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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
グランディ帝国編

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第24話 風鈴草の誓い

五十杖。

刑罰は終わった。

広場に、重い静寂が落ちる。


スレイアが息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。

膝が震えている。

だが、背筋は伸びたままだ。


民衆を見渡す。

罵声はない。沈黙だけがあった。

複雑な目が、彼女を見つめている。


『刑罰は完了した。シルヴィード卿』


スカロディアの声。

セリーヌが頷いた。

審理を続けなければならない。


だが——

スレイアがスカロディアに向かって礼をしようとした、その時。


「っ……」


膝が折れた。


「団長!」


副官たちが叫ぶ。

セリーヌが素早く駆け寄り、倒れかける身体を受け止めた。

腕の中で、スレイアの呼吸は浅く、途切れ途切れだった。


セリーヌの指が、スレイアの制服を強く掴んだ。

肩が、微かに震えている。


「……連れて行け」


押し殺した声。

スレイアを副官たちに押しやる。


(総帥……)


四人の少女は、その背中を見つめた。

何も言えなかった。

スレイアを抱え、転移門へと消えていく。


セリーヌは背を向けたまま、深く息を吸った。

振り返る。

その顔からは、全ての感情が消えていた。


「審理を続行する」

「グランディ帝国元君主、ベレーラ・グランディを、この場へ」


民衆が静まり返った。

囁きが交わされる。

あの女王は、どうなるのか。


鎖の音が響いた。

転移門から、白い衣を纏った女が現れる。


ベレーラ。


枷をかけられていても、その足取りに迷いはない。

女王の威厳を、まだ纏っていた。


「……ほう」


ベレーラが顔を上げ、空中の幻影を見た。

スカロディアが、静かに頷く。

ベレーラも、礼を返した。


王と王。

一瞬の、無言の交流。


ベレーラがセリーヌに向き直った。


「神聖で、厳粛な審理ですこと」


セリーヌの視線が、ベレーラの手首に落ちた。

そこには、風鈴草(カンパニュラ)で編まれた花環があった。

枯れかけている。

だが、大切に身につけていた。


(これは……)


「準備は、できているようだな」


ベレーラは答えなかった。

ただ、静かに微笑んだ。

そして、処刑台の縁へと歩み、民衆に向き直った。


セリーヌは軽く息を吐いた。

罪状の読み上げが始まる。


「——以上が、被告人の罪状である」


セリーヌの声は、感情を排していた。

ベレーラは一言も弁解しなかった。

むしろ、自ら語った。

なぜ戦争を選んだのか。

なぜ民を犠牲にしたのか。

その全てを。


「……民衆は、消耗品でした」

「養えないなら、死んでもらう方が効率的。そう考えていました」


広場が爆発した。


「ふざけるな!」

「俺たちを何だと思ってやがる!」

「死ね! 今すぐ死ね!」


怒号が渦巻く。

だが、石も卵も飛んでこない。

そんなものは、彼らにとって贅沢品だから。

あるのは、声だけだった。


ベレーラは、その罵声を静かに受け止めていた。

グランディの執法官(しっぽうかん)が立ち上がった。


「被告人、ベレーラ・グランディに対し——死刑を宣告する」


執行者がベレーラの腕を取り、処刑台へと導く。


「待て!」


セリーヌの声が響いた。

ベレーラが振り返る。


「……何か?」


セリーヌが歩み寄った。

そして、ベレーラの前で立ち止まる。


「少し、乱れている」


セリーヌの手が伸び、ベレーラの衣の皺を整えた。

袖を撫で、襟を直す。


「これから会うのだろう。彼女に」


ベレーラの目が、僅かに見開かれた。

セリーヌの手が、ベレーラの手首に触れた。


風鈴草の腕輪。

淡い青の魔力が、それを包み込む。

枯れかけた花弁が、光を帯びていく。

透明な結晶へと変わり、永遠に朽ちない姿になった。


「これ……」


ベレーラが息を呑んだ。


「見慣れた姿で、会いに行け」


セリーヌは手を離し、背を向けた。


「……ありがとう」


ベレーラの声は、微かだった。

だが、確かに届いた。


セリーヌは振り返らなかった。

ベレーラは処刑台へと歩いていった。

迷いのない足取りで。


刃が落ちた。


——


民衆から歓声が上がった。

拍手が響く。

悪の象徴が、ついに裁かれた。

正義が果たされた。

彼らは、そう信じていた。


セリーヌだけが、背を向けていた。

小さく、息を吐く。

誰にも聞こえない、溜息。


同時刻。帝国中央監獄。


転移門の向こうから、悲鳴が響いてくる。

聞き覚えのある声。

かつての仲間たちの、断末魔(だんまつま)


残された貴族たちは、震え上がっていた。


「次。ファリーナ・ヴァノッティ」


カイエンが名を読み上げる。

死神の点呼のように。


「いや……いやぁっ! 死にたくない!」


ファリーナが泣き叫ぶ。


「連れて行け」


妖狼族(ようろうぞく)の兵士が、無表情のまま彼女を引きずっていく。

転移門に消える。

悲鳴が、途切れた。


貴族たちが息を呑む。

その列の中。

一人だけ、別のことを考えている者がいた。


エド。


(あれは……本当に幻覚だったのか?)


昨夜、牢の格子越しに見た影。

白い髪。

タリア姉さんに似た後ろ姿。


処刑よりも。

あの影の方が、彼の心を離さなかった。

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