表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/27

Act 5-4:制御不能

 俺たちは、制御室に駆けこんだ。

 俺は、すぐさま端末に右手をかざし、アクセスする。


 監視カメラの映像が、いくつか生きている。

 それによると、あのスウォームは、まだ離れた場所にいる。

 ネクサのように、いくつか分裂した個体がいる可能性もあったが、宿主――よりどころとなる肉体がないかぎり、分裂はうまくいかないのだろうと俺は分析している。

 人間の肉体を、つなぎのように利用している。

 念のため、船内全体をスキャンしてみるが、生体反応があるのは、俺とミイ、クゥとカチュターシャのみだ。


「なにをさがしてるの?」

「iNOIDを強制停止させるシステムだ」


 俺は答えた。


 なんらかのエラーでiNOIDが暴走することが、万にひとつもないとは言えない。

 当然、この船には搭載されていてしかるべきだ。


 コンピュータの領域内を、検索していく。


 途中、いくつか気になるデータを発見した。

 船が、この地点に到着してから、すでに二百五十年近く経過している。

 船がたいして腐食も劣化もしていないのは、製造に使用されている金属の自然修復機能によるらしい。


 俺は、その意味するところを考える。

 さすがに、俺の知る地球の技術よりも先端すぎた。

 わずかに寄り道し、船の製造された年月を調べる。


「……百年後?」


 この船が地球を旅立ったのは、俺がいた時代より、一世紀も未来だ。


 理屈に合わない気がした。

 俺は、この異世界と地球とでは、時間の流れかたがちがうのではないか、となんとなく推測していた。

 だが、俺たちより未来の地球にいた船が、俺たちよりも過去にこの世界に到着している。


 もっとくわしく調べたい気持ちもあったが、いまはそれより優先すべきことがある。


「これか!」


 対象iNOIDの強制停止を実行する無線信号。

 それらしき制御アプリを発見し、俺はコマンドを実行する。

 だが、表示されるのはエラーの文字。


「……ダメだ。命令を受けつけない」

「どうして?」

「あのナノマシンは進化しすぎている。なんらかの原因でプロテクトが外れて――」


 本能的で、プリミティブで。

 野生化してしまっている。


「止められないってこと?」

「いや……くそ」


 ちいさく毒づく。


「なに? どうしたの?」


 ミイにも聞こえてしまったらしい。


 俺は躊躇する。

 逡巡する。


「ミイ」


 ふりむき、彼女の手を握った。


「カチュターシャとクゥ。あのふたりのこと、好きか?」


 ミイは、しばらく俺の顔を見つめた。

 そして、真剣にうなずいた。


「うんうんっ! 好きだよ、大好き!」

「そっか」


 彼女の答えを聞き、ひとつうなずく。


「俺は、まえから迷ってる。いまだって、迷ってる。ミイの安全のためなら、いつでもあのふたりを見捨てられると、ずっと思ってるんだ。俺は、そういうヤツだ。けどさ」

「……ユウ兄?」

「俺たちがこの世界にきたとき、ふたりは親切にしてくれた。ミイによくしてくれた。仲良くしてくれた」


 俺の、ちっぽけな独占欲は、きっとミイを不幸にする。

 彼女の世界を、広げたいと、いまは思う。


「俺さ」


 立ち上がる。

 ミイの手は握ったまま。


「ミイが好きな人のこと、ミイの気に入った世界、ぜったいに守りたいって思う」


 そっと、ミイの手を放す。


「転校ばかりさせて、悪かったな」

「ゆ、ユウ兄」

「あのふたりを、助ける」


 俺さえいなければ、ミイは、安穏と生きられたのではないか?

 そんな思いが、疑念が、いまになって、ある。

 所属不明の男たちに狙われていたのは、俺たち、ではなく、俺、だけだったのではないか?

 異世界にも、本来なら転移するのは俺だけで済んでいたんじゃないか?


 すべて、都合のいいように考えていた。

 謎の組織からミイを守らねばならない、だから、いっしょにいる。

 異世界に転移されてきた際も、ミイをひとり地球に残してきたわけじゃなくてよかった、などと考えていなかったか。


「ここにいてくれ、ミイ」

「そんな、でも」

「ミイを守りながらじゃ戦えない」


 足手まとい――そう言った。

 彼女の安全のために、あえて。


「だいじょうぶ、ぜんぶ、うまくいくから」


 ほかに、口にしたい言葉は、いくつもあった。

 けど、彼女に疑念を与えたくなかった。


「行ってくるよ」


 それだけ言い残し、部屋を出る。

 思いを振りきるように、走る。


 クゥとカチュターシャ、二人は生きている。

 スウォームが生かしている。

 貴重な栄養源を、死なせるはずはない。


 自己更新と進化をくりかえしたあのスウォームにアクセスし、その動作を停止させるシステムは、船内に存在しなかった。

 けれど。


 ナノマシンそのものを破壊する方法なら、存在した。


 この船は、地球から異世界へと転移航行する機能を持っている。

 そのコアには、とてつもない強磁場環境が使用されている。

 それを利用すれば、近くにあるありとあらゆる精密機器に決定的破壊という不具合を生じさせることができるはずだ。


 それに。


 うまくいけばミイを、地球に帰すこともできるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ