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13 マンドラゴラは拾えるものではありません!


 結果的にいうと、アナザーホームの中の畑作成作業は想定よりも大幅に遅れた。

 それというのも…。


「ベン、蜂の巣とった。ハチミツ食べたい」


「おい待て、蜂全部駆除したのか!?

 あとしれっとハニーベアも追加すんじゃない!!!」


 という感じのやりとりを皮切りに、ノアが道中見つけた珍しいものや美味と言われているものを片っ端からアナザーホームの中に放り込んでくるのである。

 放り投げては返事も聞かず出入り口を閉めてしまうものだから、ベンの抗議の声は聞こえない。つらい。

 ベンは背後に置かれている熊や魔物の死体(よく見ればきちんと血抜きされていた。食う気満々だ)や蜂の巣(本当に蜂がすべて駆除されているのかわからず近づきたくない)が気になって作業に没頭できなかったのだ。

 それでなくても、集中できそうだ、という絶妙なタイミングでノアが声をかけてくるのだ。とりあえず植樹できそうな深さのブロックをつみ終えただけでも誉めてほしいくらいである。


「ベン、昼休憩しよ。おなかすいた」


「それはいいが、手に何を持っている」


 ノアの手には土の塊があった。土の上部からは葉が生えている。土の固まりの中に根の部分が埋まっていることは疑いようがない。


「マンドラゴラ。初めて見た」


「そういうモンをほいほいもってくるんじゃありません!」


 アナザーホーム内にベンの悲痛な叫びが木霊した。


 マンドラゴラ。

 引き抜いた際に何故か絶叫し、その絶叫を聞いたものは死に至るという恐ろしい植物だ。しかし、その根には様々な効果があり、魔法使いや薬師垂涎の品と言える。

 ごく一部の施設では、効果は薄まるものの養殖に成功した、という話もある。

 もし、ノアが持っているのが本物のマンドラゴラであれば、致死性の高い野生のマンドラゴラだろう。だからこそ引き抜かずに土ごと持ってくるという暴挙に出たのだろうが。


「ていうか、なんでマンドラゴラだとわかったんだよ…」


「走ってるときに蹴飛ばした。

 そしたら絶叫が聞こえた…。試しに一本抜いてみたけどすごかったよ、悲鳴」


「いやなんで無事なんだよお前さん…」


 この子はほんと、なんでもありなのだろうか。

 死んでほしいなんて微塵も思っていないが、あまりの無敵っぷりに少々脱力してしまう。


「耳塞いで、風魔法で周囲を覆って音量調節した。音って結局空気の振動だから、風魔法でマンドラゴラの周囲の空気を固定させれば安全。あと、手じゃなく翼で抜いたし。

 抜いたら鮮度が落ちるかと思ったから、土ごと何本か持ってきた」


「…とりあえず畑の一角に植えとくよ」


 何だかんだ言っても野生のマンドラゴラはありがたい。病気治癒の効果もあると言われているからだ。野生ならばその効果ももちろん高いはずだ。王宮の薬師に見せれば病状を抑える薬なんかも作れるかもしれない。

 彼女も、王のことを心配してくれているのだろう。


「あと、抜いちゃったやつお昼にしよう。

 煮物でいいかな? お肉と煮たら美味しいかな?」


 前言を少し撤回したい。

 ノアの場合、王への心配が2割、自分が食べてみたいからが残りだろう。

 こちらが助かることにはかわりないので、いいか。


「こっちはちょっと進捗遅れぎみでな、悪いが料理頼んでもいいか?」


「うん。マンドラゴラ料理してみたかったからちょうどいい。熊肉と煮込む」


「…食えるものだといいな」


「料理の基本は覚えてるからたぶん大丈夫。

 あ、調味料ちょうだい」


 調理は外でやるらしい。確かに熊肉とかの癖のあるものは調理すると独特の匂いがする。寝起きはアナザーホーム内ですることになるので、その空間を熊肉の匂いで満たすのは得策じゃないだろう。あとマンドラゴラもどんな匂いがするかわかったものではないし。

 アイテムボックスからしこたま買った調味料を出してノアに渡す。

 あとは料理が完成するまでに、畑をどうにかすればいい。次にノアが顔を出すときは料理ができたときであり、不審な物体を放り込むためではない。それがわかっているだけでも大分落ち着いて作業ができた。


「ベン、ごはんできた」


「おー、よかった。こっちから声かけられなくてな。

 こっちもついさっき完成したんだわ」


「タイミング良かった。

 …そういえば、ベンからワタシに声をかける方法ないと不便だね」


「それなぁ…まぁその辺は食べながら話そうぜ」


 アナザーホームから外に出て、日の光を浴びる。

 ぐぅーっと体を伸ばすと隅々まで血液が回るような感覚がした。

 周囲には自然の香りだけではなく、煮込まれた肉の匂いがする。匂いだけなら美味しそうに思えて、胃袋がうなり声をあげた。


「マンドラゴラと熊肉の煮込み。と、こっちは買ったパン。ひたして食べて」


「おう」


 熊肉は独特の匂いがあるが、この煮込みにはそれがない。かわりにどこかで嗅いだハーブの香りがする。スープの中身は熊肉と、根菜。この根菜こそがマンドラゴラなのだろう。マンドラゴラに関しては、薬にするときはエキスを抽出するらしい、くらいの知識しかない。まさかただの野菜のように食すとは思ってもみなかった。

 まずはスープから味わってみる。

 ピリ、とした辛味と肉の旨味が口の中に広がった。


「うまいな」


 スープを口にすると熊肉独特の香りもするが、それとハーブなどの匂いがうまく混ざって食欲をそそった。


「うん、味見したけどなかなかいい出来だと自分でも思う」


「じゃあ、具もいただくぞ…」


「うん」


 採点を待っている子供のような目をするノア。

 食事は趣味、というような世界からきたせいで、いまいち自分の味覚に自信がない、と先日話していた。そのため、ベンの反応が余計に気になるのだろう。


「熊肉は…大分やわらかいな。臭みも少ないし、これは旨い」


 熊肉は覚悟していた臭みがほとんどなく、長時間煮込んだせいか口の中でがほろりとほどけた。予想以上に美味しくて肉ばかりがっつきそうになるが、メインの具材はもう一つある。マンドラゴラだ。薄くいちょう切りにされたそれをそっとかじる。


「で…問題のマンドラゴラは……え、これ歯ごたえすごいな!?」


「うん。熊肉とずっと煮込んでたのに全然ふにゃふにゃにならないの。大根ならとろとろになってるはずなんだけど」


「だな…でもこれはこれで美味いと思う」


 マンドラゴラの見た目から、ベンもノアも大根のような根菜をイメージしていた。

 だが、実際は煮込んでも煮込んでもくったりとはならず、面白い歯ごたえを残している。そのくせ熊肉の旨みはしっかりと吸い取っているのが面白い。


「ん。美味しいなら安心した」


「ていうか、普通に食べてるけど…いいのか?」


「一応。

 ワタシの知識では、マンドラゴラは主に沈痛や沈静の作用がある。毒性も強い。

 今食べているのは、それとは異なる植物と考えられる。魔素、あるいは魔力に影響。それから、体力回復剤としても有効」


「へぇ…じゃあ労働した俺らにピッタリか?」


「とりすぎはよくないかもだけど、このくらいなら多分平気」


 マンドラゴラは熊肉と比べてると入っている割合が少ない。薬も摂取しすぎれば毒になるものだ。


「実際マンドラゴラって一度手に入れたらそれを大事に大事に使い回すようなシロモノだもんな。

 薄切りとは言え、咀嚼できる状態で食べるって物凄いレアな経験をした」


「ワタシもこれで元気でた。

 これで、ベンに次のお願いできる」


「へ? 次のお願い?」


 唐突に言われて頭に?マークが乱舞する。

 そして、更に続いた言葉はその?マークを更に増やすような言葉だった。


「うん。デザートが食べたいの」


閲覧ありがとうございます。

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