3話
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学校から帰ると、家でだらだらと過ごした挙句、約束の時間が迫ってくると急に焦りだした。
オカンと一緒に再婚相手の家に行く予定なのだが、よくよく考えると、どんな服を着て行ったらいいの? そんなことも考えてなかったのだ。
第一印象は大事だよね? かといってこれから一緒に住むにあたって、着飾ったとしても無駄じゃね? ジャージでいいじゃん? とか考えてたウチが馬鹿だった。
ジャージで連れ子とご対面? それはあまりにも失礼極まりない行為では? もしソレでオカンの再婚が破断になれば死んでも死にきれないぞ?
「そんなの、どうでもいいわよ。普段着で構わないから。ジャージでいいでしょ?」
「それはやっぱり人間としてどうなの?」
やばい。今頃になってキた。ジャージで初対面の家族に会うとか、自殺行為じゃないか?
今のウチはチンパンジーと同格に思えて来た。
そんな可愛い服着て出かけたことがないウチにとっては中々の試練だった。
でも、考えても答えは一緒で、着飾ったところで意味はないという結論に達したので、灰色のジャージで出かけることとなった。
ああもう。どうでもいい。
ウチが着飾ろうが、後でどうなるか、知ったこっちゃない。オカンに迷惑かけなければそれでいいだろう?
「で? その親子はどんな特殊なヤツなの?」
「う~ん、説明するのが難しいのよね。会ってみて、その瞬間を目で見ないと信じられないから」
どういうこと?
「まぁまぁ。会ってみて、見てから。考えてみせ?」
なんじゃそら。この様子じゃオカンからロクな答えは返ってこないパターンだと思ったウチはそれ以上は聞かなかった。
「ここで~す!」
「新築じゃないか? ここで……一緒に住むの?」
一軒家で3階建て。建売ではなく普通の一軒家だ。門構えも立派で、ウチらが住んでる賃貸のマンションがショボく見える。
インターホンを押すと、女性の声で「はいは~い」と聞こえてくる。
「はいは~い! 麗華! 来たわよ!」
「はいは~い! いきま~す」
と、短い会話だったのだが、非常に違和感を感じた。
女の人の声? あれ? おかしくね?
だって、再婚した男の家だろ? それに息子が2人だろ?
何で女の人の声が聞こえてくるの? え? 妹? 姉? つまり女の人が同居してる?
そんな事を考えてる間に玄関のドアが開いた。
そこにはどえらい美人が出て来た。
金髪の長い髪はウェーブしててめちゃテカってて、タンクトップからハミ出そうな、たわわな胸がデカ過ぎて、その部分しか見えないほど立派なボディだった。
「麗華ぁ」
「冴子お」
冴子って言うのはウチのオカンのことね。
そんな事なんてどうでも良くなりそうなシーンが今目の前で起きている。
女性同士抱き合ってる。しかもオカンが抱き合ってるとか、何の罰ゲームなんだろうか?
「この子ね。はぁい加奈子ちゃん。初めまして。白峰麗華といいます。よろしくね」
よく分からないけど、愛想笑いで凌ぐ。部屋に入れてもらうのは良いんだけど、なんで女の人がいるのか、それが謎すぎる。
そんでリビングに連れて行かれると、またもや事前情報とは違う光景が広がっていた。
あの? オカン?
どこからどう見ても、女の子じゃないか?
しかも2人? 息子じゃねーだろ?
しかもしかも! むっちゃ美人なんですけど。
まてよ。もしかして。男の娘? そういうオチ?
「あっ……」
何故かウチを見て、見開く女の子。お姉ちゃんぽいポニーテールの美少女だ。
「楓蓮。華凛。こちらが三輪さん。冴子さんと、加奈子ちゃんだ」
金髪の美女が説明すると、オカンも姉妹にお辞儀するので、ウチも頭を下げる。
「加奈子ちゃん。こっちの姉が、楓蓮といいます。妹は華凛と呼んであげてください」
息子の兄弟は? いずこ?
「挨拶しなさい」
完全に騙されたのか?
「三輪加奈子です。よろしくお願いします」
まぁいっか。女の方が気を使わなくてもいいし、ジャージで正解だった。
「じゃあ、冴子さん。楓蓮と華凛に説明してあげてもらえますか?」
「おっけー楓蓮ちゃん。華凛ちゃん。じゃあ私達の能力から教えてあげるわね」
それって、ウチらの特殊能力を見せるのか?
「ある程度は教えてるけど、実際に体験しないとわからないと思うから」
金髪の美女もとい、麗華さんがニコッと笑顔になると、オカンが説明しだした。
「まず、心を読む方法なんだけど、肌と肌が触れると、その人の今、考えてることが分かる。ちょっと試してみる?」
「華凛。冴子さんの手を握ってみて」
妹さんがもの凄く緊張してるのか、震えまくってる。
「すみません。めっちゃ内気なんで」
麗華さんがそう言うと、ゆっくりゆっくり前に出てくる。
「華凛。今日は出前を取るぞ。何が食べたい? 頭で考えてみて」
うん。分かりやすい説明だと思った。
暫くして、オカンはクスっと笑いながら、
「お寿司ね。マグロが好き? たまご? ハマチはお姉ちゃんが好きで、ウナギはみんな大好き。ネギトロとイカも食べたいのね? でもやっぱり大トロがいっぱい食べたいのね。うんうん!」
「よし。頼むか」
麗華さんは笑いながらスマホを弄り出した。
この事態に驚いているのは姉妹だけである。
ウチはもう、わかってたから驚く理由はない。
「もう一つ。面白いことをしましょうか? 華凛ちゃん。今日の学校はどうだった? 新学期。新しい学校でちゃんと挨拶できた? その時のこと。思い出してみて」
あ~コレが一番効くヤツだ。
華凛ちゃんは目を閉じて考えているようだ。
「うんうん。うんうん。なるほどね」
オカンが頷きまくってる。「うんうん。大体わかったわっ」と前置きしてから喋りだす。
「緊張したのね。大丈夫だよ華凛ちゃん。クラスのみんなは優しい子ばかりだから気にしないでいいの。可愛い女の子に声を掛けられたのね? 三つ編みでハキハキした女の子。その子が学級委員になって、隣の席になったのね。あっ。そっか。華凛ちゃんじゃなくて、男の子で凛くんだったわね? 放課後は同じクラスの男の子と一緒に帰ってきた。公園で遊ぼうって言われたけど帰ってきた。そっか。頭が痛くなってきたのね? うんうん……」
「……ど、どうして?」
もう十分だろ。きっと華凛ちゃんしか知りえない記憶を、目の前の人間にすべて読まれたんだからな。
「相手が頭の中で思い描いた記憶も読むことができるの。ただし心の中で想像してもらわないと読めないけどね」
「条件は、肌と肌が触れている時だけ。服の上からだとダメ。密着する必要がある」
ということ。オカンが説明してくれる。
「私たちの身体が密着してれば、普通の人じゃまず欺くことはできない。てもね、慣れて来たら私達を心の中で欺くこともできるかもしれないわよ~」
意地悪っぽい言い方だ。
心を見られている状態で、頭に思い描く思考を欺くというのは非常に難しい。ハイレベルな説明してもしょーがねーだろ。と、思った。
「私達に触れていたら、心を覗かれている。そう思った方がいいわよ。その代わり離れた瞬間から読めなくなるから、読まれたくなければ離れたらいいからね」
そういうこと。
まぁ興味があるヤツだったらいいけど、心を読むのは任意なので、触れてても、読みたくないなら、読まないという選択肢もあるぞ。
「まぁ後は一緒に暮らしていけば分かるだろ」
そういえば、金髪さんママの口調が段々と男っぽくなってる。
「じゃあ次のお話をするね? 憑依の説明もするわね」
「オカン? マジでやるの?」
「もちろんよ。だって私達はこれから家族になるのだから、みんなに覚えてもらわないといけない」
憑依の説明をするなんて……思いもしなかった。
当然、この話を人に教えるなんて、今回が初めてだった。
コレはさおりんにも教えてない。家族だけの秘密。最強の奥義といえる。
「じゃあ麗華」
と、オカンが言うと、
「うん。いいぞ」
と、麗華ママが答える。
「加奈子。一緒に説明してくれる? 今から麗華に乗り移る」
ウチはうんうんも頷いた。
マジで……人前でやるのか……
まぁでも、こればっかりは男じゃなくて姉妹でよかったと思う。
これを男の子の前でやるというのは非常にツライというか……
「今から、麗華さんの身体に憑依します。見ててね」
「私の身体は魂の入っていない状態になるから、崩れ落ちちゃうけど気にしないで」
ウチはすぐにオカンの身体を支える。
こうしないと倒れてしまうんだ。
仮死状態になる。そう言う表現が一番正しい。
「じゃあ行くわよ。乗り移りまーす」
姉妹が真面目な顔で見守る中、オカンは麗華ママに触れると、一瞬だけ身体ビクつかせて、ぐったりしてしまう。
その代わり麗華さんは急にニッコリ笑顔を姉妹に見せつけると、
「はーい。冴子でーす お母さんの身体に入って、自由に動かしてまーす」
ああ、オカンだ。
一生懸命に入れ替わってるのをアピールしてるが、これじゃわかんないだろ。
「オカンさぁ、それじゃ分かんないから。んっとーじゃあ、ウチの生い立ちでも言ってみて」
思いついたように閃いた顔するなよ
「加奈子はねぇ、加奈子はねぇ、とってもツンデレなの! 口では偉そうなことばかり言ってるけど、許してあげてね。根はとっても素直で良い子だから」
「恥ずかしいからそういうの!」
「こんな能力があるからね、随分と捻くれた態度をとってしまう。それはね、いろんな人間の裏側を見て来た結果こうなってしまっただけなの。だけどこの子の優しさと、家族に対しての思いやりは世界一だと思ってる」
「仲良くしてくれたら、加奈子はその恩を決して忘れない。必ず何倍にも返すように、そう教えてきたつもりです。勉強はできないけど、頭の回転は恐ろしく速い。何よりも対人関係に関してこの子は……最強よ」
オカン……なんて突っ込めばいいのか分かんないだろ?
「じゃあ元の身体に戻るわね」
麗華ママの手がオカンに触れると、ビクっと身体を震わせてから数秒。オカンが顔を上げた。
「どう? こんな感じですぅ」
自分のお母さんから、お母さんが知り得ない話をする。これはわかりやすい。
姉妹は見合わせる。目の前で起こった出来事を理解するので必死なのだろう。
「でもこの憑依は、デメリットもある。俺たちと同じように、制限時間がある。俺たちのリミット超過と同じ感覚だ」
俺たちと、同じように?
今度はウチが驚く番だった。
そうなのだ。この麗華ママと姉妹も、何かしら特殊能力があるのだ。
今はまだウチらのターンだが……
もうすぐウチもあんな風にビビリ倒してる未来が見えてしまう。




