第25話 魔族のオバサン
処刑が続いていた。
悲鳴は短く、鋭い。
それが繰り返されるたび、広場の空気が変わっていった。
「次は誰だ! もっと連れて来い!」
「見ろよあのドレス、俺たちの血税で着飾った成れの果てだ!」
「燃やせ! もっと苦しませて殺せ!」
最初にあった恐怖は、もうない。
今あるのは、興奮だった。
処刑は、見世物になっていた。
「次。グロリア・コナリー」
鎖の音と共に、彼女が歩み出る。
足取りは揺れない。
セリーヌが罪状を読み上げる。
だが、読み終わる前に、グロリアは動いた。
弁明も否認もなく、処刑台へ向かう。
「待て」
セリーヌの声が止めた。
「罪状と事実が一致していない」
グロリアが振り返る。
セリーヌの手には、報告書があった。
「この装置は、虚偽の罪状では作動しない」
グロリアは民衆を見た。
処刑を求める目。歪んだ期待。
彼女の瞳に、失望が浮かんだ。
「……便利な正義だな」
「グロリア卿。なぜ弁明しない」
「弁明?」
グロリアが広場を示した。
「総帥閣下。あれを見ろ」
「今、この場で真実が意味を持つと思うか」
セリーヌの手が、報告書を握りしめた。
「説明すれば——」
言葉は、かき消された。
広場から押し寄せる声。
セリーヌの耳に、それは針のように突き刺さった。
何を言っているのか、もう分からない。
ただ、怒りだけが伝わってくる。
グロリアがセリーヌを見た。
「判決を」
「処刑できないなら、お前が殺せ」
セリーヌの呼吸が止まった。
報告書を握る指が白くなる。
そこには、真実がある。
だが。
「グロリア・コナリーを……暫定拘束とする」
声は震えなかった。
だが、それは裁決ではなかった。
グロリアが連行されていく。
人混みの奥、粗末な衣の者たちが彼女を見つめていた。
不安。恐れ。
祈るような目。
グロリアは振り返らなかった。
ただ、口だけで形を作る。
『大丈夫だ』
そのまま転移門へ消えた。
◇
「ふざけるなッ!!」
怒号が爆発した。
「公平だって言ったのは嘘か!」
「結局は貴族の味方かよ!」
「魔族なんて信用できるか! 殺せ! 連れて戻せ!!」
広場が爆発した。
セリーヌは声を張り上げた。
「静粛に!」
届かない。
「お願いだ、話を——」
届かない。
声が重なり、意味を失っていく。
セリーヌの耳には、もう言葉として聞こえなかった。
ただの音。
怒りの塊。
足元が揺らぐ感覚。
スカロディアを見る。
彼女は首を振らなかった。
縦にも、横にも。
ただ、黙っていた。
(なぜ……)
(私は、何を間違えた……)
視界が狭くなっていく。
呼吸が浅くなる。
その時。
転移門が揺らいだ。
小さな影が現れる。
騒音に顔をしかめ、耳を塞いだ。
視線が、台上のセリーヌへ向く。
口が開いた。
「おーい」
「魔族のオバサーン!」
広場が、静まった。
「いつまで待たせる気だよ、オバサン!」
「足が棒なんだけど!」
沈黙。
民衆が呆然とする。
連邦軍の者たちが目を見開く。
台上。
セリーヌのこめかみが跳ねた。
(この……小僧……)
(こんな場所で……オバサンと……)
(二回も……!)
「フィリス」
低い声。
「その子供を、ここへ」
「はっ」
哀れむような視線を向けられながら、エドは台へ連れてこられた。
顔を上げる。
怒りの視線と、正面からぶつかった。
エドは逸らさなかった。
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