【log: <TITLE> One of my father. And his daughter. </TITLE>】 ④
二人だけの生活が始まって、まもなくのことだ。
時間が経つにつれ、現実を直視する余裕が出るにつれ、ミイの心は閉じていった。
彼女を元気づけようと、俺はネットで収集したありとあらゆるストーリーを語って聞かせ、ときには自分で創作もして、彼女を物語の世界へと誘った。
そして、彼女の記憶の改ざんは始まった。
もともと、ホームでの生活や、最後にそこで起きた地獄は、幼い彼女には理解不能な事柄がおおく、夢のようなものだったのかもしれない。
彼女のなかから、ホームでのできごとは消えていった。
そのかわり、新しいストーリーが彼女のなかで芽生え、育っていく。
父親との普通の生活。
お世話型iNOIDである俺との、普通の出会い。
俺の語る物語を再利用して、彼女は逃避していく。
俺は、それを止める力も、自信もなかった。
現実を直視させれば、真実の海に投げ落とせば、彼女はつぶれる。
つぶれてしまう。
真実の過去は、正しい思い出は、彼女を危機にさらすほどの価値があるだろうか。
家族同然だった研究者たちや、父親とのほんとうの思い出……。
――相応の責任を負うことになるが、自分で選ぶことができる。
――守ってやってくれ。きみが、そう望んでくれるなら。
俺は、このとき、まちがえたのかもしれない。
罪を犯したのかもしれない。
決断。
俺は、彼女の逃避行を守ることにした。
そうしようと決めた。
それを現実に置き換えてやると、決心した。
同時に、物理的にも、彼女には守護が必要だった。
敵国のスパイなのか、平和な世界の裏で行われている戦争の相手なのか。
なぜか連中は、執拗にミイを狙った。
俺たちは幾度も名を変え住む街を変えた。
襲撃者を、そのつど、俺は撃退した。
殺してしまいそうになることもあった。
彼女を攻撃しようとすることは、許せなかった。
だが耐えた。
彼女に、もらったからだ。
「俺にはきっと、もともと心なんてものはなかった。もしそんなものがいま、俺のなかにあるのだとしたら、それは、お前から生まれたんだよ。お前とのあいだに生まれたんだ」
だから、俺にとっての右手は。
あのとき、俺と彼女とをつないだ、右手は。
「そこに、心があるような気がして」
俺は、だから。
「ミイ」




