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第三百七話 騒乱の予感


「まずは見事、と言わせてもらおう。これほど短期間でランガを下し取り込むとは、さしもの我も少しばかり目算を誤った。実に天晴れ」

「……儂の手柄ばかりではないさ。出会いに恵まれた」


 誇るでもなく謙虚な姿勢のロウザに、将軍は実にご満悦の様子。目を掛けていた末の息子が本腰を入れて、誰にも文句を言わせない結果を出したのだから、将軍もさぞ鼻が高いだろう。


「我が出した課題を見事に遂げて見せた。ならば我は約束通り、其方に封印されし災厄の眠る地を伝えよう」


 お褒めの言葉を頂いたと思っていたら、将軍がとんでも無い発言をし出した。


 事情を知る俺たち一堂は揃って仰天する。


 いくらなんでも展開が早すぎるし、その上──。


「おい親父殿。ここには当事者(わしら)の他に知らぬものが山ほどいるのだぞ。そんな堂々と話して良いのか?」


 災厄については将軍家最大の禁忌だ。何も知らないロウザとランガ両陣営の家臣たちがいる中でして良い話では無いはずなのだが。


「本来であれば許されんであろう。が、いささか状況が変わった。むしろ、今後の事を考えれば、皆のものにもある程度は共有しておくべきで有ると判断した」


 将軍の口調こそ悠然穏やかではありながらも、張り詰めた空気感が肌に伝わってくる。


「我が影から、シンザが手勢を連れてコウゴを離れたという報告が入った。しかも、得体も知れぬ者で周囲を固めているとも聞いている」


 家臣たちにどよめきが広がった。この場にいる誰一人として、将軍家次男のそのような動きについては把握していなかった。それだけ秘密裏に動いていたという事だろう。果たしてその目的がなんなのか彼らには見当もつかない。


 一方で、将軍がこのタイミングで告げてきたことで、その目論見に当たりがついた。


「よもや……シンザ兄上が災厄を?」

「軍勢の進路からして、十中八九間違いないであろうな」

「そういうことは先に言え! 大問題ではないか!!」


 たまらずにロウザは声を張り上げた。


「ええい、こうしちゃおれん。儂らもすぐに後を──」

「だから待て。気持ちは分かるがそう急くな」


 慌てて立ち上がりこの場をさろうとするロウザに、将軍が待ったをかける。


「これが急かずにいられるか!!」

「なればこそ、無理にでも落ち着くのが上に立つものの努めよ」


 将軍に諭され、ロウザは「うっ」と呻いた。


「上役が浮き足立っては、下の者たちは尚更に浮き足が泳ぐ。周囲が混迷しようとも、どっしりと腰を下ろすのが主君の器量よ。たとえ表面上であろうともな」


 実に最もらしい意見にぐぅの根も出ないと言ったところか。ロウザの浮いた足が地に着いたのを見計らい、将軍は改めて口を開く。


シンザ(あやつ)が災厄の居所を突き止めたとて、しばしは問題ない。彼の地には封印を守護する者を配置している。長くは無理だが、一時を確実に稼ぐであろう」


 手を翻し、将軍が告げる。


「なれば、その『時』を使って我らは成すべき事を成すまでよ」

 


 和やかな親睦会から一変して緊迫感のある空気感。

 俺たちは庭先から屋敷内の広間に場を移していた。

 ランガは席を外している。事情の全ては分からずとも将軍の言葉やロウザの剣幕から只事ではないと察し、すぐに了承し行動を開始していた。今頃は、ロウザ派ランガ派からそれぞれ、迅速に動ける兵をかき集め編成している最中だった。

 少しばかり戦力が過多にならないかとロウザが具申したが、将軍はむしろ集められるだけ集めろとのお達しであった。

 そして。

「お、遅くなりました!」

 荒い足音が響いてきてすぐに襖が開けば勇者一行が現れる。街での世直しをしているであろうと、ロウザの護衛衆が急ぎ報せを運んだのだ。俺が親指で示すと息を切らせたレリクスは頷き、俺たちの隣に腰を下ろした。

「これで面子は揃ったようだ。では始めさせてもらとしよう」

 上座の将軍は集った者たちを見渡すと、彼が口を開くより先にロウザが手を挙げる。

「その前に尋ねたいことがある」

「何なりと聞くが良い」

 ロウザは問いかける。

「親父殿の一声があれば、シンザ兄上の動きは抑制できたのではないでしょうか。察するに、親父殿も兄上の動きには気を払っていたのだろう」

 そこは俺も少し気になっていた。

 ロウザが顔を顰める程には老獪なソウザ将軍だ。ロウザが将軍の座に収まることがほぼ確定した中で、残ったシンザの動向は俺たちも気になるくらいだ。将軍が注意を向けていないわけがなかった。

「……確かに儂が命じればシンザは止まったやも知れん。だが、今のあやつからは、これまでにない鬼気迫るものを感じた」

 無理矢理にでも止めれば何をしでかすか分からず、もしかすればコウゴの都を巻き込む大事に発展すると危惧し、将軍も無理には止めなかったのだ。

「あの頭でっかちなシンザ兄上が、腹を括って行動に出た、ということか。となればやはり」

 ここに至ってはもはや疑いの余地はない。

 ルナティスを襲い『刻限の要』を奪った魔族。それとシンザは繋がっているのだと。

「見るからに慎重派で下手な博打はしねぇだろうとは思ってたが……勝てる見込みが十二分に有るなら大博打にも手を出すか」

「客人の言う通り。策士気取りで型に嵌まりがだと思っておったが、儂の見込みが甘かったようだ。いや、我が子の成長が著しくて親としては嬉しい限りだ」 

「いやいや、親馬鹿してる場合じゃねぇだろ、将軍さん」

 うんうんと口元を綻ばせてしきりに頷くソウザ将軍に、リードが呆れ顔でツッコミを入れた。 将軍は軽く咳払いをして仕切り直すと、それまでにない真面目な表情となる。

「ここ最近、封印されし災厄の監視役から度々上がっている報告がある」

 封印されし災厄のある地から、日に日に『瘴気』が溢れ出している、と。

 傭兵活動の一環で聞いたことがある。

 かつての戦場や厄獣暴走スタンピートが起こった場では、時として『澱んだ空気』が発生する。人間が吸ったところで多少気分が悪くなる程度だが、厄獣が取り込むと事情が変わる。

「その瘴気に当てられてか、付近に生息する厄獣(化生)が増え、凶暴性を増していると。今は現地の者がどうにか抑え込んでいるがな」

 将軍が厳選した腕利を揃えているものの、封印場所の露見を防ぐために少数の配置にとどまっている。限りある手の隙間から、凶暴化した厄獣がすり抜けることもあるのだと言う。


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