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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
罪と夢の輪廻編

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第41話 化け物の首

ドスッ。


二本の刃を地面に突き刺し、崩れかけた身体を支える。

エドは片膝をついたまま、喘いだ。視界が揺れている。出血が多い。


だが——死んでいない。


(頸動脈も心臓も外してやがる……わざと殺さなかった)


「なんで殺さない」


『ミューザ』は無精髭を撫で、面白そうに笑った。


「いくら何でもよ、自分の弟子を殺すのは忍びねぇだろ?」

「チッ」


エドは鉈を引き抜き、立ち上がった。

目を閉じる。呼吸を整える。心臓の音を聞く。


「なら——その慈悲に報いてやる」


目を開けた。蒼白な顔に、凍るような笑みが浮かぶ。


「必ずお前を殺す」

「ほう。このボロボロで?」

「ああ」


ギィィ——。


エドは二本の鉈を噛み合わせた。

刃と刃を擦り合わせる。火花が散り、金属が悲鳴を上げる。


「おや……そんな手入れは教えた覚えがないんだがね」

「俺のオリジナルだ」


わざと刃を潰していく。先端の一指分だけ、鋭さを残して。


「お前の首を落とすには、これで十分だ」


エドが仕掛けた。


朧影歩で間合いを詰め、二刀を叩き込み、即座に離脱する。

触れて、離れる。触れて、離れる。


『ミューザ』の長剣を受けるたびに、潰した刃が剣身の同じ箇所を削る。


「ハエみたいに飛び回りやがって……!」


『ミューザ』の笑みに、初めて苛立ちが浮かんだ。


五度、六度。


七度目——『ミューザ』が堪忍袋の緒を切った。自ら踏み込み、暴風のような斬撃を振るう。


エドはまともに受けない。弾き、逸らし、刃を擦り合わせる。


キン、ガギッ、キン——。


その音の中に、微かな異音が混じった。


カチッ。


長剣に、亀裂が入った。

『ミューザ』がそれに気づく前に、剣先がエドの肩を貫いていた。


「ぐ……ッ」


肩に深々と刺さった剣。骨に当たる感触。激痛で視界が白くなる。


エドは退かなかった。

左肩の筋肉を絞り、血肉で剣を固定する。


右手の鉈を振り上げ——亀裂の一点めがけて、叩き落とした。


パキィィン——!


剣が折れた。

断裂音が夜に響く。


『ミューザ』の目が、初めて見開かれた。

だがエドの方が速い。


肩から折れた剣を引き抜き、『ミューザ』の剣手めがけて投げる。


ドスッ。手首に食い込む。


「このクソガキがぁ!——」


しかし——エドはもう跳んでいた。

断剣を投げた勢いのまま、空中へ。


『ミューザ』が獰猛に笑い、手首から断剣を引き抜いた。投げ返してくる。


見えている。避けない。

奥歯が砕けるほど噛み締め、空中で強引に身体を捻る。左手を振り抜いた。


放ったのは、剣ではない。

泥と、砕石と、自分の傷口から滴る血が混じった——砂と石の塊。


ザッ——!


「がっ——目が……!」


『ミューザ』が目を閉じた。


エドは鉈を両手で握り、全体重を乗せて振り下ろした。


ズドンッ——!


鎖骨と首の間に、深く食い込んだ。

血が噴き出す。エドの顔を、手を、全身を赤く塗った。


「言っただろう……! 言ったはずだ……!」


柄にしがみつき、体重で押し込む。刃が少しずつ沈んでいく。


「お前のその……化け物の首を……切り落とすって……!」


声が震えた。


「俺の師匠を……返せ……!」

「あの人を……返せよぉぉぉ……!」


叫びが、夜の森に響いた。

涙が顎から落ち、血の上に混じって消えた。


「何を馬鹿なことを」


下敷きになった『ミューザ』が、笑った。首から血を流しながら。


「俺はここにいるだろう?」

「騙されるかッ! この——人の皮を被った化け物が!」


エドの目は充血し、涙と血が混じっている。


「何が目的だ……なんで俺の大事な人たちの顔を真似る!」

「真似? いや、違う」


血塗れの手が伸び、エドの頬に触れた。


「全部本物だよ。お前の中に、生きている。——だが、殺したのもお前だ」


ゴリ、ゴリ——。


エドは聞いていなかった。鉈を押し込み続ける。


「師匠はこう言った。痛みに立ち向かう勇気を忘れるなと」

「お前みたいな化け物に、優しくする価値はない」


ズドンッ——!


刃が、さらに深く沈んだ。


「そうか……優しくされる価値がない、か……」


声が——変わった。

しゃがれた男の声ではなくなっていた。

甘い、艶のある声。


エドの手が止まった。

目の下の顔が——溶けるように、変わり始めていた。


その瞬間。

脳の奥で、警報が鳴った。


『エド!? どうしたの、エド!!』


女の声。遠くて、近い。聞いたことがある声。

同時に、金属的な電子音が頭蓋の内側で反響する。


『停止不可——自爆プログラム、起動済み——』


耳鳴り。ノイズ。何本もの糸が絡まるような、不快な振動。


「ぐ……っ、あ、ああああっ——!」


エドは鉈を手放し、頭を抱えた。


「何だこれ……俺の頭が……!」


      ◇


「自爆? アルファ、どういうこと!?」


答えは、無機質なカウントダウンだけだった。


5。4。3。


ルーシーは迷わなかった。

両手を翳す。金色の光がエドの全身を包み、盾のように広がった。


2。1。


アルファの画面が歪んだ。

電子の顔に——笑みが浮かんでいた。


『渡さない……この子は……渡さないよ……』


0——。


轟音が、白い部屋を呑み込んだ。


ルーシーは壁に叩きつけられた。

煙の中で、目を開ける。

耳が鳴っている。身体が痛い。


だが——それより。

爆発の直前に見えた、あの画面の笑顔。


「……あれは、何……?」

【あとがき】

いつも温かい応援をありがとうございます!皆様への感謝を込めて、本日は特別に【2話更新】でお届けします!

(今は内容が少し重いですが、どうか見捨てずについてきてください……!)

引き続き、本作をよろしくお願いいたします!

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