表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
グランディ帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/87

第30話 旅立ち

青い光が、ゆっくりと消えた。

セリーヌの額を、汗が伝う。


「……駄目ね」


小さく息を吐く。

天幕の中、簡易ベッドにエドが横たわっている。

呼吸は穏やか。

傷は塞がっている。

顔色も悪くない。


だが、目を開けない。


傍らで見守っていたルーシーが、唇を噛んだ。


「おかしいです。身体はもう回復してるのに……」


セリーヌは椅子にもたれ、目を閉じた。


「身体の問題じゃないのかもしれないわ」

「……どういうことですか」

「起きたくないのよ。たぶん、この子は」


ルーシーの視線が、エドの寝顔に落ちる。


「私の……せいで……」


セリーヌはルーシーの肩に手を置いた。


「自分を責めても仕方ないわ」


静かな声だった。


「嫌な記憶があるのよ。向き合いたくない何かが。だから、逃げてるだけ」

「……」

「一晩寝れば、明日には目を覚ますかもしれない」


ルーシーは黙って頷いた。


      ◇


だが、エドは目を覚まさなかった。


一日。

二日。

三日。


胸は上下し、熱もない。

まるで、ただ長い夢を見ているだけのようだった。


ルーシーは毎日、エドの傍にいた。

あの夜のことを、何度も思い返す。


押さえつけられた瞬間、爆発した力。

妖狼族(ようろうぞく)の兵士を、軽々と吹き飛ばした。

あれは、人間の子供の力ではなかった。


「……何が起きてるの、この子に」


呟いても、答えは返ってこない。

セリーヌも首を傾げるばかりだった。


「アルタナスに戻れば、何か分かるかもしれない」


それしか、言えなかった。


      ◇


エドが眠り続ける間、グランディでは別の動きがあった。


審理が終わった日。

セリーヌは民衆の前で、一枚の書類を掲げた。


「グロリア公爵について、全ての記録を公開します」


広場の掲示板に、文書が貼り出された。


彼女が守った者たち。

彼女が背負った汚名。

彼女が本当にしてきたこと。


「これを読んだ上で、なお処刑を望むなら——」


セリーヌは静かに言った。


「私も、異論はありません」


      ◇


数日後。

王都郊外の収監地(しゅうかんち)に、民衆が集まった。


怒号はなかった。

石も、罵声も、飛んでこない。

彼らの願いは、ただ一つ。


「公爵の釈放を」


      ◇


パリン。


鎖が外れる音。

グロリアは、信じられないという顔でセリーヌを見た。


「……何をした」

「何も」

「嘘をつくな。何か魔法でも——」

「いいえ」


セリーヌは首を振った。

振り返り、集まった民衆を見る。


「これは、彼らの選択よ」


グロリアは言葉を失った。

視線の先、民衆が頭を下げている。

涙を浮かべている者もいた。


「……そうか」


グロリアの声が、震えた。


「そう、か……」


      ◇


出立の朝。

王宮の門前。


グロリアとセリーヌが向かい合う。


「また来るか」


グロリアが問う。

セリーヌは微笑んだ。


「この国が変わった頃に」

「約束だぞ」

「ええ」


二人の手が、交わされた。

短い握手。

だが、そこには確かな重みがあった。


.........


セリーヌは、王宮を去ろうとして——足を止めた。


「どうした」

「少し、寄りたい場所があるの」


振り返る。


「裏庭へ」


グロリアは眉を上げたが、何も言わなかった。

ただ、頷いた。


      ◇


王宮の裏庭。


風が、花びらを舞い上げていた。

大きな木の下。

二つの墓碑(ぼひ)が、並んでいる。


一つには、名が刻まれていた。

カロリーヌ。


もう一つは、無銘(むめい)

だが、セリーヌは知っている。

そこに眠るのが、誰なのかを。


「……」


手を合わせる。

目を閉じる。

言葉はない。

ただ、静かに祈る。


風が、髪を揺らした。


その時——


ブォォォン。


轟音が、空を震わせた。

見上げる。

紫黒の鱗。二つの首。巨大な翼。


双頭竜(そうとうりゅう)が、裏庭の上空に舞い降りてきた。


「セリーヌ様ー!」


フィリスが、竜の背から手を振っている。


「いつまで待たせるんですかー!」


スレイアは腕を組み、不満げに鼻を鳴らした。


「まったく。感傷に浸るのも程々にしなさいよね」


セリーヌは苦笑した。

墓碑に、最後の一礼。


そして、跳んだ。

軽やかに宙を舞い、竜の背に着地する。


「お待たせ」

「遅いですわよ」


スレイアが文句を言う。

だが、その目は笑っていた。


双頭竜が翼を広げる。

一声、高く吼えた。


風が巻き起こり、花びらが舞い散る。

そして——空へ。


グロリアは、門前に立っていた。

遠ざかっていく竜を、見上げている。

やがて、それは空の彼方に消えた。


「……また会おう」


呟きは、風に溶けた。


      ◇


郊外の森。

蒼月魔導団の陣営は、すでに撤収を終えていた。


ルーシーは、エドを背負っている。

小さな身体。軽い重み。

だが、その重さが、今は何よりも大切だった。


空から、羽音が聞こえる。

見上げると、双頭竜が頭上を通過していく。

合図だ。


「出発よ」


ルーシーが振り返り、隊列に告げた。

騎獣たちが動き出す。

整然と、森を抜けていく。


ルーシーは、背中の温もりを感じていた。

規則正しい呼吸。

穏やかな寝息。


「大丈夫」

「アルタナスに着いたら、きっと治してあげる」


答えはない。

だが、ルーシーは前を向いた。


長い旅が、始まる。


      ◇


闇。

そして、光。


エドは、立っていた。

見覚えのある丘。

青い空。

風が、草原を撫でていく。


丘の下には、小さな村。

煙突から、煙が上がっている。


「……なんで」


声が漏れた。


「なんで、俺は——」


ここに、いるんだ。

風が、優しく吹いていた。


グランディ帝国編――おわり

【ブックマーク登録で、更新を見逃さず読めます】


少しでも「楽しめた」「ざまぁに期待」と思っていただけたら、

ページ下の【★★★★★】にして評価いただけると、泣いて喜びます!

ブックマークとあわせて、ぜひ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ