5話
※
多分、楓蓮お姉ちゃんは盛大にネタバレしたと思ってる。
だがウチにとっては更に混乱させる事態に陥っていた。
楓連さんの頭の中は間違いなく黒澤くんだった。その断固たる確証は私自身の記憶と完全に一致するからだ。
でもさ……でもさ……
今、目の前で完全な女性である彼女がどうやって黒澤くんに変化するんだ?
まったくもって検討がつかない。
もうすぐネタバラシしてくれるからいいけどさ、
この設定には無理がある。絶対に無理がありすぎるってば!
とりあえず寿司タイム。
事前にウチもリクエストしてた甘えびと、鯛と、エンガワなどなど、食べるのは良いんだけど、
白峰家は何と言うか,すげー豪快な食べ方で、モリモリ食べていく。
それはもう男性のような……
見た目は凄まじい美女達なのに、食べ方だけは妙に男っぽ感じるのは、楓蓮お姉ちゃんが変なことを吹き込んだから、そう思ってしまう。
「こら、華凛。もうちょっと綺麗に食べろよ」
麗華ママが見かねたのか、妹に注意すると、
「だって僕、男だもん」
いやいや、それはちょっと……
まてよ? それってやっぱり、男の娘?
つ、ついてるのか? そ、そうなのか?
じゃあ、楓蓮お姉ちゃんも、ついてて、黒澤くんになる?
い、いや、それは無い。
まずはその体格だ。全然違うじゃないか! 顔もそうだし、髪の毛がウィッグだとしても、ここまで完璧に女の子になれるのか? 絶対不可能だ!
気になりすぎて甘えびが食べられねー。
なんだかオカンも麗華ママも、姉妹も気兼ねなく溶け込んでてて、非常に孤独を感じてしまう。
「加奈子ちゃん。そういえば俺達は男だって紹介されたよね?」
ウチはうんうんと真顔で頷くと、オカンもうんうんと頷いていた。
「言われた通り、加奈子には殆ど説明してないわよ。どう? 見せられそう?」
オカンがそういうと麗華ママは、
「楓蓮と華凛はサイクルを狂わせたくないから、俺だけ見せますね」
サイクルが狂う? どういう意味なんだろう?
お寿司を食い終わると、再び向き合う三輪家と白峰家。第二ラウンド開始である。
「加奈子。じゃあ説明するわね」
さっき楓蓮お姉ちゃんからのネタバレは確実に関係あるだろ。
女と男になる。この線は間違いない。だが、その過程の説明だろうと踏んでいた。
「今は女性だけど、本当はみんな男性なの」
オカンがそういうと、次は麗華ママが、
「まぁ、男か女かと言われれば、俺達自身が勝手にそう思ってるだけで、心は男だと、そう思ってるだけなんだが」
確かに、今の状況だけしか見えなかったら、そういう捉え方も可能ではある。
「じゃあ俺が今から男になるから。よく見ててね?」
「え?」
思わず声に出して驚いてしまう。今から男になる?
ウチのリアクションを姉妹が見てるが……どちらかというと不安な表情をしているのだ。そこは得意げになってもいいんじゃないかと思ったが、アテが外れた。
「おとうさん……?」
妹の華凛ちゃんは不安でいっぱいな顔を浮かべる。
「心配するな華凛。この人達は大丈夫。絶対に秘密は洩らさない」
オカンは華凛ちゃんの手を持つと、うんうんと頷いて見せた。
きっと心を通わせて、不安を取り除いているのだろう
絶対の秘密。それはウチら家族も同じなんだ。
こちらはもう秘密をバラした。あとは白峰家の秘密を知り、それを隠し通すこと。
「加奈子ちゃん。実はさ、加奈子ちゃんに事前に教えなかったのは俺の考えなんだ。悪いんだけど、ウチのバカ息子達に貴重な経験をさせてやって欲しい」
「……どういうこと。ですか?」
思わず質問していた。すると麗華ママはとてもやさしい表情を見せて、
「何も知らない人間が、俺達の入れ替わる瞬間を見て驚く瞬間を……見せてやって欲しい」
「えっ? えっ? ど、どういう……」
最後まで言い切る前に、それは始まった。
麗華さんは胡坐で目を閉じている。するとその体はゆっくりと徐々に筋肉質になっていき、さらに髪の毛は色が変わり黒髪になっていく。
顔つきは変わり、タンクトップはビチビチに膨らんで丸まっていた部分は平たくなった。顔ハすでに男っぽくなってて口元にうっすらと髭まで出てくると、最終的には麗華ママの時より一回り大きな成人男性になってしまったのだ。
ウチは一体何を見せられたんだ? 目の前で……女性が男性に?
あっ! ウチは反射的に姉妹を見ると、
怯え切っていた華凛ちゃんと目が合うなり、目を逸らされてしまう。
辛そうな顔だった。とてもじゃないがプラスの感情ではないのは明らかで、楓蓮さんはウチの視線よりもやや下を見ている。目を合わせられないほど、深刻なのだと感じた。
「す、すごい……本当に男性になっちゃった……こんなことが出来るなんて。すごいっ!」
瞬時に閃いたアクション。
それは素直に驚いたのを口に出したのと、もう一つ。妙に明るく言い放った理由は……
きっと白峰家はこの入れ替わる瞬間に対して、非常にマイナスなイメージを持っているのではないかという直感だ。
この入れ替わる瞬間っていうのは、見る人が見れば……
いや、よそう。
これこそ白峰家が一番気にしている所なのではないだろうか?
「パンツは履いてないの?」
は? オカン? 急に何を言い出すの?
「トランクスだよ。女性用のショーツで男に入れ替わると最悪だからな。ビリビリに破けるから」
なんでショーツだと最悪? 破ける?
ああそうか! 入れ替わった瞬間、体が大きくなるから……ってこと?
「あの……三輪さん? 気持ち悪かったでしょ?」
楓蓮さんが心配そうに聞いてくると、ウチは素の顔で平然と返す。
この時の顔をウチは忘れられないものとなった。
「いえ、別に大丈夫でしたよ。普通にすごいって思いましたけど」
「そ、そうですか……」
安堵する楓蓮さん。明らかな作り笑い。何かの感情を押し殺してるのは明らかだ。
間違いない。この入れ替わる瞬間は確実に白峰家トラウマのようなものだと。
「加奈子ちゃんは優しいね」
麗華ママ。ではなく麗華パパ? 声が男になって野太い声になってるぅ!
「ふふっ。この子は一番無難なアクションを選ぶのよ」
「そういう言い方はやめて! ウチは本当にそう思っただけで」
必死に弁解していると、楓蓮さんが、
「わかってます。入れ替わる瞬間って気持ち悪いと分かってます」
だから妙に明るいリアクションを返したつもりです。
すみません。バレバレでしたね。
ウチはそーいうヤツなんです……すません。
「お前たちもこの先、入れ替わり体質をカミングアウトする日がくるだろう。その時の為に、今日のことは忘れるなよ」
麗華パパ? がそう言うと、ようやく物語の全貌が見えてきた気がした。
入れ替わり体質を暴露したとき、普通の人間はどんな顔をするのか?
それを姉妹に見せたかったのだろうと。
「でもね零斗。こういう経験も必要だけども、こっちの加奈子のことも忘れないでね」
零斗? それが麗華ママの男の名前かな?
「いい人間かどうか、暴露してもいい人間かどうか、そーいうのは加奈子に任せればいい。全部この子が教えてくれるわよ」
すると零斗さんは吹き出すように笑い出した。
「入れ替わり体質と、人の心を読む力。憑依する能力。これが揃えば怖いものは何もないでしょ?」
そういってオカンが締めると、ようやく白峰家に笑顔が戻った。
あんまり期待されても困るんだけどさ、
「でもね、人の心が読めるってさ……そんなにイイものじゃないですよ? それに、ウチはこの能力をあんまり好きじゃないんです」
すさまじい沈黙。思いっきりこの場を凍らせてしまった。
「ごめんなさい。この子も色々あって……人の心を読めるのと同時に、普通の人には理解できないデメリットもあるのよ。だからお願いします。この子の事も……理解してあげて下さい」
「その代わりこの子は……あなた達を絶対に大切にするハズだから」
「こちらこそ。お願いします。メリットも多いけどデメリットの方がかなり致命的だから……多分、加奈子ちゃんに助けられる部分が多いとは思いますが、この秘密を伝えた以上、あなた達とずっと仲良くしていきたいと思ってます」
あぁ、さすがだな。ウチがぶち壊した空気をあっという間に修復してしまった。
「ね? 零斗!」
「うん! 冴子さん。お互い頑張りましょう」
そして子供たちの前で抱き合わなくていいからね。
そーいうのはイラナイからさ。
※
麗華ママが入れ替わる瞬間を見た。中々すごかったというのが本音だった。
入れ替わり体質。それは本当に男が女になるという、常識離れな能力だ。
「そういえば楓蓮。なんで加奈子ちゃんのことを三輪さんって呼ぶんだ?」
零斗パパからの指摘に、楓蓮さんが一呼吸置いてから答えた。
「実は高校で同じクラスになった」そう前置きしてから答える。
「蓮での付き合いがあるから、呼び間違えないように、今はまず三輪さんで統一しようかなと」
「あーそうか。学校で蓮の時に間違えて加奈子ちゃん呼びはマズいよな?」
なるほど! そういう意味があったんだ! むちゃくちゃ納得した。
「でも、三輪さんが、加奈子ちゃん呼びがいいなら……「いえ。三輪さんでいいっす!」
ウチは二つ返事で返した。
すっげー納得しすぎて思わず手を持ってしまった。
「すませんっ! あまりにも合理的で納得がいく回答だったので」
すぐに手を離した。
だってウチが心を読めるのが分かってるから警戒しちゃうからね。
「じゃあ後は、楓蓮に任せるぞ」
「ああ、分かった。後のルールは俺から伝える。よ~し。華凛。三輪さん! 俺の部屋で話しましょう!」
え? 楓蓮さんの部屋?
それはつまり蓮くんの部屋ということ?
「え? どうしました?」
すぐにウチの異変に気が付いた楓蓮さんが疑問っぽい顔をお見舞いしてくれる。
「そ、それはつまり……れ、れんくんの部屋ってことですよね?」
「そうですが……ダメでした?」
「いあ、ダメっていうか……べ、別にいいですけど。いいですよ!」
まぁ待って。焦ることでもない? だってさ、いくら楓蓮さんが蓮くんだと言っても……
今は女の子である楓蓮さんだからイイんじゃね? という妙な結論に達した。
「はいっ! じゃあ行きましょう!」
あぁ、この人はウチの対極の位置にいる陽キャラだ。真逆すぎて眩しすぎる。
そして多分、楓蓮さんは分かってない。
ウチが難色を示した意味を。
い、言わなくていいさ。多分……
女の子が男の子の部屋に入るということがどういう意味なのか……
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