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彼らに明日は来なかった。  作者: ヤブ
番外編「太田と古和田」
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過去

 私は屋上から駆け下りた。


 辺りを見回したとき、私は体を一瞬止まらせた。太田が教室の方から走ってきていたのだ。


 私は声をかけようと口を開けたが、声がでなかった。そして、咄嗟にまた屋上への階段を駆け上がった。


 足音が大きくなるにつれて、心臓が大きく高鳴っていくのが分かる。


 太田が通りすぎ、足音が小さいなっていく。

 私は階段を降りた。


 これまで太田を避けていたのに、急に話しかけるというのは相手にとってはプライドが許さないだろう。声をかけて、無視をされたらどうすればいいのだろう。太田はそんなことしないと分かっていても、どうしても怖い。


 しかし、私は何度も太田に助けられてきたのだ。そのためにも、こんなことで終わらせてはいけないだろう。


 中西くんの言葉をまた思いだし、私は太田が行ったであろう方向に向かって歩きだした。


 屋上で中西くんが言っていた通り、私には思い出したくない過去がある。


 今でも思い出したくないが、しっかりと向き合わなければならない。



 私は中学二年生になってすぐの頃、高校生の彼氏ができた。出会いは、卒業して現在高校一年生になった男の先輩とゲームセンターで会い、その時に一緒にいたのがその彼氏であった。それから、毎日のようにメールを交わす仲になり、ある日、彼の方から告白してきた。実際、私は特にそういうことは考えていなかったし、告白されるのが初めてだったため、私はどうすれば良いのか分からずに戸惑っていた。


 しかし、せっかくの好意を踏みにじるのは良くないと考え、私は彼と付き合うことにした。


 高校生で部活に入っていたため、休日にデートに行くことは出来なかったが、毎日のメールだけでとても幸せだったように感じた。毎日メールできる人がいるというのは、なんとも心が温まった。


 中学校が駅から近いこともあり、彼は時々中学校まで来てくれることがあった。下校時間と重なり、全校と言ってもいいほどのほとんどの人に見られ、私は急いで彼と近くの公園へ逃げ込んだこともあった。その時は日が暮れるまで話をして、最後はわざわざ家まで送ってくれた。


 休日の予定が空いて、一度一緒にデートをしたことがある。彼は初めてのデートで戸惑う私を、色々なところに連れていってその気持ちを和ませてくれた。あの時間は、本当に楽しかった。

しかし、ある日それは起こった。


 夏休みに入り、私は彼に家に誘われた。同じクラスの男子の家には遊びにいったことがあるが、彼氏の家となると、なんだか緊張する。


 家には誰もおらず、彼の二人きりだった。

 始めは色々な話をしていたが、どんどんと話すことがなくなり、静かになることが多かった。


 その時、彼が急に私を押し倒したのだ。それから、キスをされた。初めてのキスで、私は頬を紅潮させていた。しかし、その後は可愛いものでは終わらなかった。


 ……そこから先は思い出したくない、どうしても。


 いや、その後の記憶が曖昧で思い出せないのだ。場面ごとにしか覚えておらず、実際、どんなことが起こっていたのかは分からなかった。


 あれから私は彼を「怖い」と思うようになり、メールもあまり返さないようになったし、デートに誘われても行かなかった。そして、あれから一ヶ月後、私は彼に別れを告げた。


 中学二年生だったその時の私には、それほまだ知るには早かったのだ。


 あれから、私は変わってしまった。

 それにいち早く気づいたのは、太田だった。


 ――お前、変わったな。

 突然、こう言ったのだ。


 ――何で、自分つくってんの?


 彼と付き合う前まで、私は今より明るかった。今でも十分だとは思うが、前はもっと明るかったのだ。


 人の怖さなんて知らず、誰にでも疑いもせずに話しかけていた。


 しかし、あれを境にあまり話しかけなくなり、笑わなくなった。いや、笑えなかったのだ。人の黒いところを知ってしまった今、今でも黒いところが見えてしまうようで。


 だから、私はいつの間にか自分をつくっていた。その自分で笑っていたのだ。


 太田がその事に気づいてくれたとき、何故か焦り気持ちよりも安心した気持ちの方が多かった。それは恐らく、自分のことをちゃんと見てくれている人がいるんだと認識できたからだろう。


 そんな太田からの告白を、ただ彼の忘れたいという理由だけで付き合ったのは酷いものだ。


 外に出たとき、太田が走ってくるのが見えた。そして、私に気づき、その足を止めた。


「……」


 太田は、なにも話さなかった。

 私は少し荒くなった呼吸を整え、声を出した。


「お、太田」

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