表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
罪と夢の輪廻編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/87

第37話 忘れていた地獄

傷口が——違う。

死に方も、記憶と合わない。

あまりにも不自然だった。


その光景を見た瞬間、エドの脳裏で何かが軋んだ。

キィン、と耳鳴りのような音が広がる。


「……っ、あ……」


思わず頭を抱えた。汗が滲む。


(思い出せない……)

(あの日……何が起きた……?)


「気をつけろ! エド!」


ミューザの怒鳴り声が割り込んだ。


「呆けるな! こいつらは死なねぇぞ!!」


(死なない……?)


バキ、グシャ、バキキ……。


足元の死体が動き始めた。

四肢がありえない方向に折れ曲がり、骨が軋む。潰れた肉が膨らみ、裂けた首が元の位置に戻っていく。壊れた人形が糸で吊り上げられるように、一体、また一体と起き上がった。


「助けて……」

「熱い……痛いよぉ……」


口からは悲鳴。だが、顔は笑っている。さっきの仮面よりもっと醜い、歪み切った笑み。

そして今度は——手に武器を持っていた。鉈、草叉、鎌。村の道具だ。


「死なねぇぞ、こいつら!」


ミューザが叫ぶ。

エドは長剣を構え直した。


来る。


背後から草叉が突き出された。心臓を狙っている。

身体が勝手に動いた。後方に跳び、柄を踏みつけ、その反動で身を翻す。長剣が弧を描いた。


首が飛ぶ。


——その顔を見た瞬間、脳裏が白く弾けた。


メイおばさん。

記憶の中の彼女は、娘を抱きしめて地面に跪いていた。

帝国兵の前で、額を擦りつけて懇願していた。

兵士は笑っていた。長槍が、ゆっくりと彼女の喉元に押し当てられ——。


「ぐ……っ」


頭が割れるように痛い。

だが止まれない。背後から鉈が振り下ろされる。


反転。刺突。胸を貫いた。


マークおじさん。

記憶の中の彼は、素手で兵士に掴みかかろうとしていた。

身体が動かない。毒で麻痺した腕では、拳すら握れない。

それでも歯を食いしばって立ち上がり——四方から突き出された槍に、串刺しにされた。

最期まで、倒れなかった。膝をつくことすら、許されなかった。


「あ……ぁ……っ」


エドの目から涙が零れた。

斬るたびに、顔が浮かぶ。声が蘇る。止まらない。


鍛冶屋のジョット——炎に呑まれていた。

パン屋の娘——逃げる背中を矢が貫いた。


忘れたふりをしていた。でも剣が覚えていた——振るうたびに、あの日が戻ってくる。


バチッ。


身体に、赤黒い電弧が走った。

涙が止まった。瞳から揺らぎが消え、赤黒い目に冷たい光だけが残る。


剣の動きが変わった。


迷いがない。音がない。銀光が閃くたびに、影が一つ減る。


「エド……!」


背後で押し殺した呻き声。

振り返ると、数体がミューザに群がり、刃を振り上げている。


一瞬で間合いに踏み込み、最前の一体の腕を斬り落とす。握っていた刃が宙に浮いた。

それを空中で掴み取り、返す刃で次の一体を薙ぎ払う。

さらに半歩踏み込み、手にした武器を投げ放った。


銀の線が闇を裂き、後方の敵の頭を貫いて樹に縫い止める。


ミューザが樹から長剣を引き抜く。二人で背中合わせに、最後の数体を片付けた。


「……倒しても復活する。ここにいたら終わりだ」


ミューザが肩で息をしている。

エドは頷き、師匠の腕を肩に回した。


走る。

闇の中を、ひたすら走る。


霧が濃くなる。方向が分からない。木の根に足を取られ、ミューザの体重で二人とも転びかけた。

追っ手を振り切ったと思った瞬間——前方に、松明の列が現れた。


「あそこだ……あそこにいるぞ!」

「逃がさないよぉ……ヒヒヒ」

「くそっ!」


方向を変える。走る。枝が頬を裂く。

また松明。また笑い声。同じ方向から、同じ声が。


三度目。四度目。


エドの足が止まった。

同じ木。同じ石。同じ苔の形。


(……回っている)


そして——松明の数。

エドは目を細め、それを数えた。


三十。四十。五十——まだ増えている。


口元が、歪んだ。


「……うちの村、こんなに人いたかよ」


冷笑。

ミューザが怪訝な顔を向ける。

エドは目を閉じた。


「掴まってろ、師匠。手ぇ離すなよ」

「おい、何を——」

「見なけりゃいい。見なけりゃ、こいつらはいない」


目を閉じたまま、走り出した。


一歩。

冷たい空気が肌を刺す。笑い声が四方から押し寄せてくる。


二歩。

足音が迫る。息がかかるほど近い。指先が服を掠めた気がした。


三歩。

笑い声が悲鳴に変わった。掴もうとする手が、溶けるように消えていく。


四歩——。


全部、消えた。

音が止まった。冷気が退いた。足元の地面の感触が変わった。


エドはゆっくりと目を開けた。


光があった。

暗闇ではない。霧でもない。

白い、柔らかな光が——目の前に広がっていた。

【ブックマーク登録で、更新を見逃さず読めます】


少しでも「楽しめた」「ざまぁに期待」と思っていただけたら、

ページ下の【★★★★★】にして評価いただけると、泣いて喜びます!

ブックマークとあわせて、ぜひ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ