14 デザートが食べたい!
「で、デザートとこれ、何の関係があるんだ?」
マンドラゴラと熊肉の煮込みという意外と美味な昼食を森の中で終えた後、ベンに手渡されたのは金属のボールであった。中が空洞らしく、金属にしては軽い。
さて、また移動タイムだ、という時にベンはこれを渡されたのだ。
畑の準備も一段落したため、何か仕事があるのであればやりたいとは思う。そうでないと、あの無音の空間の中で暇を持て余して死んでしまうかもしれない。
「アイスクリーム…食べたい」
「?」
「この世界にはない…の?」
「多分?」
ベンの中で、アイスは氷、クリームは乳製品で作る甘いもの、という認識だ。クリームを凍らせた物体だろう、という予測は立つ。
「アイスっていうからには氷を使うものなんじゃないか?
そうなると流通はかなり難しいからなぁ」
「そうなの?」
「氷を使うなら北の方とかから氷を輸入したり、凄腕の氷魔法使いを確保しなきゃならんからなぁ。
で、輸入だと道中でほとんどが溶けちまう。溶かさないためには氷魔法を使えるやつが氷の形維持しなきゃならんし。
夏は氷があると嬉しいけど、そもそも氷魔法を使える奴が稀」
氷魔法は、水魔法の上級と言われている。ただ、水魔法を極めたといっても過言ではない人間であっても使えないことがある難しい魔法だ。そんな人物が輸入という厳しい道中についてくることはほぼないと言っていい。
ちなみに水魔法に適性があるベンだが、勿論氷魔法は使えない。
「そっかぁ…。じゃあアイスクリーム、この世界では初めての料理になる、かも。
とりあえずベンは、ワタシが走ってる間コレ転がしてて」
「転がすのはいいが…なんだそれ?」
「ん…見てて」
ボールの一部分がフタになっているらしく、パカリと開く。そこに向かって、ノアは手のひらから無詠唱で一口サイズの氷を大量に放出する。
「……もう突っ込むのもなんだかなぁって感じだが一応、言わせてくれ。
お前さん氷魔法もできるのな」
「教えたらベンも出来ると思う。水魔法得意なんでしょ?」
「いやまぁ水は得意だけど…」
水と氷は別物だろう、と思う。そんなベンの気持ちは総スルーで、ノアは着々とアイスクリーム作りを進めていく。
氷をたっぷりボールに詰め込んで、お次は塩もたっぷり。使用している塩は道中で掘り出した岩塩を使用しているとのこと。塩取り出して、こんな金属のボールまで作って、その上きっちり距離は走っている。他にも魔物やら熊やら退治しているし、ハチミツも確保している。作業量が多すぎて意味がわからない。
改めて、ノアの処理能力の高さに震え上がった。彼女が敵に回らなくて本当に良かった。
そんなベンの気も知らず、ノアは着々と作業を進めていく。
ボールの中に、氷と塩をたっぷり詰め込んだらフタを閉める。そして、反対側にもフタがあったらしく、こちらには牧場でもらった生クリームと先ほどとったハチミツを入れた。
パチンとフタを閉めれば準備完了。
「はい、これいっぱい転がして。
あんまり激しくやりすぎるとフタとれちゃうから気を付けて」
「へ? えーと、これでそのアイスクリームができるわけ?」
「たぶん。頑張って!
出来た頃に一回休憩入れるね」
言うが早いか、ポイとボールと共にアナザーホームの中に放り込まれる。
こちらの意見は聞かない、といった感じだが、氷を使っているのであればそれも仕方ないと思える。何せモタモタしていたら氷が溶け切ってしまうのだ。
「しかし、これでどうなるってんだ?
塩も氷ももったいないな…」
大量の塩と氷。それだけで物凄い贅沢品だ。幸いルートワード国はそこまで塩に困っていない国だとしても、やはり塩一つ作るにもそれなりの労力がかかる。
しかもデザートと言っていたが、こんなに塩を入れていたらしょっぱくないだろうか。
「ただ、これで美味しければ王宮に提案してもいいか。国賓の対応のときとか自慢できるだろ、味知らんけど」
言いながら、ベンは畑が整備されて自由スペースが広くなったアナザーホーム内で氷や生クリームが入ったボールを転がす。あまり頑張って転がしすぎてもフタがとれて中身をこぼしてしまいそうなので慎重に、だ。
それを30分ほど続けた頃だろうが。ちょっと疲れと空きを感じたところで、ノアがアナザーホームをあけた。
「ベン、できた?」
「いや、できたかはわからんがとりあえず言われた通り休まず転がしたぞ。
割と疲れるなこれ」
「ありがと…できてるといいな」
めずらしいノアのワクワク顔にベンの顔もほころぶ。それなりに苦労した甲斐があったというものだ。冷静に考えれば、走りながらこんな細工の細かい金属ボールを作る苦労をしていたのはノアの方なのだが。
器を用意して、パカリと生クリームを入れた方のフタを開ける。
どうやら中身が金属部分に張り付いているらしく、匙でこそげとらなければならないようだ。
「…むぅ。要改善」
「この白い塊が完成品か? 確かにクリームが凍ってんな」
「こんな感じかな? 食べよ?」
「おう」
頑張ってこそげて器に盛った分をベンに、ノアはボールを抱えて食べるらしい。なんとなく、ボールを抱えている姿が可愛らしい。
緊張の面持ちで匙にアイスクリームを掬う。
じっくり観察しているとそのまま蕩けて落ちてしまいそうなので、急いで口に入れた。
「つめたっ!あまっ…」
「おいしい…おいしい!」
ハチミツを入れたので予想はしていたが、ベンにとってはちょっと甘い。ただ、なめらかな口当たりと、何よりも普段口にすることのない『冷たい食べ物』という感覚が面白いと思えた。
ノアはそれらをひっくるめて全部お気に召したようで今まで見たこともないような顔で喜んでいる。どのくらい喜んでいるのかと言うと、ベンは出会ってから初めてノアの表情筋がきちんと仕事をしているところを見たくらいだ。
普段、ノアの感情を伝えてくれるのは目と雰囲気だけだ。それでも最近は十分機嫌がわかるようになってきたのだが、ここにきてやっと表情筋が仕事をしている。微かに唇の端があがり、目が垂れている。それだけでも普段鉄の仮面をはめたように動かない表情が動いたのだから十分な変化と言える。
美味しそうに小さな口を何度もアイスクリームを運ぶ。
「あー…ちょっとおじさんにゃ美味いが甘いんだよな。おじさんの分も食うか?」
「いいの!?」
今回は試しに作るということで、材料はほんの少量だった。
あっという間に食べきったノアが物足りなさそうな雰囲気を醸し出しているのを見て、思わずそう言ってしまった。
「ああ。ただ、今度これの仕組み教えてくれ。
うまくすりゃうちの国の名物になるし」
「わかった、ありがと。あとで氷魔法も教えるね!」
一口二口しか食べなかったアイスクリームを器ごと渡してやれば、嬉しそうに受け取る。
(いやぁ…年相応なのが見れてよかったぜ。
色々規格外だけど、まだ子供だもんな…子供だよな?
そういや年齢きいたことなかったな)
今更ではあるが、少し気になる。
「そういや、お前さんいくつなんだ?」
「ん…ノゾミは8歳。ワタシは…作られてからもうすぐ2年」
「幼女にも程がないか…?
たーんと食え。転がすだけならおじさん頑張るから…」
10にも満たない年月で…と思うと胸が詰まる。
自国民ではないにせよ、子供が子供らしく振る舞えない環境と言うのは胸が痛んだ。
(…今回のことが終わったら、もうちょっと真面目に仕事するかね…孤児院充実とか)
アイスクリームボール…ハチミツでも作れるんですかね?
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