Act 5-1:無機質な罠
【log: <TITLE> Prime Directive : Update by the developer. </TITLE>】
皆城美衣ヲ保護スルコト。
</TITLE>】
船内に足を踏み入れると、暗闇と静寂が、俺を迎えた。
巨大な船だ。
安全を重視しながらすべてを散策するには、数日を要するだろう。
ネクサが住みついていた船。
これは、地球から来たものにちがいない。
ならば、地球に帰るためのヒントや、あるいは俺という存在にまつわるヒントがあるかもしれない。
ひとつ、思うことがある。
もし俺が、この異世界と戦争するために作られた存在であると推論するなら。
ミイをここへ連れてきてしまったのは、俺に関係するなにかではないのか。
本来なら俺だけですむところを、近くにいた彼女をも巻きこんで、この世界に転送してしまったのではないか。
「考えるな。いまは、まだ」
自分に言い聞かせる。
つづいて船内に降り立ったクゥが、無言で俺の横を抜けた。
切羽詰まっているように見えるが、ムリもない。
あのあと周辺をさがしたそうだが、カチュターシャもネクサも、見つけることができなかった。
クゥは、カチュターシャとずっと二人で生きてきたと言っていた。
エルフで長寿のカチュターシャが、クゥにとって幼いころからの姉のような存在であったことは、容易に想像がついた。
つまりは、俺とミイのような関係だったのかもしれない。
あれから二日が経過していた。
俺が動ける状態に回復するまで、クゥが単独でムチャな探索を始めないよう、ミイが止めてくれていたらしい。
無機質な船内――機能第一といった様相だ。
移動する倉庫であって、ホテルではない。
この船の目的は、旅行ではなく、運搬だ。
「ユウ兄」
「どうした?」
ふりかえると、ミイが持つスマートフォンのライトがまぶしかった。
「あたしはべつに、どうしても地球に戻りたいだなんて考えてないよ」
「どうして、そんなことを、いま言うんだ?」
「ユウ兄が、ひとりで思いつめてたらイヤだな、と思って。だいじょうぶだよ。新天地への引っ越しには慣れっこだしさ」
「ああ、でも」
俺は前方を向く。
「この世界には、危険が多すぎる。ネクサは、また襲ってくるだろう」
彼女は死者を用いて、遠方から俺たちに攻撃をしかけることができる。
非常にやっかいな相手であると言えた。
対峙しつづけるのは、危険だ。
方法があるのであれば、地球に帰還してしまうのが、ミイにとっての一番の安全策であると、俺は考える。
「……ここにいる」
クゥのつぶやきが、不気味に反響した。
どういうことかと問おうとする俺の唇を、クゥの人差し指がふさいだ。
そのまま、ある一点を指差す。
通路のすみに、見覚えのある仮面が落ちていた。
ヒツジの仮面。
忘れもしない――ネクサがかぶっていたものだ。
「ここに、いる」
ふたたび、クゥが言った。
「カチュターシャも、きっと」
……カチュターシャ。彼女はおそらく、生きていないだろう。
そのことはきっと、クゥにもわかっている。
だが、その亡骸を好きにされたままにはしておけない――その気持ちは、痛いほどよくわかった。
俺はかがみこむと、慎重に仮面に触れ、持ち上げた。
「……忘れものかな?」
「あのあと、このあたりは軽く調べた。あんな仮面はなかった」
罠ではないか、という思いが、瞬時に脳裏を駆けめぐる。
仮面の落ちかたは不自然にすぎる。
だが、あまりにあからさまであるという気もする。
不安が大きくなる。
「ミイ」
「なあに?」
宿に戻れ、と言おうとしたのだが、クゥは先に進みたがるだろうし、ここでバラバラになってしまうのは危険だ。
「……俺から離れるな」
これが罠だとすれば、俺たちはすでに、そのなかにいる。




