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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
グランディ帝国編

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第27話 統帥の選択

処刑台の前。

エドが振り返った。

セリーヌの顔には、見たことのない表情が浮かんでいた。


『シルヴィード卿。判決を止めた理由を説明せよ』


スカロディアの声が響く。

セリーヌは一瞬、躊躇(ためら)った。

そして。


「陛下。エド・ウォーカーについて、再審(さいしん)を求めます」


広場がざわめいた。


「再審?」

「何を言い出すんだ、あの魔族は……」


『再審? 誰かが彼に毒を撒くよう指示したのか』

「いいえ」

『では、貴族を殺したのは別人か』

「違います」

『ならば、何を再審するのだ』


セリーヌは深く息を吸った。


「エド・ウォーカーの行動は、彼自身の判断でした」

「ですが、行動の前に、彼は私と接触していました」


スカロディアの目が細くなった。


『何が言いたい』


「私は連邦軍の総帥として、彼の具体的な計画を確認すべきでした」

「それを怠った結果、無辜(むこ)の民を巻き込んだ」

「つまり——彼の計画の詳細を、私が理解しておくべきでした」


セリーヌが膝をついた。

広場が、静まり返った。


『自分が何を言っているか、分かっているのか』


スカロディアの声に、冷たさが混じった。


「分かっています」

『これは彼自身が決めた行動だ』

「ですが、私の怠慢(たいまん)が招いた結果です」


セリーヌは頭を下げた。


「この責任から、目を逸らすことはできません」


囁きが広がる。


「まさか……」

「自分の責任だって言うのか……?」


エドは凍りついていた。


(何を言ってる、この女は——)


「おい!」


声が出た。


「頭おかしいのか!」

「これは俺が勝手にやったことだ! お前は関係ない!」


「黙れ、小僧」


セリーヌは振り返らなかった。


「お前は引っ込んでいろ」


『シルヴィード卿』


スカロディアの目が鋭くなる。


『それは感情論ではないのか』

「いいえ。これは私の責任です」

『分かっているのか。お前がどんな処罰を受けるか』

「はい」


セリーヌの手が、胸元に伸びた。

総帥の徽章(きしょう)を外す。

両手で捧げ持った。


広場が、息を呑んだ。


「あれは……」


連邦軍の陣から、動揺が走った。

フィリスの顔から血の気が引く。


「総帥……まさか……」


カイエンが一歩踏み出そうとした。


「待て!」


フィリスが腕を掴んで止めた。


「だが——!」

「動くな。総帥を信じろ」


フィリスの声も、震えていた。

スカロディアの目が見開かれる。


『セリーヌ……お前……』


エドは、その徽章を見た。

胸の奥で、何かが軋んだ。


「何やってんだ!」


叫んだ。


「お前は魔族の総帥だろ!」

「俺みたいな奴のために、そんな——」


エドは膝から崩れた。


「勲章を戻せ! 女王に謝れ!」

「分かったか、このどうしようもないバカおばさん!」


セリーヌの肩が震えた。

振り返る。


自惚(うぬぼ)れるな、このクソガキ」


怒りを込めた目。


「私はアルタナス連邦の総帥だ」

「お前のためにやっているのではない」

「安っぽい感情で、私を侮辱(ぶじょく)するな」


エドは言葉を失った。

言いたいことは、たくさんあった。

だが、何も出てこない。

歯を食いしばるしかなかった。


スカロディアが溜息をついた。


『……本気なのだな、シルヴィード卿』

「はい」


躊躇いはなかった。

徽章を捧げたまま。


『よかろう』


スカロディアが左手を上げた。

指先が動く。


セリーヌの手の中の徽章が、光の粒子となって舞い上がった。

連邦軍の兵士たちが、声を失った。

何百年と戦場を共にしてきた総帥。

その証が、今、消えていく。


光の粒子は、宙を漂い、スカロディアの掌に収束した。

再び、徽章の形を取る。


フィリスが膝をついた。

カイエンも続いた。

一人、また一人。

連邦軍の者たちが、セリーヌに向かって跪いていく。


声はない。

ただ、その背中に、最大の敬意を捧げていた。


(……終わった)


セリーヌは息を吐いた。

張り詰めていた体が、僅かに緩む。


広場の民衆は、その光景を見ていた。

魔族の兵士たちが、一人の女に跪いている。


「あの女のために……」

「自分たちの総帥を、あそこまで……」


声にならない呟きが、漏れた。


ドンッ。

ドンッ。


鈍い音が響く。

エドが拳で地面を叩いていた。


「なんで……なんで……」

「俺みたいな奴は、放っておけばよかっただろ……」

「なんで、そこまで……」


嗚咽(おえつ)が漏れる。


「自惚れるな、クソガキ」


セリーヌの声は静かだった。

背筋を伸ばし、エドを見下ろす。


「いいか。私は長く生きてきた」

「その中で、自分の決定を後悔したことは一度もなかった」

「だが——今回だけは、後悔している」


エドが顔を上げた。


「お前の覚悟を、見抜けなかった」

「それが、私の過ちだ」


セリーヌの声が、僅かに柔らかくなった。


「お前にはまだ機会がある」

「確かに、一度は道を誤った」

「だが、お前は賢い子だ」

「お前の未来が、この道の先で終わるとは思わない」


風が、彼女の髪を揺らした。


エドは動けなかった。

何かが、音を立てて崩れていく。

セリーヌの言葉だけが、耳の奥で響いていた。


『セリーヌ』


スカロディアの声に、疲労が滲んでいた。


『お前の決意は受け取った』

『だが、処分は今この場では下せない』

『グランディでの任務を終え、帰還した後に、最終的な裁定(さいてい)を下す』


跪いていた連邦軍の者たちの間から、安堵の息が漏れた。

セリーヌは顔を上げた。


「……御意(ぎょい)に」


静かに、頭を下げた。


審判台から少し離れた場所。

ルーシーは立ち尽くしていた。


彼女もまた、膝をついていた一人だった。

今は立ち上がり、台上を見つめている。


(総帥……)


視線が、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす少年へ移る。


(あの子が……)


胸の前で、拳を握りしめた。


(タリア……)


複雑な思いが、言葉にならない。

ただ、見つめることしかできなかった。

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