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第三百九話 エガワの責務、サンモトの為に


「エガワ将軍家とルナティス王家はどのような繋がりがあったのでしょうか。当時であればまだ国交もほとんど開かれていない時期でありましたでしょうし」

「詳細は伝わっていないが、当時にも多少なりとも外国からの貿易船はサンモトに訪れていたらしい。その一環で訪れたルナティスの人間と意気投合し、しばし行動を共にしていたと。残念ながらそれ以上は分からん」 


 災厄の事が伝わっていたのであれば、刻限の要がどれほどの危険を孕んでいるかは承知していたであろう。その上で鍵を受け取りこれまで守り抜いてきたと考えれば、決して浅からぬ関係であったとは推測できた。

「封印の劣化に話を戻そう」


 トウガの能力である『時間の停滞』だが、実は完全に時の流れを止めるには至らない。あくまでも極限まで時間を遅くするにとどまり、現実より遥かに遅々としてではあるが封印もその内部でも時間が経過しているのだという。


「封印がいつの日か崩壊し、災厄が世に解き放たれるであろうと、先祖も予見していた。その為に代々の当主に伝承を残していったのだ。良からずに災厄を利用されず、それでいて後世への警鐘を伝え続けるために」

「その封印が解ける時分が、まさしく今代であったというわけか」

「おそらく、誰が手を下さずとも、数年の内に災厄の封印は解けていたであろうな」


 全てを語り終えた将軍は、ロウザを見据える。


「不幸中の幸いは、災厄復活の兆しとトウガの担い手が見つかった時期が重なったことだ」


 封印の劣化が限界に近づいていると知った将軍は、遠くない頃にロウザに全てを打ち明けるつもりだったらしい。ロウザの元で軍を率い、復活するであろう災厄に対抗しようと考えたのだ。よもやロウザの方から『災厄』を口に出したのは将軍にとっても大いに驚いたのである。


「だったらなんでこんな回りくどいことをしたんだ、親父殿。最初から言ってくれれば」

「むしろ、余計な手間暇が省けたほどだ。本来ならもう少し時間をかけて時期将軍の自覚を促すつもりであったが、そちらから申し出てくれたからな」


『手間暇』のくだりでロウザがゲンナリとなった。 


『この感じだと、絶妙に外堀を埋めつつ、当人の意思でやった感じに誘導するくらいの案とか考えてたんだろうなぁ……マジで狸親父って感じだな。狼だけど』


 将来的にはロウザもソウザ将軍と似たような狸親父になるのだろうか……案外すんなりとなってしまいそうだな。


 ロウザは傍の蒼錫杖を手に取ると、目の前に翳す。


「やれやれ、ただの便利な錫杖とばかり思うておったが、よもやここまで『重いもの』であったとはな」

「だが、今のお前であれば余さずに背負えるはずだ」


 万感の想いがこもった将軍の声に、ロウザは強く首を縦に振った。


「災厄の再封印は我がエガワの家に受け継がれた責務。サンモトの命運はお前に託されたと言っても過言ではない」


 それから将軍は俺たち一同を見渡す。


「貴殿らには、エガワ家の因縁に巻き込んで申し訳ないと思っている。本来であればサンモトの人間だけで決着を付けるべきなのであろうと」


 先祖が残したやり直しの代償の一部を、外国から来た者たちに押し付けようとしている。将軍の表情からは忸怩たるものが強く滲み出していた。


「…………それらを踏まえた上、恥を承知で頼み申す」


 将軍はこれまでにない誠意の籠もった口調で俺たちに述べる。 


「封印の地は災厄の瘴気によって集まった厄獣(化生)の巣窟とかしているであろう」


 ランガに軍の編成を命じたのは、シンザの軍勢を追撃するだけではない。現地には凶暴化した無数の厄獣(化生)が待ち構えていると推測されているからだ。


「兵への教練を欠いてはなくとも、サンモトの民が戦を忘れて久しいのは事実。軍才に優れたランガが率いたとして、一筋縄とはいかんであろう」


 サンモトは各地を収める武家たちの小競り合いが時折に起こる以外は、平和な世が続いた。合戦という規模の戦いは遠くなって久しい。日々の訓練をしていたとして、実戦に耐えうる度胸を果たしてどれほどの兵が持っているかだ。


「今は一人でも多く、戦力が欲しい。異国の地にて、日々を厄獣(化生)と渡り合っている貴殿らのような力を」


 将軍は握った拳を床に付けると、深々と頭を下げた。


「万難を排する為、サンモトに住まう民のため、助力を頼みたい」


 君主として決して軽くないはずの(こうべ)を俺たちに向けたのだ。


 事はサンモト全域にまで及ぶ一大事。仮に腹の中に一形を案じていたとしても、それ込みで躊躇なく頭を下げられる将軍の器量に深く感心させられた。


 いの一番に承諾の意を示したのはやはり、レリクスであった。


「今更問うまでもありません。そのために僕らはこのサンモトの地にやってきたのですから」 勇者一行は元々、災厄に対処するためだ。


「もし災厄の力が尋常ならざるものであるのなら、被害はサンモトだけではなくその外──僕らの故郷にまで及ぶ可能性も十分に考えられます。ならば、僕らの力をお貸しすることになんら躊躇いはありません」


 レリクス(リーダー)と意思を同じくする一行も、力強く頷いた。さすがは音に聞こえる勇者様だ。とてもじゃない俺には絶対にできない宣言である。


「だったら、先に決め(シメ)ておかにゃならん話があるぜ」


 気勢が静かに高まっていく中で、それを断ち切るようにリードの声が響いた。


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