主様のお願い
妖狼ばっかり・・・・・とうとう主役の座を!!なんてね・・・・・
初夏の夜、虫の鳴き声が響き見事な満月が一軒の山深くにある屋敷を照らす
その屋敷にひとりの客がやって来た
客は絹のような白い肌
紅い瞳を薄らと開き
浮かない顔をして扉を叩く
トントン
中から垂れた白い耳に大きく丸い茶色の瞳が可愛らしい黒髪の妖兎が顔を出し驚く
「主様!?どうしたのですか?」
「妖狼はいますか?」
「え、ええ。ささ、どうぞ中へ」
妖兎はいそいそと屋敷の中に主様を通し、客間へと案内した
主様が妖狼の屋敷を訪ねる事はとても珍しい事だったので、妖兎は急いで妖狼を起こしに行く
「妖狼様、主様がお見えになっています!」
妖狼はまだ寝たりないという感じでゆっくりと起きる
「主?なんだ?新しい伴侶のノロケ話でもしに来たか」
「し、知りませんよ!早く支度して下さい!」
妖兎は妖狼の身ぐるみを剥がし急いで着替えさせる
妖狼は面倒くさいといった感じで客間に向った
「お邪魔しておりますよ」
主様は妖狼がくると小さく微笑んだ
しかし、その顔はどうも哀愁に満ちていた
妖狼はそんな主様を見て目を少し細め向かい合って座る
「どうした?狐とうまくいかなかったのか?」
妖狼はてっきり妖狐を伴侶に出来ていると思っていたがどうも主様の様子がおかしい事に気が付いた
「ええ。見事にフラれ嫌われました」
「お前がフラれただと?わはっはっはっは!」
妖狼が面白いと大笑いすると、主様の周りの空気が淀み殺気が溢れ出す
妖狼はこれはやばいと思い、急いで笑いを堪える
「なーに、主殿。そなたの力を持ってすれば、力づくで簡単に手に入る事が出来るだろう?」
何とか主様の機嫌を戻そうとする妖狼だったが
主様は首を横に振り悲しそうな顔になる
「妖狐の心もわたしのモノにしたいのです。その為に焦らず時間をかけて大切にして来たのに。それなのに…まさか人間に心を奪われるなんて思ってもみませんでした」
主様は紅い唇をぎゅっとつむる
「あれから妖狐はわたしに会いに来なくなり、避けられています」
主様の瞳は今にも泣きそうだ
妖狼は何も言えずただ話を聞いていた
「…妖狼、人間を殺めた事はありますか?」
主様はゆっくり妖狼の瞳を見る
妖狼は主様の瞳に寒気を感じてながら
「ああ、とうの昔にな…まさか、俺にその人間を殺せと言うのか?」
主様は微笑み「まさか」と言うが目は笑っていない
身体から出る妖気は殺気が混じっているのがすぐにわかる
妖狼は心底主様が怖い存在なのだとわかる
「殺さなくてもいいです。ただ、妖怪とはどんなモノかを教えてもいいかと思いましてね。わたしが行きたいのですが…お願い出来ますか?」
妖狼は断るという選択枠がない事知っている
主様に逆らえる妖怪など、狐ぐらいではないのだろうか?東の主、妖狼といっても所詮主様の納める土地の一部をまかせてもらっているだけで力は圧倒的に主様の方が上である
妖狼は小さくため息をついて
「わかった…」
と頷いた
主様は晴れやかな笑顔で帰って行った
その後妖狼は妖兎に2・3日出てくると言って出かけた
とりあえず、人間が何処にいるのかわからないので
何か知っていそうな妖犬を探す事にしたのだ
鼻を高く上げ匂いを探る
妖犬の誘う甘い匂いは好物なのですぐに見つかる
口からヨダレが垂れるのを我慢して、その匂いの方に駆け出した
妖狐はいつもの祠で小さな灯をつけ人間と妖怪の本を読み漁っていた
ガサガサっと茂みが揺れる音がする
目を向けると一升瓶とコップを持って妖犬がひょっこり顔を出す
「おー凄い本の量だなーどこから持ってきた?」
妖狐に近づき隣に腰を下ろして本を手に取りマジマジと見る
妖狐は視線を本に戻し
「妖梟から借りてきた。汚すなよー綺麗なまま返す約束だ」
妖犬はそっと本を元の所に戻し、一升瓶の酒をコップについで妖狐の傍に置き自分の分もつぎだす
「人間なんて…愚かで儚いモノだろう?」
一口お酒を飲み満月を見上げる妖犬
妖狐は何も言わずコップをとり酒を一気に飲み干す
空になったコップを見て少し悲しい目をする
「みんながみんな、愚かとは限らない。でも…儚い…」
妖狐は寿命が短い人間を哀れに思った
妖怪なら何千年と生きることが出来るのに
たった数十年で尽きてしまう人間が弱く可哀想だと思ったのだ
どんなに一緒に居たくても消えてしまう…そんな短い一生の生き物なのだと
ならば、自分もその短い一生を生きようと覚悟をしたのだが、それも風花に断られた妖狐はただ哀れむしかなかった
「そんな人間よりも妖怪と伴侶になった方が幸せ…か」
妖犬が妖狐をチラッと見ると妖狐はどこか落ち込んでいる様子だった
でも、とても美しい…
いったい、いつからだろうか?妖狐を伴侶にしたいと思い出したのは…
ガサガサ
何かが近づく気配と急に大きな妖力が二人を包み込む
妖犬はそれが誰もモノなのかすぐに解った
「妖狼…」
妖狐は持っていた本を置き警戒する様に近づく気配の方を睨む
それを見て妖犬はスッと立ち上がり気配の方に歩いて行った
出来るだけ…妖狐には会わせたくない…
「妖犬?知り合いか?」
「あぁ、東の主妖狼様だ。遠い親戚みたいなもんだ。ちょっと行ってくる」
東の主は前に主様を連れ去った?妖怪だ
実際は違っていたが…
妖犬の後ろ姿はどことなく不安を感じた妖狐は立ち上がり一緒に行こうとする
妖犬はそんな妖狐を見て声を荒らげた
「来るな!…大丈夫だ」
ふわっと妖犬を衣が包み込む
後ろから妖狼が抱き付いて囲っている
妖犬は驚き目を見開き固まってしまった
「よー犬…と狐か?」
妖狼は妖狐をみてニヤリと笑う
こいつが主を振り回している奴か
妖狐の上から下までマジマジと舐めるように見る
妖狐はその視線にゾッとして変な汗が出てきた
妖狼の妖力はとても攻撃的で恐ろしいものだったのだ
主様はいつも妖力を押さえているのに対し、妖狼は相手を威圧するかのように叩きつけてくる
「妖狼様、何用でこの様な所に?」
妖狼の腕の中で抱かれている妖犬が訪ねると妖狼は強引に右手で妖犬の顎を持ち上げて唇を奪う
「ん!!」
妖犬はあまりに突然の事で抵抗も出来ず驚き顔を赤くしてもがいた
妖狐が見ている前で…
苦痛の表現と目に涙を浮かべる
妖狐はそんな妖犬に気づき妖狼を止めようとした
「おい!!止めろ!!」
妖狼はそんな妖狐を鋭く睨み、ゆっくり唇を離す
そして口角を上げた
「では、お前が代わりにするのか?」
その言葉に妖犬は、びくりっと反応した
妖狐は何を言っているのかわからないと少し頭を傾げる
「妖狼様!!あちらで話をしましょう!!妖狐心配いらない。またな」
焦った様子で妖犬は妖狼を引っ張ってその場を離れる
妖狐は妖犬を止めようとしたが、あまりの勢いで去って行ったので何も言えなかった
妖犬はグイグイと妖狼を引っ張っり祠から離れた
「なんだ?アイツにしてもらいたかったのだろう?口づけを」
妖犬はキッと妖狼を睨んだが、妖狼はヘラヘラ笑っていた
「妖狐は俺の気持ちを知らない…」
妖犬は俯き少し目を細める
まるで仔犬の様に可愛い…
妖狼は再び妖犬の唇を貪る
「ん…」
可愛い妖犬を堪能したあと、妖狼は本題に入った
「狐が想っている人間が何処にいるかわかるか?」
「え?な、何故です?」
「野暮用だ」
妖犬の顔色が悪くなる
まさか…風花を殺しに行くのか?
風花が殺されたら妖狐はどうなってしまうのだろう?
妖犬は小さく首を横にふる
妖狼は妖犬の様子を見て少し考え
「仕方ねーなーその人間がいた民家を襲って調べるかー」
それも駄目だ!!妖狐だけでなく、風花まで悲しむ事になってしまう…妖犬は怯えだした
どうしよう…どうしよう…
そんな妖犬の耳元で妖狼が囁く
「なーに、取って食う訳じゃねー会って話す事があるだけだ…犬、何処にいるか知ってるよな?」
妖犬は風花の実家の場所は知っていた
妖狐に内緒で以前調べた事があったのだ
妖犬は渋々風花の実家の場所を教えると妖狼はその場所に向かって駆け出した
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