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第百七話 家族

 振り向いても雨で何も見えなかった。

 アタスマが生まれたのは、紛争地域の中心部であった。しかし、そこは世界的に見ても珍しいほどの多雨地帯であった。一週間のうち、六日は雨が続くほどに雨が多い地域であった。


 魔法がある世界での戦争。一見、戦場は混沌と化すように思えるが、強い攻撃魔法を持っている者は相手基地に突入しに行くので、攻撃魔法を持たない者は銃を持って戦場で戦っていた。


「L班から報告、××地域の占領完了しました。」


 攻撃魔法を持たないアタスマは戦場で戦ったが、その強さから戦場の悪魔と呼ばれた。

 飛んでくる弾丸も『湾曲』で簡単に軌道を変えてしまい、何より、ライフルの技術が誰よりも優れていた。


「メルシー、祖国に貢献できているんだ。少しは喜んだらどうだ。」

「別に……」


 アタスマのいる国、サシスセ国は戦場では劣勢であった。だが、アタスマは祖国に対する愛国心は欠片もなかった。


「チッ……ピストルが湿気でやられちまった。ライフル使うしかないか……あぁっ、雨音がうるせぇな。」

「雨音はノイズじゃないんです。この雨が姿を消してくれる。私には楽器の演奏に勝る自然の恵みだと思いますがね。シラクさん。」


 アタスマのペアとなる男の名はシラクだった。アタスマの弟の彼女の兄。大した関係性では無いものの、戦場ではベストコンビであった。

 シラクはライフルの弾丸を確認すると、使えそうで安心してため息をついた。すると、ポケットの中に入っているペンダントを取り出そうとした。アタスマも何度も見ている。シラクの妹と、その彼氏であるアタスマの弟の2人の写真が入ったペンダントだ。

 ……が、シラクは眉をひそめて、自身のポケットを探り続けていた。おい、取り出して中を紹介して死亡フラグになる流れじゃないのか。


「ない!!ペンダントがない!!」

「何やってるんですか……全く……」


 アタスマは自身の額を押さえて言った。隊服のポケットは多いが、全てきちんと確認した。が、やはり見つからない。落としたのかと思い、戦場を確認し始めた。

 シラクしか電話機器を持っていないため、途中シラクが祖国の本部と電話を始め、アタスマが探すという、よく分からない状況になったが、アタスマは文句を言わずに探し続けた。

 遺体の血の匂いが鼻を刺激した。アタスマにとって、その匂いは世界で一番嫌いなものだった。自然の恵みを受け、協力しあって生きるはずの人間がなぜ争わなければならないのか。その答えが出せていなかった。


「メルシー!!メルシー!!」


 思ったより大きく移動してしまっていたようだ。遠くから焦ったシラクが走ってきた。タイミングが良く、丁度ペンダントを見つけたところだった。


「シラクさん、ほら、ペンダントは見つかりましたよ。」

「見つかったのか、ありがとう。だが……いつまでもここにいられないみたいだ。△△地域を奪い返そうとする兵が一気に押し寄せてきたらしい。数は相当多い、行くぞ。」


 △△地域は、ここから1kmほど離れた街。少し走れば着く距離だ。

 走り続けるうちに、雨が強くなって土砂降りになり、全身ビショビショになった。それでも走り続けると、10分にも満たずに街が見えてきた。街中での爆発が絶えず、敵国の軍団も見えた。

 2人は同時に止まると、アタスマがタイミングを伺って、シラクはライフルを狙った。


「シラクさん、発砲準備頼みます。」

「準備完了だ。何時でもやれる。」

「………………今です!!」


 隙が生まれた兵に、シラクは一気に発砲した。ライフルの発砲音は雨でかき消され、連発する音よりも、雨の『ざあああっ』という音ばかりが耳に入ってきた。

 遠くからでも血の飛び散る様子が見えた。こちらに気がついた時には手遅れだった。攻撃をしても、アタスマが軌道を変えてしまう。数分にも満たないうちに完全に勝利した。


 勝利したとほぼ同時に、本部からの連絡がシラクに入った。アタスマは機密情報の可能性もあるので聞かないようにしたが、シラクの顔が青ざめるのを見て、嫌な予感がした。


「メルシー、落ち着いて聞いてくれ。」


 シラクの声は雨にかき消されることはなく、アタスマの耳にきちんと届いた。


「お前の弟が死んだ。」


────────────────────────


 あの日から、何も変わっていない。弟の事も、何もかも忘れていない。奴隷をたったの数人解放したことで処刑された弟のことも、忘れることは無いのだ。

 MBU隊長、アタスマが犯した犯罪は、『殺人』だった。終戦後に、アタスマは国家の長を殺してしまったのだ。

 全て忘れていない。雨が降ろうと、土砂降りでも。記憶がかき消されることはなかった。


 雨に打たれるのは慣れていた。

 それは魚群にも同じことだった。


「こんな物が……痛いと思いましたか……!」

〖な……なぜ効かない……!?〗

「槍が降ろうが魚が降ろうが、私を止めることはできない!!」


 アタスマはそう言うと、“空気に触れた”。瞬間、『湾曲』によって、時空ごと歪められ、一瞬のうちに水星(マーキュリー)はアタスマの目の前まで引き寄せられた。


「愛情は彼氏以外にも貰えるんですよ。」

〖リア充め。〗


 そう言うと、アタスマによって水星(マーキュリー)は腹部を強打されて吹き飛ばされた。捨て台詞の様に吐いた言葉すら、最後まで嫉妬であった。


「貴女はもう幸せを持ってるはずでしょう。それは嫉妬ではありません。強欲ですよ。」


 アタスマはそう言うと、羽織っているパーカーを脱いで、水星(マーキュリー)の体にかけてあげた。


────────────────────────


〖屋外の戦い 水星(マーキュリー)vsアタスマ〗

 勝者 アタスマ


第百七話 終

リア充め(嫉妬)

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