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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
罪と夢の輪廻編

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第43話 光の隙間

「はい、あーん」

「いいって、姉さん。もうこんなに大きいんだから自分で——あーん」

「ほら、素直じゃないんだから」


肉団子を噛む。柔らかくて、温かい。

エドは不満そうな顔をしていたが、口の端がどうしても上がってしまう。


(……幸せだな)


食事を終え、タリアに言われるまま布団に潜り込んだ。


「大人になっても、タリア姉さんにこうしてもらえたらいいな……」


布団を引き上げ、顔を埋める。淡い花の匂いがする。

甘い想像を抱えたまま、目を閉じた。


闇。

いつもの闇だ。音もない。温度もない。


だが——今回は少し違った。

視線の先に、細い光の線が走っている。壁に入った亀裂のような、頼りない光。


(……光?)


意識が、吸い寄せられるように近づいていく。

近づくほどに、声が聞こえ始めた。途切れ途切れの、くぐもった声。


『この子は……背負い……すぎて……』

『……諦め……ない……で……』

『やらせて……セリーヌ……』


(セリーヌ……?)


脳裏に姿が浮かんだ。白い軍装の背中。跪いている。横顔が見える。厳しい目。だがその奥に、悔いの色。


『お前の覚悟を、見抜けなかった』


(ごめん……?)

(なんで、俺に謝ってるんだ……?)


分からない。だが胸の奥が締め付けられた。

意識が、白い光に向かって手を伸ばす——。



テレサの端末が鳴ったのは、兵たちが海岸で休息を取っていた時だった。


「ポリンシステムに不明な侵入……? 病室で爆発?」


表示を見た瞬間、テレサの顔色が変わった。


「……っ」

「どうした、テレサ」


背後からの声に、テレサは一瞬だけ言葉を選んだ。


「医療中枢……ポリンシステムに異常侵入の報告です」


短く言って、視線を落とす。


「原因は不明。記録にも痕跡がありません」


沈黙。

セリーヌは都市の方へ目を向けたまま、静かに言った。


「……なるほど」


そして、テレサへ視線を戻す。


「心配するな。お前は間違っていない」


テレサがわずかに息を止める。


「この件は、私がモネイアラに説明する」


その一言で、空気が変わった。


「……だが、まずは状況を確認しに行くぞ」

「……はい!」


浮遊車が呼び寄せられ、二人はすぐに乗り込んだ、都市へ向かう。


      ◇


医療室は半壊していた。


壁に亀裂が走り、計器の残骸が床に散乱している。焦げた匂いが漂う。

その中で、ルーシーはエドの傍に座っていた。


ベッドの縁に腰掛け、片手でエドの手を握っている。もう片方の手は膝の上。指先が細かく震えていた。

服は煤と埃にまみれ、腕には切り傷が幾筋も走っている。だが、治療を受けた形跡はなかった。


「ルーシー! 何があったの——」


スレイアが駆け寄りかけ、足を止めた。

ルーシーの手を見た。


エドの手を握っている方の手。爪が割れ、皮膚が裂けている。瓦礫を素手で掻き分けた跡だった。


「……ルーシー。話して」


セリーヌが隣に立ち、静かに言った。

ルーシーは顔を上げた。目が赤い。


「検査中に……アルファが異常を起こしました。脳内に不明な信号があると。それを安定させようとした途端——」


声が詰まった。


「——システムが、自爆を」

「自爆? ポリンに自爆機能は搭載されていません」


テレサが即座に否定した。


「でも、起きたんです」


ルーシーの声が、少しだけ硬くなった。


「爆発の直前に……アルファの画面に、顔が出ました。笑っていたんです。『渡さない』って」


沈黙が落ちた。


セリーヌが目配せをした。スレイアがルーシーの側頭部に指を当てる。記憶が映像として浮かび上がった。テレサが端末で記録する。

テレサが端末を操作している。眉が寄った。


「ポリンの録画と、ルーシー様の記憶映像——歪み方が違います。機械と人の目に、別のものが映っている」

「認識そのものを弄れる……?」


スレイアの目が細くなった。

セリーヌはベッドの傍に立ち、エドの顔を見下ろした。穏やかな寝顔。何も知らない顔。


「この子は、何に取り憑かれているんだ……」


しばらく、誰も口を開かなかった。


「セリーヌ」


スレイアが一歩前に出た。


「やらせて」

「……何をする気だ」

「この子の中に入る。直接見れば、何がいるか分かる」


セリーヌが振り返った。眉間に皺が寄っている。


「相手の正体が分からない。精神に干渉すれば、お前まで巻き込まれる可能性がある」

「分かってる」

「お前の身体は万全じゃない。戒律の杖の傷が——」

「分かってるわよ、そんなこと!」


スレイアの声が跳ねた。

部屋が静まった。


スレイアは息を吐き、声を落とした。


「……この子はね、セリーヌ。あの村で私たちがやるべきだったことを、一人でやったの」


ルーシーがスレイアを見上げた。


「手を汚すのは私たちの役目だった。なのに、この子が全部背負った。十二歳の子供が」

「だから——今度は、私たちが動く番でしょう」


セリーヌはスレイアの目を見つめていた。長い沈黙。

やがて、息をついた。


「……精神防壁は私が張る。少しでも異変を感じたら、強制的に切断する」

「いいわ」

「無茶はするな」

「するに決まってるじゃない」


スレイアが笑った。セリーヌは笑わなかった。


スレイアがベッドの傍に膝をついた。指先が宙を舞い、唇が詠唱を紡ぐ。

エドの身体が、柔らかな桃色の光に包まれた。


光の粒子が浮き上がり、形を変えていく。


蝶だった。

淡く光る蝶が、少年の周りをゆっくりと舞い始めた。

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