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12 少女のチートな応用力


「10秒たった。どう?」


「平気だ。

 無音が不気味程度だな」


 街道から逸れた山の中。人の気配は全くなく、風が木々を揺らす音だけが響く。カルヴァンの町から王都に真っ直ぐ向かって一時間あまりの場所だ。

 通常カルヴァンの町から王都に向かうには、皆町の東から伸びる街道に沿っていく。だが、ベンたちは通常ルートを無視して最短ルートで王都に向かうことにした。

 本当に最短ルートのため、山あり谷あり道などない! という感じのため馬を購入することは結局諦めた。


 そして、人気が完全に無くなったことを確認した今、二人は新たな試みにチャレンジしていた。

 ちなみにこれが失敗してしまうと、ベンはお姫様抱っこの刑になる。そのため祈るような気持ちでノアの実験に付き合っていた。


 このチャレンジはノアが発案した。内容は「空間に魔素を使って穴を空ける」ということらしい。ベンのアイテムボックスを見て閃いたんだとか。

 ノアが解析したところ、アイテムボックスの中は空気も時間の流れもない異空間になってるらしい。それを維持しているのが、アイテムボックスの内側に書かれた魔方陣なんだそうだ。


 ノアは一度、空間を無理矢理切り裂いたことがある。

 ベンと出会ったあのときだ。

 あれはノアにとっては賭けみたいなもので、成功する確率は半々だったらしい。

 あのときの力を応用して空間を穴を空け、この世界特有らしい魔素でもって時間の流れや空気ごと固定する、ということらしい。


 ノアはアイテムボックスを見たときから「自分で作ってみたい」と思っていたんだとか。そして、夜ベンが寝ている間にせっせと検証を繰り返していたらしい。


「捕まえた動物を一昼夜入れていたけど、生きてた。なにもない空間に怯えてはいたけど」


 とのこと。つまり、動物での実験は成功済みということだ。

 あとは人体実験と言うことでベンが入ってみるだけ。その結果が先程の会話だ。実験結果は成功と言える。


 ノアの空けた空間の裂け目は四角四方の箱の中、といった感じだ。広さは今のところ、ちょっとした運動や手合わせくらいならできる広さ。ノアの話だともう少し拡張しようと思えばできるとのこと。

 耳が痛くなる無音、という矛盾した状況にはなり、ちょっと気が変になりそうになる気もするが、そこはまぁ何とかするしかない。幸いアイテムボックスの中と違い、真っ暗闇ではないため何か作業ができそうだ。


 その後何度か実験を繰り返し、異空間(とりあえずアナザーホームとノアが名前をつけていた)にベンを安全に匿って、その間ノアが高速移動することが可能だとわかった。


「なるほどなぁ。ここなら安全に雨に当たらず野宿できるわ」


「ね。便利。

 中で魔法も使えるし」


 アナザーホームの中が安定すると、術者本人であるノアもその中に入ることができた。魔素で目印をつけておけばノアが中に入ったとしても同じ場所に出られる。応用すれば、ワープのようなこともできるんじゃないか、とノアは楽しそうに言っていた。もし実現すればとても便利な反面、かなりヤバイと思う。

 まぁ、それは一旦置いておくとしよう。


「で、俺はノアに移動してもらっている間にこの中に畑を作っとけばいいんだな」


「うん。新鮮な状態で持っていった方が病気治癒には有効…だと思う」


「任せておけ。おじさん土魔法は得意なんだ」


 土魔法は地味と思われがちだが、農業や土木では大活躍する。畑を耕したり、地面をきれいに整地するにはもってこいなのだ。ただ、広い農地を魔法でカバーするにはその分莫大な魔力が必要となるため、扱いづらいのが現実である。

 今回に限って言えば、アナザーホームの一角に畑を作るだけなので、そこまで多くの魔力が必要なわけではない。睡眠するためのスペースと区分けするために、ブロックを作成して区切るのに時間がかかる程度だ。

 ノアが一生懸命走ってくれている間に、ベンは農業スペースを充実させる。そういった役割分担だ。


「あの空間で待ってるだけだと、気が狂いそうだからな。

 作業できることがあるのは大歓迎だ」


「ついでにごはんも作っててほしい、かも」


「余裕があれば作るが…まずはぶちこんだ土をどうにかしなきゃだからな」


 ノアがいう、王の病気にも効く栄養豊富な木の実がなる木をアナザーワールドに植樹するのが今回の一番の目的である。植樹となると、結構な深さが必要になることが予測される。頑張ってくれたノアのためにも美味しいご飯を用意してあげたいところだが、そこまで手が回るかは正直微妙だった。

 得意とはいえ、本格的に畑作りにチャレンジするのははじめてなのだから。


「きちんと畑が作れたら、二人分布団買ってもいいかもな」


「ん。成功確率は高かったけど、100パーセントではなかったから。

 でも、これで安心して野宿できる」


「これ下手に町に寄って宿とるより安全っていうのがまた凄い」


 どこよりも安全に眠ることができる。

 自分にもできるのならやってみたいところではあるが、ノア曰く「空間こじ開けられるのが前提」らしい。そんな能力はどうあがいても自分にはないと悟ったベンであった。


「それじゃ、走るね。

 もし見かけたらその場でストップして声かける」


「おう、了解。

 こっちの作業が終わる前だったら、悪いけど手伝ってくれ」


「ん。王宮料理忘れないでね」


 こちらの言葉にも慣れて、ノアの口数も増えた。

 本人がホムンクルス(正確には違うようだが)といっていたので、感情もなにもないのかと思っていたが、割りと彼女の感情は豊かなようだ。表情に出ないだけで。

 もしかしたら、それこそがノアのベースになったノゾミという少女の影響ではないのだろうか。


 そんなことを考えながら、アナザーホームに入ったベンは黙々と作業する。

 まずは土をアナザーホームの片隅に全部追いやり、そこから土魔法でブロックを形成する。これは防御魔法の一種なのだが、破壊されない限りそのままの形を保ってくれるため、レンガ作りに応用する奴もいるほどだ。そのブロックを手作業で並べていく。もともと土で出来ているものを移動するのだから、それも土魔法でできないことはない。ただ、自分の手足を動かせばなんとかなることを魔法ですると、あとで魔力切れが起こるかもしれないのでやめておいた。


 魔力切れ、とは魔法を使いすぎた時になる現象だ。

 人間が魔法を使うときは魔素を利用する。その魔素を利用する力が魔力と考えられているが、現時点でそれは明らかになっていない。

 魔力とはなにか。尽きた感覚はあれど、魔力が見える人にとってそれは魔素とは異なるものらしい。そういった研究が今も魔法都市でされていることだろう。今のところ、様々な推察はあるが、これ、という結論には達していないようだ。


「ノアは魔法をどう見てるのかね」


 規格外の武力と魔法の素養。

 左肩から生えた鋼の翼。

 恐るべき学習スピード。

 どれをとっても、彼女が人間ではないと実感させるには十分だ。そして、彼女が故郷の世界を壊してきた、という言葉が誇張ではないと信じる要素にもなりうる。

 料理に釣られて味方になってくれたとはいえ、彼女の扱いは慎重になるべきだ。できることならこれからも末永く味方でいてもらうために動くべき。


「と、王族の俺なら思うべきなんだけどなぁ…。

 自由にさせてやりたいねぇ…」


 今までの話を総合すると、彼女は故郷の世界を壊すためにノゾミという少女の命をもらい受けて作られた存在ということだ。世界を壊しきるまで自由などなかったのだろう。

 もしかしたら、ノゾミという少女の願いを聞かなければ、一緒にその世界と壊れていたのかもしれない。

 やっと知った自由や、美味しいという感情を奪っていいものかどうか。悩んでしまうあたり、やはり自分は王など向かないとベンは思うのだった。


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