11 王様の呪いの正体
感想ありがとうごさまいます。
個別返信は控えてますがいつも楽しく読んでいます。
「王様の口、臭くない?」
「はぁ!?」
唐突に言われた身内の悪口(?)にベンは戸惑いを隠しきれない。何故ノアがこんなことを言い出したのかがわからず、なんと答えればいいかわからなかった。
一瞬、室内がシンとなる。元々防音性が優れている高級宿だから、どちらも黙ってしまえばそうなるのは当然だ。
ベンの戸惑う気配を察知したのか、ノアが言葉を足す。
「王様の症状。古傷がひらく、血が止まらない、力が入らない…当てはまる病気いくつかある。
口臭くなるのも、症状の一つ。だから聞いた」
「そういうことか。
…思い返してみれば、最後に会ったとき臭かった気も…」
一国の王が身だしなみその他に気を遣わないわけがない。臣下の誰か、もしくは兄と仲のいい王妃あたりが指摘するだろう。特に王妃は歯に衣着せない物言いをする人だから、間違いなく指摘して改善させているはずだ。それでも改善しないのであれば、病気からくるものだった可能性もある。
「あと…王様、偏食?」
「それも関係あるのか!?
物凄い偏食だ。ガキの頃は大人の目もあって渋々野菜くってたが、今はもう肉と酒しか口にしてないんじゃないか?」
「…原因、多分それ」
ノアの目に呆れの色が浮かぶ。表情筋はあんまり仕事しないくせに、その目は雄弁に様々な感情を語るのだ。
「船乗りとか、長期間新鮮な野菜・果物が食べられない人がなりやすい病気。
…ばか?」
「偏食が原因だとしたら馬鹿としか言いようがないな」
一国の王が何をやってるんだ、という気持ちになる。
船乗りであれば栄養が偏ってしまうのも仕方がない。何日も、何十日も海の上にいるのだから、新鮮な野菜や果物などは摂取することが困難だろう。
しかしながら、ベンの兄は王だ。望めば国一番の贅沢が出来る身分である。船乗りとは全く事情が違う。自ら病を招いたようなものだ。
何せベンが今命を狙われいるのは、王が倒れたからに他ならない。それを思うとフツフツと怒りが沸いてくる。
「一番苦手なレモン、たらふく口に詰め込んでやる…」
腹いせにそれくらいしても許されるはずだ。
一度目にレモン汁を噴射して動きを止めるのもいいかもしれない。そんな幼稚な嫌がらせをベンが考えているとノアが質問してきた。
「もしかして、王様酸っぱいモノもキライ?」
「嫌いだな。酒好きだけどワインは酸味あるって飲まないし、柑橘系とか全然食わない」
食べるのはもっぱら肉。飲む酒はエール。
ちなみに甘いものもあまり好きではないため、果実を食べたり果実酒を飲むこともなかったはずだ。
「うん…。治したいならほんとに口の中にレモン放り込んだ方がいい。
きちんとバランス良く栄養とれば治る」
「ほんとか!?」
兄の病が治るのであれば、これから予想される困難のほとんどを回避できる。
全力で兄の偏食を治し、寿命を延ばして貰い、その間に甥っ子をたたき直して貰う。ベンは今まで通り、最低限の公務をこなして影ながら王を支えればいい。
闇の中手探りで解決しなければ、と思っていたが少し光明が見えて胸を撫で下ろした。
「ホント。その病気であってるなら、だけど。
…今まで通ってきた道中、有効な栄養が豊富な木の実があったはず」
「それは…採りに戻る時間がちょっと惜しいな」
是非とも欲しいところだが、レモンですむならそっちの方が早い。
「王都に行くまでに、なるべく自然が多いところを通って探してみよう。
甥っ子派の人たちと会うのも面倒だし、大きな道じゃない方がいい」
「それもそうか…じゃあちょっと野宿が多くなるな。明日もう少し色々買い足してから出発しよう」
今日の買い物は、街道を通る前提で買ったものだ。次の宿場町まで持てばいいという程度の荷物しか買っていない。
野宿が多くなるのであればもうそれ専用の荷物を増やさなければならない。幸い、ベンはアイテムボックスを持っているので多少荷物を増やしたところでどうにでもなる。人目につかない道を行くのであればなおさらだ。
「もういっそベンはクッションとか買ったらいい。腰痛そう」
「それはちょっと考えた。でも、雨の日は使えなくなるだろう?」
外で過ごすのだから、雨に当たってしまう時もある。そういうときは腰がどうとか言ってられないのだ。
ただ、あれば晴れの日は腰痛を予防できる。そう考えると購入するのは悪くないことのように思えた。
「雨の日使わなきゃいいだけだし、アイテムボックスにはまだ空きあるしで…購入検討してもいいかもな」
「雨の日でも多分、なんとかなる。
失敗したら困るから、明日の野宿の時に見せる」
「え? 何? どゆこと?」
「安心して腰痛予防グッズを買っていい…かもしれないってこと」
よくわからないが、何かノアには考えがあるらしい。
ベンにとっては王の病気を治してからが本番だ。王が病気で伏せっているのだから公務も滞りがちだろう。それなのに、公務を手伝うべき王弟は腰痛で暫く動けません、となるのは非常によろしくない。
「えーと…今見せたときに、失敗するかもしれないから、人里離れたところで見せる…ってことか?
じゃあ、魔法?」
「そんな感じ。
地図ある? 明日からのルート決めよう」
「あるぜ。
なるべく無駄なく、でも木の実なんかを収穫できそうなルートだな」
地図を見ながら、ノアと相談して今後のルートを決める。こうして見ると我が国の領土はなかなか広いのだな、と感心してしまった。だが、それは現時点ではマイナス要素だ。
「うーん…お前さん馬乗れるか?」
「馬? わからない。乗ったことがない」
「だよなぁ…。いや、どう考えても王都につくまでには1ヶ月以上かかってしまうんだ。俺が脱走したときから兄の病状は悪かった。それこそ、甥っ子派閥が俺の暗殺に乗り出すくらいにはな。
だから、一ヶ月もかけてちんたらしてたんじゃ、間に合わないかもしれない…」
兄が死んでしまえば状況が全てひっくり返る。
それにいくら兄の病気に必要な栄養素がわかったとしても、回復するには時間がかかるだろう。
出来るだけ早く到着したいのだ。
「…早く着く方法、ある」
「マジか!? どんな………」
聞く前に、ベンの脳裏にとある事柄が思い浮かぶ。
出会ってすぐの頃。死にかけの状態で、ホーンドボアを倒して貰った日のことを。
「…まさかとは思うが、お前さんが俺を抱えて走るなんてことは」
「正解」
確かに彼女なら、ベンを抱えて走っても下手したら馬より早い。
ベンを抱えたまま、木の上に跳躍して見せたのだからまず間違いないだろう。もう馬より早い少女ってなんやねんという話だが、エーアイとやらの能力らしい。
なんだそれ。エーアイって万能なのか。と突っ込んだことはあるが、万能ではないというのが彼女の意見だ。こっちから見れば万能に見えるんだが、本人からすれば色々欠点があるのだろう。
とまぁ、俺を運ぶことが不可能でないことはわかる。
わかるが、それをしたいかと言われるととてもためらわれるのだ。
なんてったっていい歳したおじさんが、少女にお姫様だっこされるのだから。
「そ、それは流石に…」
「国とベンの羞恥心を秤にかける?」
「ぐっぐぬぬ…」
王族たるもの、自分より国を優先させるべし。そのようにベンは習ってきた。だから、彼女が言っていることは正しいというのはわかるし、王族として喜んでそうするべきだ。
「ん、大丈夫。最悪お姫様だっこだけど、うまくいけばそれしなくてもいい」
「マジか!? じゃあ是非うまくいってくれ!」
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