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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
罪と夢の輪廻編

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第35話 霧の中の笑顔

走った。

どれだけ走ったか分からない。


足がもつれ、膝が折れ、エドは地面に手をついた。


「はぁ……はぁ……っ」


息が焼けるように熱い。

顔を上げて、初めて気づいた。


朝だったはずの空が、夕暮れのように暗い。

空気が重い。白い霧が地面を這い、木々の輪郭(りんかく)を溶かしている。

見覚えのある道のはずなのに、何もかもが歪んで見える。


「ここ……どこだ……」


声が霧に吸い込まれた。反響すらない。

その時。


「おーい、誰か叫んでたか?」

「声からして……エドか?」


霧の奥から、聞き慣れた声。

エドは弾かれたように振り返った。


右手に——包丁(ほうちょう)がある。


(……なんで)


捨てたはずだ。ハナの家の床に落としたはずだ。

なのに、握っている。柄がぬるりと手に馴染んでいた。


考える間もなく、霧の中から灯りが揺れてきた。足音が近づく。


「やっぱりエドだ! こんな遠くまで何やってんだ!」


マークおじさんの声。その後ろに、数人の村人たちの影。


「タリアが泣きそうになってたぞ。この霧の中、子供が一人でうろつくんじゃねえ」

「俺……」


エドは半歩、退いた。包丁を胸の前に横にする。

マークが近づいてくる。手を伸ばしてくる。


温かい手だった。

エドの冷えた指を包み込み、村の方へと引いていく。


歩き出す。足音が重なる。

村人たちが周囲を囲むように歩いている。

火把(たいまつ)の灯りが、霧に滲んでいた。


エドはちらりと横を見た。

隣を歩く男の顔。

火に照らされているのに、影が動かない。口元は笑っている。

だが、目が笑っていない。

まるで貼り付けた仮面のように、表情がぴくりともしない。


反対側の女も同じだった。微笑んでいる。だが瞬きがない。

後ろを歩く老人も。その隣の若い男も。


全員が、同じ角度で、同じ笑顔を貼り付けていた。


足音だけは規則正しい。呼吸音がない。

話しかけてくるのに、口が動いていない。


背筋に、冷たいものが走った。

エドの手が、包丁の柄を握り直す。


「——やめろ」


足を止めた。

マークの手を振り払う。


「もう、いい加減にしろ。化け物」

「……何を言ってるんだ、エド?」

「帰ろう……お前の『家』に」


笑顔のまま。目は動かない。

エドは包丁を構え、突き出した。


——手応えがなかった。


拳がマークの腹に当たっている。だが、刃がない。

包丁が消えている。


「……は?」

「ふふふ……」


背後。

小さな足音。


「エドにいちゃん……」


振り返る。

暗がりの中に、ハナが立っていた。


その手に——エドの包丁が握られている。


「ハナ……どうして」

「ハナね……すごく痛かったんだよ」


一歩、近づいてくる。

きれいだった服に、暗い赤が滲み始めた。

胸のあたりから。じわり、じわりと広がっていく。

エドが刺した場所、そのままだ。


「なんで逃げたの……?」


もう一歩。涙を流している。

だが口は、笑っている。


「やめろ……来るなッ!」


エドが叫ぶ。足が動かない。地面に根を張ったように。

村人たちが、笑顔のまま輪を縮めてくる。逃げ場がない。


ハナが包丁を両手で握り、頭の上に振り上げた。


「エドにいちゃん……ハナね、殺してあげる」


(すまない——みんな——)


エドは目を閉じた。涙が一筋、頬を伝った。

刃が落ちる。


その瞬間——


ヒュッ——!


風を裂く音。


ガギィンッ!


包丁が弾き飛ばされた。暗闇に火花が散る。

何かが飛んできた。石ではない。光を帯びた、小さな何か。


ハナが悲鳴を上げ、後退する。村人たちの動きが止まった。

エドは目を開けた。


光。

霧の向こうに、光がある。

この世界にはなかったはずの——白い、柔らかな光。


      ◇


「……なん、だ……あれは……」


空に、影が落ちた。

陽光が翳る。

丘の上で、全員が空を見上げた。


巨大な円盤(えんばん)が、雲を割って降りてくる。

ゆっくりと、音もなく。

その直径は、丘の端から端までを覆うほどだった。


ケインの手が上がる。


「全軍戒備(かいび)!」


妖狼族が一斉に魔導銃(まどうじゅう)を構え、魔導師たちの掌に術式が灯った。

ルーシーはエドを抱き寄せ、防壁を展開した。


静寂の中、通信音が鳴る。


『シルヴィード殿、クラウエル殿。攻撃を中止してください』

『我々は、お迎えに参りました』


セリーヌとスレイアが、目を合わせた。


風が止んでいた。

円盤の影が、静かに森を呑み込んでいく。

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