25 植樹とお小言
「日当たり的にはこのへんかぁ?」
「そうだね」
ノアとベンは王宮の中庭にいた。先日侵入してきたルートの近くでもある。
王宮にきて数日が経った。今日は二人で王宮の中庭にアナザーホーム内の果樹を植樹する予定だ。
侵入してきた日から天気がぐずついてしまい、なかなか植樹することができなかったのだ。雨よけの魔法を使っても良かったのだが、やはりなんだかんだと溜まっていた仕事を手伝っていて忙しかったというのもある。その間ノアは王妃に甘やかされ、王子にちょっと遠巻きに見られていた。
「王妃に話しちゃったけど、いいよね」
「いいんじゃないか?
あの人はお前さんを変なことに利用しようとするタイプじゃないだろ。
着せ替え人形にはさせられるかもしれんが」
「うん、された。
ワタシ翼があるから断ったんだけど…」
その時のことを思い出したのか、ノアはちょっぴり困惑した面持ちになる。
ノアでも困惑することはあるんだなとちょっと感心してしまう。アレクの告白を盛大にぶった切った罪悪感とかもあるのだろうか。
それとも別に何か困惑する原因が…と思い立ったところでマーガレット王妃の隠れた悪癖を思い出した。
「もしかして、それじゃあ一から仕立てるって話になったり…?」
「なった。
なんかもういいやってなって任せちゃった。もうちょっとで仕上がってくるはず」
やはりそうなったか、と頭を抱える。マーガレット王妃は普段であれば理性的な女傑なのだが、自分と違うタイプの女の子に目がない。着飾らせたくてたまらなくなるらしい。ノアの中身は万国人間びっくりショーだが、見た目は可憐な少女なのだ。そりゃあ餌食にもなる。
とはいえ、可愛い女の子を着飾らせるのがマーガレット王妃の唯一と言っていい息抜きでもあるため止めることは躊躇われた。ついでに、ベンが止めたところで止められるとは思わない。ここはノアに諦めて貰うしかないだろう。
「…お前さんにはアナザーホームあるし、荷物にはならんだろ。
もらっとけもらっとけ。」
「いいのかな? どうせ着ないのにモッタイナイ」
「あの人こども好きなんだよ。でもアレクしかできなかったんだよな。
娘が出来たみたい~ってな感じだろきっと。いいからもらっとけ。んで、着て見せてくるっと回ってやってくれ。
どうせ王の命の対価は王宮料理だけじゃまかないきれんだろ」
「うん…」
こんな話をしながらも、二人ともしっかり手を動かしている。
許可をとった場所に土魔法で大きな穴をあけ、そのまますっぽり植えてしまう手はずだ。
「しかし…魔法上手くなったなぁ俺」
「今までは効率の良いやり方を知らずにむちゃくちゃなやり方だったから」
少なくとも以前のベンは、これだけの広さの穴を空けたらそのまま倒れ込んでもおかしくない魔法力だった。それが今や会話の片手間にできるのだから違いはハッキリしている。この他にも苦手な魔法属性が使えるようになったり、別の属性の魔法を組み合わせて使えるようになったなど、魔法方面においてかなりの成果を残している。
「なぁ、このやり方王宮魔術師に伝えてもいいと思うか?」
「…どう、だろう…?
前言ってた魔法王国次第」
「だよなぁ。魔法技術の革新ではあるんだが…」
「国民にたまたま魔法と相性良い人間がいて個人で研究してて王に伝えた、みたいな…」
「…そっか。俺たちの中の常識では魔法を研究したいやつはまず魔法王国へ行く。だが、よく考えたら個人で研究している変わり者もいるかもしれんもんな。ソイツから研究成果を買い取ったってことにしてもいいのか」
考えてみれば、魔法を研究するためには別に魔法王国に行かなくても構わないのだ。魔法を研究するために高価な機材や施設はなくても構わない。もちろんあるに越したことはないが、個人でコツコツやることだってできるはずだ。
「…ちなみにだが、ノアは名前を後世に残したり、他の人に知られたい?」
「いきなりなに?
目立つのはイヤ」
「いや、この研究成果を俺が王宮魔術師に伝える時に名前を出すか出さないかってこと」
「絶対やめて」
食い気味で断固拒否された。予想はしていたが少し笑ってしまう。やはり王宮にいると、名誉名声に食い付く者を目にすることが多い。それ故に利用しやすいという面もあるからそれ自体は悪いことではない。ただ、そういった連中が喉から手を出すほどに欲しがるものを片っ端から拒否するノアが珍しく、面白かった。
「そもそも、ワタシはノゾミの願いを叶えたいだけ。
美味しいものを食べる。綺麗な景色を見る。そういうことがしたいだけ。
目立ったらしにくくなる」
「なるほどなぁ。
んじゃやめとくよ」
「うん。
…ノゾミの願いを叶えようと人と関わったらすごくめんどくさい」
「まぁ、最初に会ったのが俺だったってのが運の尽きだ。
そこは諦めてくれ」
「まぁ…別に悪いとは思ってないからいい。
あ、悪いと言えば…」
唐突に思い出したらしく、ノアがグイと身を乗り出してくる。
「王様。仕事しすぎ。
折角経過が良好なのに、悪化してしまう。減らして」
「…そいつぁ無理だな」
「どうして?」
「昨夜、暗殺未遂があったわな。お前さんが撃退してくれたやつ」
「うん。ちゃんと覚えてる」
王宮での滞在が数日になると、慣れも出てきて油断も出てくるだろう。なんて、相手が思ったかは知らないが、昨夜は襲撃があった。恐らくノアを普通の女の子と思って油断したのだろう。相手は5人。全員をノアが生け捕りかつ自害も防いでくれたお陰でバッチリと情報がとれた。ちなみに情報を絞り出してくれたのもノアだ。方法は割愛するが、彼女は人体のことを熟知しているらしく、気絶も損傷もなく自白を促す術も知っていた、とだけ言っておこう。
そんなこんなで、誰が王弟の命を狙っているかはハッキリとわかっている。
「お前さんのお陰で誰が首謀者かもハッキリわかっている。自供から調査も始めて裏もとれた。
それでも、そいつは捕縛されてない」
「何故?」
「人手がたりねぇからだ」
「…なるほど。抜けたら埋められないくらい大きな穴になる。
そんな状況だから王も率先して動かざるを得ない、と」
「そゆこと」
相変わらず理解が早くて助かる。
ようするに、そういうことなのだ。ぶっちゃけてしまえば王位継承権2位の王弟の命を狙ったとしても、実務が出来れば問題ない。勿論、政務体勢が整ってしまえばお払い箱だ。その頃にはあちらもなんらかの準備をしているだろうが。
「…ベンは悔しくないの?」
「んー?」
「命を狙われて、狙ってきた人間がわかって、そいつをどうにかしようとは思わないの?」
言っているノアが一番悔しいのかもしれない。ボディガードとして雇ったから、もしかしたら責任を感じているのだろうか。
「いやぁ…全然?
そもそもなぁ王弟の命1つで全国民養えるなら安いモンだ。
それが今はどうだ。お前さんのお陰で俺も生きてて国王も生きのびた。今が最上の結果だと思うぜ、俺は」
ワシワシとノアの頭を撫でる。
サラリと手触りの良い髪だ。
「俺は多分根っからの王族なんだろうなぁ。優柔不断ではあるけれど、考え方がそうなんだ。
俺の命でまかなえるならそれでいいって思っちまう。
だから、お前さんがそんな顔をする必要はない」
「……ワタシが拾った命なんだから、粗末に扱わないで」
おや、とベンは不思議に思う。そういえば、今まで一緒に過ごしてきた中でノアがワガママを言ったことはなかったはずだ。本人もこれはワガママだと思っているからこそ、しかめっ面をしているのだろう。
ただ、ノアの気持ちもわからないでもないが、やはりベンは根っこから王族だった。
「民を救う対価であれば粗末だなんて誰も言わんさ」
耳障りのいい言葉でごまかすことも可能だった。
けれども、ノアは賢い。見た目通りの子供扱いをせず、対等な人間として扱いたかった。その気持ちが伝わったのか、ノアから痛くないパンチをお見舞いされた。
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