4.逃がした魚は大きい
4.逃がした魚は大きい
翌日、私は終業のチャイムが鳴ると同時に居酒屋へ走った。私としたことがあの時、吉田さんが“女将さん”だと言ったのを“カミさん”だと勘違いしてしまったみたい。私は店に入ると、昨日と同じカウンター席に着いた。
「翔子さん、今日は早いですね」
「取り敢えず生」
イケメン店員の祐二くんが注文を受けて下がると、私は店内を見渡した。
「はい、生。誰かと待ち合わせですか?」
戻って来た祐二くんが生ビールのジョッキを置いて言った。
「別に」
「もしかして吉田さん?」
「なんでよ。そんなわけないじゃない」
「それならいいんですけど…。吉田さん、もう来ませんから」
「どうして?」
「なんでも、実家の家業を継ぐから田舎に帰るんですって」
「家業を?」
「ええ。なんでも金沢の方でホテルを経営されているそうですよ。それで。こちらのホテルに修業に来ていたそうです」
「ふーん…」
なんてこと!メアド交換しておくんだったわ。
「翔子さん、逃がした魚は大きかったですね」
「何を言ってるんだか」
私は生ビールが入ったジョッキを持ちあげると、ヤケクソで一気に飲み干した。
「やけ酒は体に悪いですよ」
「余計なお世話よ。次、冷酒」
「はいはい」
祐二くんが厨房に引き上げると、私は頭を抱えた。本当よ!逃がした魚は大きいわ。
浮いた話も無いまま年が明けた。結婚式まで、あと一年半。
年末年始休暇は出会いを求めて色んな所へ出掛けて行った。地元の同窓会、温泉旅行、初詣、サッカーの試合、日帰りバスツアー等々。けれど、女の一人旅は侘しいだけだった。周りはほとんどカップルだったし、後になって考えてみたら、いい感じの男が一人でそんなところに来るはずもない。無駄なお金を使ってしまったわ。こんなことなら結婚式の費用に取っておけばよかったわ。
そんな時、携帯電話に結婚式場から連絡が入った。
「そろそろ一度、お打ち合わせをしておきたいのですが」




