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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
罪と夢の輪廻編

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第34話 背中の重さ

森の空気が変わった。


前方から逃げてくる魔物の群れが、木々の間を縫うように押し寄せてくる。

遠方で二体の巨獣(きょじゅう)が激突し、その余波で中小の魔物たちが散り散りになっているのだ。


地面が断続的に揺れる。

前衛が魔物群と接触する。

刃が閃き、魔物が弾かれる。殺さない。進路から押しのける動きだ。静かに、手早く。


だが、右翼が崩れかけた。

群れの中に、一回り大きな角を持つ獣が紛れている。

妖狼族(ようろうぞく)の兵士二人が弾き飛ばされ、陣形に穴が空いた。


魔物が殺到する。

その隙間に、白い光が走った。


ルーシーが片手を(かざ)し、光の壁を展開していた。背中にはエドを背負ったまま。


「下がって。ここは私が」


声は静かだ。

だが、光の壁に触れた魔物が弾かれ、地面を転がる。

角付きの大型獣が突進してくる。


ルーシーの右手に光が収束した。

指先を振ると、蒼白の閃光が獣の胸を貫き、三本の木をなぎ倒して止まった。


一撃。


吹き飛ばされた兵士の一人が、唖然(あぜん)とした顔でルーシーを見上げている。


「怪我は?」

「い、いえ……助かりました」


ルーシーは頷き、次の魔物へ目を向けた。

群れが密度を増している。二体、三体、同時に飛びかかってくる。


ルーシーの手が加速した。

光弾が次々と放たれ、魔物が吹き飛ぶ。動きが正確で、容赦がない。


一体の魔物が横から飛びかかった。

ルーシーは振り向きもせず、左手を翳す。

闇色の光が一瞬だけ指先に灯り、魔物の身体が空中でひしゃげた。地面に叩きつけられ、動かなくなる。


口元が、わずかに弧を描いた。


(——もう一段。この密度なら、広域(こういき)で——)


背中で、エドの頭がことりと揺れた。

小さな重み。首が傾いで、肩口に額が触れる。


ルーシーの手が、止まった。

指先に籠っていた光が、霧のように散る。


「……」


息を一つ吐いた。


「全員、後退。ジェイミーの誘導に合わせて。西の丘まで駆け抜けて」


声は、もう穏やかだった。


      ◇


丘の上。

追撃の魔物は分散し、戦線が落ち着いた。


ルーシーはエドを木の根元に寝かせ、負傷した隊員の治療に回った。

掌から柔らかな光を注ぎ、裂傷を塞いでいく。


「ルーシー副官、ありがとうございます」

「大したことないわ。骨は折れてないから、湿布で十分」


隣で治療を待っていた若い魔導師が、エドの寝顔をちらりと見た。


「副官、その子ずっと背負ってますけど……帰国したらファンの皆さんに刺されません?」

「は?」

「いやだって、連邦一の歌姫が男の子おんぶして戦場駆け回ってるとか、週刊誌が黙ってないですよ」

「しかも結構かわいい顔してるし、その子」


周りの数人が、くすくすと笑った。


ルーシーは答えなかった。

エドの毛布を直し、額に手を当てる。熱はない。いつもと同じ穏やかな寝息。


笑い声が遠くなる。


「……早く目を覚ましてくれたら、背負わなくて済むんだけど」


      ◇


小さく呟いて、立ち上がった。


空気が揺れた。


遠方で轟音が響き、森の一角が光に包まれる。二度、三度。

そして——静寂。


しばらくして、二つの影が丘に降りてきた。

セリーヌは涼しい顔をしている。スレイアは肩で息をしていた。額に汗が滲んでいる。


ルーシーが駆け寄った。


「スレイア様、傷は——」

「平気よ平気」


スレイアがひらひらと手を振る。だが背中を庇うような動きが、不自然だった。


「見せてください」


ルーシーは有無を言わさずローブの裾をめくった。

包帯の下に、鮮やかな赤が点々と滲んでいる。


「……無理してますね」

「してないわよ」

「戒律の杖が残した傷は、簡単には塞がりません。治るまでは大人しくしていてください」


スレイアが口を尖らせた。

セリーヌが横から溜息をついた。


「だから言っただろう。お前は後方に——」

「うっさい。あんた一人で行かせる方が心配なの」

「……」


セリーヌは何も言い返さなかった。

ふと、視線が空へ向いた。


青い空。雲はない。風もない。

何も、ないはずだ。


だが、セリーヌの目が細まった。

ほんの一瞬。蒼い瞳に、鋭い光が走る。


「……セリーヌ?」


スレイアが怪訝そうに見上げる。


「何見てんの?」

「……いや」


セリーヌは視線を戻した。


「何でもない。——出発する。全軍、隊列を組め」


号令が落ちる。兵たちが動き出す。

セリーヌは歩き出しながら、もう一度だけ空を見た。


誰にも気づかれないほど短い、一瞥だった。

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