火がつけられ、一気にそれは広がっていった。

 煙によって顔は見えなくなり、観衆含む人々は叫んだ。両親も「嫌だぁぁっ!!」と叫んでいた。

 悲痛の叫びに、レオポルトは思わず耳を塞いだ。それでも、()()()だけはレオポルトの耳に届いてしまった。


「嫌だよ!!やっぱり死にたくない!!お母さん!!嫌だ……嫌だぁぁぁっ!!」


 煙の隙間から一瞬見えた気がした。リーレンの表情は涙で歪み、憎しみを浮かべていた。そんな気がしてしまった。


 レオポルトが異世界警察に入り、知ることとなる。この一連の事件は、当時まだ天王星の力を得ていなかった、ウラヌスによるものだった。


────────────────────────


 リーレンは居なくなってしまった。自分のせいで。レオポルトは罪悪感で、一週間水以外の物を口に入れなかった。

 レオポルトは食物ではなく、愛に飢えていた。リーレンが命の支えだった訳でもない。が、あの言葉がずっと胸に突き刺さったままだった。


 愛があれば、なんでもできる。そんな気がした。


「お前たちは……いらない……」


 瞬間、レオポルトの体は憎悪と共に肥大化していった。『巨大化(ジャイアント)』。以前は精々大人の大きさになる程度しか出来なかった能力は開花したのか、レオポルトの体は見る見る大きくなっていき、城全てを破壊しそうになった。


 麻酔銃を撃たれたことでレオポルトの暴走は止まり、その体は終身刑で、地下の労働施設で奴隷として働くことになった。

 が、罪に裁かれるよりも先に、レオポルトの元には1人の男が訪ねてきた。男の名は朝霧悠。


 レオポルトは顔を隠すようになり、名前を仝々と名乗った。『同』の古字である『仝』には、謀反を起こした、あの頃といつまでも同じという意味を表していた。


 数十年後、1人の奴隷によってレオポルトの一家ごと国は滅ぼされるが、それはまた別のお話……


第百十一話 終


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