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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
公都・剣閣編 ~学舎と見習い侍従の章~

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第2話 王座の前で

魔王城——謁見の間。


 高い天井に静寂が満ちている。

 玉座の上には、スカロディアが座していた。その両脇に、二体の幻霊。

 だが——先ほどまでの威厳ある姿とは違い、今の彼女は玉座に身を預け、軽く額を押さえていた。


(……『始原のオリジン・ゴッド』……)


 脳裏に、あの笑い声が蘇る。


『また遊ぼう』

「……チッ」


 思わず、舌打ちが漏れた。


『陛下』


 静かな声が、意識の奥に響く。ターゲルだ。


「どうだった」

『各星域の神々より報告がありました。現在のところ、異常は確認されておりません』

「……そう」


 小さく頷く。だが、胸の奥に拭えない違和感が残っていた。


『もう一件。セリーヌ殿たちが、殿外にて謁見を求めています』


 スカロディアの眉が、わずかに上がる。


「……あの子も一緒?」

『はい』

「通してあげて」


 ターゲルの身体が淡く輝いた。

 謁見の間の中央。空間がゆらりと歪み、星屑のような光が波紋のように広がる。

 四つの影が、そこに現れた。


「……あれ?」


 ふらり。エドの身体がぐらついた。

 その肩を、そっと両手が支える。


「大丈夫?」


 振り返ると、ルーシーが心配そうに微笑んでいた。


「……うん。大丈夫」


 セリーヌとスレイアが一歩前へ出て、深く頭を垂れる。


「陛下。先ほどは御助力をいただき、ありがとうございました」

「礼などいらない」


 玉座の上から、静かな声が降りた。

 セリーヌはゆっくり顔を上げる。だが、すぐに表情が引き締まった。


「陛下。先ほどの……あの存在についてですが。正体がまったく掴めません。もし今後、同じようなものが——」

「勘が鋭いわね」


 スカロディアの視線が、静かに細まる。


「実はね。私は——あの深淵に潜んでいた"何か"と、少しだけ交戦した」


 その場の全員が、息を呑んだ。


「安心しなさい。追い払っただけよ」


 軽く手を振る。だが、そこで言葉が止まった。瞳に、わずかな影が落ちる。


「……ただ——少し、嫌な感じがするの」


 短い沈黙。


「もしこの世界に何か異変が起きたら、すぐ報告なさい。油断は禁物よ」

「はっ」


 三人の声が揃った。

 その時だった。


「……あの」


 小さな声が、謁見の間に響いた。

 エドだった。少し緊張した足取りで、前へ出る。

 そして——玉座の前で、両膝をついた。

 重い音が、床に響く。


「……俺を、裁いてください」


 セリーヌが息を呑んだ。

 エドは深く頭を下げたまま、言った。


「助けてもらったのに……こんなことを言う資格はないって、分かってます」


 拳が、白くなるまで握られている。


「でも——俺は、ルカドナの街を毒で滅ぼした人間です」

「罰は、俺が受けます。だから——」


 顔を上げた。目がセリーヌを捉える。


「セリーヌ様を、元の地位に戻してください」

「エド、何を——!」


 セリーヌが声を上げかけた。


「いいわ」


 スカロディアが軽く手を上げる。

 静寂。

 スカロディアは、ゆっくりとエドを見下ろした。


「……面白い子ね」


 少し、身を乗り出す。


「恩を返したいのなら——自分を差し出すのは、最も安易で、最も愚かな方法よ」


 エドの目が、見開かれた。


「考えなさい。どう返すのかを」

「——一生かけて、ね」


 エドは、言葉を失っていた。


「それに」


 女王の視線が、横へ流れた。


「あなたが眠っている間——この子たち、ずっとあなたの傍にいたのよ?」


 セリーヌの頬に、かすかに色が差した。スレイアが目を逸らす。ルーシーが小さく俯いた。

 エドはゆっくり立ち上がり、振り返った。

 三人の顔を、順に見る。


「……ありがとう」


 深く、頭を下げた。


「本当に、ありがとう」


 それだけだった。それだけで、十分だった。

 玉座の上で、スカロディアが静かに微笑んだ。



      ◇



 ターゲルに案内され、エドたちは謁見の間を後にした。

 星の粒子で構成された幻霊の姿に、エドは少しだけ怯えて視線を逸らす。

 転移の光が、足元に広がり始めた。


 ふと——振り返った。

 玉座の上。スカロディアが、こちらを見ていた。

 そして。

 ほんのわずかに。誰にも気づかれないほど小さく——手を振った。


 エドの目が、丸くなる。

 胸の奥の緊張が、ふっと消えた。

 ぎこちなく、手を振り返す。

 視界が星の光に包まれていく。


 最後に残ったのは——玉座の上で微笑む、魔族の女王の姿だった。

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