13話
眠ると現実が見えなくなる。
いつも夢の中は不安と孤独しかない。
だから、私は眠りたくない。
この幸せな日々が儚い夢にならないように祈りながら、私は悪夢を見る。
私の朝は、愛する人のニオイがする布団から優しく抱き上げることから始まる。
「紫苑、今日はいい天気だから布団を干したいんだけど。」
私は目を瞑りながら愛する人の足にしがみ付く。
ここ最近、黒夢は学校に行って過ごす時間がめっきり減って、私の心はこの季節の流れのように冷え切って痛いのだ。
このままでは、冬の寒さにはとても耐えられない。
「こぉーん こぉーん。」
「はぁ。」
私は甘えた声を出して、黒夢に甘える。
愛が貰える為に私は愛を下さいと小さく鳴く、そして身体を小刻みに震えさせて自分が弱っていることを黒夢に教える。
「黒夢......黒夢......行かないで。」
擦れた声で黒夢を引き止める。
黒夢は私が泣けば、必ず心配してくれて助けてくれる。
「紫苑、起きろ。」
黒夢は私の頭を優しく撫でてくれる。
私は愛されているの実感すると、体の震えが止まり尻尾がグルグルと回りだす。
そのまま、私は部屋の隅へと抱きかかえられる。
座布団が二枚引かれた床に放置される。
私は黒夢の名前を呟くが、足音は遠ざかる。
「黒夢行かないで!!」
「起きたか、狸寝入り。」
目を開けると、布団を部屋から出す黒夢に飛びつく。
だが、黒夢が持っている布団によって阻まれる。
「おはよう。」
「黒夢、おはようのキスをしてくれ。」
「はい、はい。」
キスと言ったのに、黒夢は私の頭を撫でる。
撫でられるのは好きだから良いが、もっと女として扱ってほしい。
「黒夢、布団を干すの手伝うから、少しでも一緒に居てくれ。」
「分かった。」
今日は、黒夢が8時42分32秒にドアを閉めた。
いつもより5分長く居てくれた。
本当は、黒夢がゲンチャリに乗って姿が見えなくあった後でも家の前でお見送りしたいが、私はこの家で留守番しないといけない。
黒夢は私のことを心配して母上のとこに預けようとしたが、私はこの家でいち早く黒夢が帰ってくるのを選んだ。
プルルル......
私は、あいぱっどのいんたーねっと電話で黒夢と会話しようとするが、なかなか出ない。
一時間かけ続けていれば出るが、この一時間にも満たない時間がすごく長く感じる。
ふと、画面の端の乾電池マークが赤くなっていることに気付く。
急いで、あいぱっどに充電器を刺して、いつでも黒夢からの連絡がいつ来ても出られるようにする。
最近は、電話だけじゃなく。
めーるで、今の心情を黒夢に送る。
これが、いい暇つぶしになるし、文字の勉強になる。
時計の時刻が昼に差し掛かったの見て、私は玄関で黒夢の帰りを待つ。
昼休みに、短い時間だけ帰ってくれるのだ。
「久しぶりだな、紫苑。」
「ん?」
後ろから誰も居ないはずなのに声がかかってきた。
振り返ると、白髪の狐耳を生やす女性立つている。
「白狐!」
「どうやら忘れられて居なくて良かった。」
「いつの間に家の入ってきた。」
「堂々と壁をすり抜けて入りました。」
神はそれぞれ特有の神通力を持ち、神格が高いほど強力な神通力が使えるから、白狐なら壁をすり抜けても不思議ではない。
「それで白狐は何しに来たのだ。」
「その前に、詰らない物ですが御土産を持って来ました。」
「あぁ、ありがとう?」
私は今の今まで御土産を貰った事が無いからどうすればいいか困惑する。
「紫苑、立ち話もなんですし居間で少しお茶を飲みながらお話をしませんか。」
「悪いが、黒夢が帰ってきたときにすぐに"おかえり"を言えるように待っているのだ。」
「実は、その黒夢殿にも関係がある話なんです。」
「何?」
「立ち話も何だし、座りましょう。」
私は始めての客人をもてなすことは出来なく、お茶の用意も菓子の用意も全て白狐が完璧にこなす。
手先が器用なのが羨ましい。
「まず、紫苑は新しい土地神になる気は無いか?」
「無い。」
「そう言うと思ったけど、紫苑も薄々気付いて居るだろう。」
「何の事だ?」
「自分の力が弱まりつつあることに。 あと頬にクリームが付いてますよ。」
「それがどうしたのじゃ。」
「お主の今の状態は執着心と残り少ない神格でギリギリ形を保っている状態なのは自分でも分かっているでしょう。」
「......。」
「もしも、このまま神格が無くなれば、消えるか、自我を失った悪霊になるかのどちらかだ。」
「......私が何になろうとも白狐には関係ないのだろう。」
「いや、もしもお主が悪霊にでもなれば上司である私が責任を取ることになるんだ。」
「自分の責任は自分でとる。」
「はぁー・・・ 封印した時とまったく変わって無いね。」
「封印? 何のことだ。」
「もう時効だから話すが、昔まだ力が弱い青筒男命之神殿に私は封じの鎖を渡して紫苑を封じる手伝いをしていたのだ。」
「なぜそんなことを!」
「それは、お主が悪霊になりかけたからだ。」
「それで、また私を封じに来たのか。」
「それは違う。私は紫苑をまた土地神として復帰されに来たのだ。」
「復帰させてどうするつもりだ。」
「それはお主にちゃんとした場所に祀らせることで神格を安定される事だが、別に私の目的は復帰させることではなく。本当の目的は神契りの儀式を止めさせるのが目的だ。」
「神契りの儀式?」
「お主は知らないようだが、お主の思い人の黒夢と言う男はお主と契りを交わすことで、残り少ない神格を増やし安定させようとしている。」
「黒夢が私の為に契りを、黒夢には本当に感謝しても仕切れないのだ。」
黒夢は始めて会った時から私を助けてくれた、恩人で想い人だ。
「その様子では、神契りの儀式をやった人間は命が縮むか最悪その場で死ぬことがある。ってことは知らないようだな。」
「何、では黒夢が死ぬかもしれないのか。」
「その可能性は高い、という話だ。 それに、神と契りを結んだ一族には何かしらの呪いが付き纏ってしまう。」
「嫌だ。」
「だったら、紫苑殿は神として復帰しましょう。 神が不在の神社は探せばすぐに見つかるから復帰するのはそう難しくないですよ。」
「でも、黒夢と別れるのはのはもっと嫌だ。」
「たとえお主の神格が有り余っていても人間と神の生きる時間は違う。 あまり親しい過ぎるのはお互いの為にはならない。」
「なぜ、白狐はそういう事を言う。」
「それは、神が一人の人間に特別な感情を抱くと碌な事が無いからだ。 悪いことは言わないが、神の座を降りるのは今のお主には無理だ。」
頭では理解できるが、理解したくない。
でも、現実を受け止めないといけない。
「なんで私を神に任命したんだ白狐。」
「それは、人に殺されても人を愛したお主が神に向いていると思ったからだ。 だがその愛は誰も救えなかった。」
「......ぅぅっ」
「少し言い過ぎたな。 お主は心が幼すぎるだけだ、また明日来る 紫苑。」
目から涙が溢れて、景色が歪んでくる。
現実も夢も、何もかも歪んで見える。
私は泣いた。
目を逸らし続けたことが、受け入れたくないことが頭から離れない。
私はただ、黒夢と一緒に、ずっと一緒にいたいだけなのに。
私は白狐が立ち去った後、ひたすら考えた。
そして思いついた。
「だったら、黒夢を私と同じにすればいいのだ。」
私は笑った。




