第三百八話 封印の真実
「……あの、以前から気になっていた点があるのですが」
おずおずと、恐れ多くもと挙手したのは勇者一行の魔法使いだ。
「どうして命懸けで災厄を封印したというのに、エガワ家のご先祖様たちはわざわざ鍵を用意なされたのですか?」
「そうだよなぁ。前々から思っちゃいたが、どうして絶対に解けちゃならねぇ封印の鍵が存在するんだ? 破壊するのが無理だってのは聞いたけど、だったらそもそも作らなきゃいいだろうに」
これには彼女の仲間──傭兵も同意を示す。鍵なんて存在しなければ、ルナティスだって魔族に襲われなかったのだ。
これに答えを述べたのは、将軍ではなくアイナであった。
「おそらく、『鍵』が生じてしまったのは、エガワ家の先祖としても不足の事態だったのではないでしょうか」
「その慧眼、恐れ入る。そこなお嬢さんの指摘した通りだ」
因果関係が逆なのだ。
封印そのものに元々鍵は存在せず、封印を解除できてしまう存在を『鍵』としたのだ。
「『凍牙』にて封印を施される際、災厄も黙って封印されるはずもなかった。最後の力を振り絞った抵抗にて、さしもの宝刀も耐えきれず砕けたのだ」
本来のトウガは身の丈を超える長刀。災厄封印の際に砕けて刀身が短くなった。そこで新たな『拵え』を用意し、出来上がったのが今の隠し刀としての蒼錫杖である。
「待て親父殿。話の流れから推測するに、破片の大元である蒼錫杖でも封印が砕けるのではないか?」
「ああそうだ。しかし、お前も知っての通りその蒼錫杖は自ら使い手を選ぶ。選ばれし使い手でなければ、凍てついた時の封印を砕くには至らんのだ」
だが、本体から分離したことで『破片』は意思が薄れてしまった。『時の凍結』能力も失われてしまったが、『時の氷結』を砕く力の残滓だけが残ってしまったのだ。
「では、鍵の破壊ができないのも」
「災厄を封印する際にトウガは折れたが、それは災厄の尋常ならざる力が成せる技よ」
人の生み出したあらゆる技であっても、破片を砕くには至らなかったのだ。
『……残念ながら語られた今でも思い出せん。しかし、強いざわめきが私の中で蠢いている。将軍が語っている事が真実であると、そのざわめきが強く訴えかけている』
災厄の封印に立ち会っていたはずなのに、トウガがそれにまつわる記憶を失っていたのは、体の一部が欠如していたからだ。
「なるほど。海に沈めてもどこに捨てても災厄のもとに戻ってきてしまうと聞いておりましたが。些か事情が異なっていたようですね」
しきりに納得の素振りを見せるシオン。
「求めていたのは封印ではなく、本体である『蒼錫杖』だった。あえて誤認させていたのは、必要以上に蒼錫杖の担い手が狙われるのを防ぐため、というわけですか」
トウガの伝来や製法については災厄以上に謎に包まれている。ある時を境にしてエガワの歴史に現れ、代々に受け継がれてきたとしか残されていない。
「故に、再び一つ宝刀に打ち直すことも、更に砕いて消滅させることも叶わない。よって、破片を『刻限の要』と名付けて『鍵』と定義し、厳重に管理する他なかったのだ」
また、災厄の存在に勘づいた悪き者の手に渡らぬよう、遠い異国の地であるルナティス国へと鍵を移したのである。




