二人の愛
あの後すぐにチャイムがなったため、私と太田は教室に戻った。太田には「放課後に話そう」と言われた。
そして、放課後。私は先生に呼ばれていたことを思いだし、急いで用を済ませることにした。意外と長引いてしまい、終わった頃には終礼が終わってから三十分が経過していた。
半分は既に帰っているだろうという気持ちだ。あのとき確かに頷いたし、私が忘れているわけもない。
太田は待っていてくれているのだろうか。
昇降口から校門を見る。しかし、誰の姿もなかった。下駄箱を見たときも誰も残っていなかったから、もう帰ってしまったのだろうか。
自転車小屋に行って気がつく。
そうだ、今日は歩きで来たんだったと。
私の家までは一キロと少しある。雨の日以外は基本歩きで来ている。かっぱを着るのが面倒だということもあるが、第一、雨の日に自転車には乗りたくない。
とぼとぼと校門を出る。
「古和田」
声がして、私は振り返った。校門をすぐ出た影に、太田が座っていたのだ。木や門が邪魔をしていて、私には太田が見えなかったのだ。
「太田……」
「遅かったな」
太田は、待っていてくれたんだ。
私と太田は二人で帰路を歩く。自転車で来ていた太田は、自転車を転がす。
「なんだ、先生に用事頼まれてたのか。俺も手伝ってやったのに」
「いいよ。私も忘れてたくらいだから」
何だか、妙に緊張する。
今まで何度か一緒に帰ったが、これほど緊張するのは初めてだ。
「なあ、古和田」
太田が言う。
「その……この間は、ごめんな」
この間のことだ。やはり、少し思い出すだけで胸が痛む。
「……いや、もういいよ。終わったことだから」
自分ではそういうものの、全くそうとは思えない。
「そうか。……古和田は、進路のことが知りたいんだよな?」
「……うん。けど、言いたくなかったら言わなくていいよ」
「いや、言うよ。大切なことだから。俺、なんか古和田には言いにくかったんだ。その……。俺な、他県の高校を受けようと思っているんだ」
「え……」
私は太田の顔を見る。
「だからな、これを言うと、その……別れようとか、言われる気がして、言えなかったんだ」
太田が、他県の高校?
それはつまり、遠距離になるということ。
確かに、現実的に考えるとここで別れようとなるだろう。高校にいくと、たくさんの人に出会うんだから、そっちで好きな人に出会おうとする。
しかし太田は別れるどころか、振られることを恐れてこのことが言えなかったと言う。
つまり、太田は高校に行っても私と付き合っていたいという意味なのか?
「古和田は、俺と、別れたいと思うか?」
「え、いや……うーん……」
自分では分からない。やはり、太田は元彼を忘れるために付き合ったということしか頭にない。
けど……。
「別れたくは、ない」
私はそう言った。
「だって太田は、誰も気づいてくれないことに気づいてくれたし、それで私は救われたし。太田といると、なんか、安心する、し……」
その時、急に太田が抱きついてきた。太田が持っていた自転車は音を立てて倒れる。
「お、おた……?」
私は太田の腕に包まれ、あのときのような気持ちではなく、何だか温かく感じる。
力強く抱きつかれているのに、何故か安心する。
今までで、一番温かい。
「高校に行っても、会いに戻ってくるから」
「……うん」
「他のやつとか、好きになるなよ」
「……うん」
「……古和田?」
「……ん?」
抱き締める手が強くなる。
「好きだ」
その声は、心の中まで染みていった。




